第41話 温もり
――それから1ヶ月。喜久たちは静かな日々を過ごした。
菫もすぐに退院。『村雨と遊びたい』と駄々をこねる官寺を引っ張って連れて帰っていった。
陸と萩花も帰宅。義久たちのことを心配しながらも、仕事があるのでやっぱり帰っていった。
義久はすぐに仕事へ復帰。村雨は何日か休んで幼稚園へと通いだした。海琴もそれに合わせて仕事へ復帰。またいつもの日常へと戻るのだった――。
「――お疲れ様」
「二重の意味でか?」
「そうだよ」
「大変だったそうだな」
「まぁな……もうあんな経験はしたくない」
「はは。その姿を見てると皮肉も浮かばんな」
「……でも誰も死ななくてよかった。母さんもすぐに退院したし。村雨は無傷だったし」
「そうだな。これに
「出してねぇよ。告白されたのを断っただけだよ」
「整形でもしてみたら?なんなら俺がやってやるよ。無免許でいいなら」
「絶対やだ。死んでもヤダ」
軽口を叩けるくらいには回復した義久。その姿をみて岩尾も安心する。安心する――するからこそ。今のうちに言っておくべきだと思った。
「……今日のニュース見たか」
「いや。朝は寝坊してドタバタしててな」
「じゃあ海琴ちゃんも見てないか?村雨ちゃんは?」
「見てないと思うが……どうした?」
バックから新聞を取り出した。机の上に置いて義久の前にスライドさせる。
――雨宮祐希 被告が留置所で自死。
はらわたを掴まれたかのような。嫌な気分になった。同時に――嫌な予感も。
「後味は良くねぇよな。いくらストーカーでも」
「……」
「でも引っ越しをしなくていいのは良かったじゃん」
「……そうだな」
床に
「気のせい……だよな」
――そこから更に数日。義久は眠れない日々を過ごした。
事件は終わったはず。しかし新聞の内容が頭から離れない。文字でしか表されていなかった情報が頭の中で景色として流れてしまう。
狭い留置場。床いっぱいに血で描いた
仕事もこなしてはいるものの、手につかなくなるのは時間の問題であった。しかし相談したところで解決するのか。
海琴や村雨は死んだことを知らないようだ。心配もかけられない。不安なんて
「――頑張りすぎなくてもいいのよ」
「……え?」
酒を飲んでいた時。海琴が言った。
「あれからずっと辛そうにしてる」
「……辛いのは当たり前だ。仕事が溜まってるからな」
「そうじゃなくて。……なにか隠してるでしょ?」
――ドキリと心臓が揺れた。
「別に……」
「……義久」
手を優しく握る。――暖かかった。優しかった。凍っていた心が溶けるかのような……そんな気がした。
「話して。私たちは家族。辛いのはみんなで分かち合いましょ」
「……」
「大丈夫よ。みんながいるから。不安なことなんてない。仮にあったとしても――もう怯えたりなんかしない」
村雨の方に目を向ける。テレビに夢中なようだ。ちょうどアニメの『ハーレムクイーン』を見ていた。
あんなことがあったのに幼稚園にも怯えずに行っている。村雨は強い子だ。それなのに自分は――。
「……そうだよな。俺たちは家族だもんな」
「うん」
決心した。これからは3人――4人で乗り越える。いいことも、悪いことも。
意を決して義久は話し始めた――。
「実はな――――」
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