第1話 電車にひかれたけど、チート能力で天下を取る。

「なぜだ」


 砂の混じった風が吹きつける


「な ぜ だ」


 この世界、ドリームランドの主権を争う猫渡キャットウォーク砦の戦いは、帝を戴くニャンコ軍の勝利に終わろうとしていた。急襲を受けた戌巣ワンネストはまだ火が残っており、兵糧の焦げたにおいが河となく野となく広がっていく。


「お前は、なんなんだ!」


 僕は、無敵なはずだった。


 誰にも負けないスキルを得たはずだ。事実、10倍の兵力を持つワンコ軍から将兵を寝返らせ、兵糧庫を特定し、急襲を成功させた。10万対1万の戦い、兵糧が尽き、脱走者まで出ていた状態から、ありえない勝利をもたらした。


 このまま、ドリームランドを平定し、スキルのレベルを上げていき、元の世界へ戻る。改めて、僕をにした連中を、やるために。


 そうなるはずだった。それなのに。


「なんなんだよ、お前はぁ!」


 砂塵の中、人影が浮かび上がる。

 

 獣人だけが存在する、このドリームランドで、それは少女の姿をしていた。金色の瞳は無機質で、長い髪は風になびくたび色を変えて輝いて見えた。


改竄チート」!」


 対象――存在せず。


 僕のスキルは、にすることも、にすることも自在の能力。ゲームのチートコードのように、無敵にしたり即死させたり、相手が生き物だろうと兵器だろうと、存在ごと消すことさえできる。


 なのに。


「なんで――」


 何度試しても、エラーを吐く。それは存在していない。僕のスキルはそう言っていた。この金色の目の少女は、スキルの対象外になっている。


 少女は、身の丈を超す長大な銃を持っていた。


 それは魔女の箒のようだと思った。あまりにも機械的で鈍色に輝くそれを、どうして箒と感じたのか。それはきっとだったからではないか。


「フォトン――調整。

 グラビトン――調整。

 ボソン――調整。

 グルーオン――調整。

 フォビック――調整」


 夕焼けが、世界を紅色に染めていく。戦火の跡を感じさせる、埃っぽく金臭い風が吹きつけた。少女の持つ機械的な魔女の箒は、その銃口を僕へと向けていた。


(どこで間違えた?)


 この世界に来て、このスキルを得て、僕ははずだ。

 奴隷階級のと蔑まれ、文字も読めない、獣人ばかりのこのドリームランドで、指揮官に取り入り、軍を率い、こうして大勝利をおさめた。


 丞相じょうしょうと呼ばれる、あの黒猫と出会ったときから?

 北方出身で差別を受けていた、あの少女を助けたとき?

 それとも――


「ライフリング回転開始。

 位相展開」


 僕は――


改竄チート!」


 構造を書き換え、大地を割り、雷を落とし、大河の流れを変えて押し流す。


 そうだ。もう、このスキルは世界構造を書き換えるところまで来ている。たとえ直接は効かなくとも、僕は変わらず無敵だ。こんなスキルを手に入れて、負ける要素は一つも。

 負ける要素は、一つも……。


「修正――開始」


 金色の目の少女は、何事もないように、同じ位置で魔女の箒を構え続けていた。

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