第39話 束の間の幸せ
「――ちょっと!大丈夫だったの!?」
家に入ってそうそう菫が駆け寄ってくる。
「傷は深くないらしい」
「あぁもう可哀想に……」
リビングでは官寺だけでなく、陸や萩花までやってきていた。とても心配している様子。
「兄貴たちまで来なくてもいいのに」
「可愛い姪っ子が傷つけられたんだ。家でゆっくりなんかしてられねぇよ」
「犯人は捕まったの?」
「いいや。でも警察が動いてくれるって」
「――なら今が一番危険だな」
テレビを見ていた官寺が言う。
「こういう犯人は『どうせ捕まるなら……』なんて考えになる。人間、何もかも捨てると決めた時の行動力は馬鹿にならないんだ」
「え?経験者?」
「なわけあるかい。仕事の関係でそういうの見てんだよ」
気が引き締まるのやら、緩むのやら。ともかく官寺の発言で場の空気が変わったのだった。
結局今日のところは全員で泊まることとなった。何人かは帰らせようとしたが聞かず。喜久たちが根負けする形となった。
というわけで今は全員でリビングでくつろいでいた。目を覚ました村雨は菫と萩花に遊んでもらっている。残りの4人は余り物で作った夕食の鍋をつついていた。
「季節外れの鍋もなかなか美味いな」
「鍋が美味いんじゃない。海琴の料理が美味いんだよ兄貴。そこんとこ履き違えるな」
「あ?昔から兄貴に対する口の利き方がなってないよな。海琴さんの料理が美味いのには同意するが」
「け、喧嘩はよしてくださいよ。子供の前ですよ」
「やらせとけばいいんだよ海琴ちゃん。子供は喧嘩して成長するもんだ。村雨もこのバカ親を見て成長していく。主に反面教師としてな」
「「うるせぇバカ親父」」
なんだかんだホンワカとした雰囲気になっていた。村雨も昼間のことはあまり気にしていないようだ。
「……みんなで集まるのは何年ぶりでしょうかね」
「確か……4年ぶり?村雨が1歳の時だっけ?」
近くにいた村雨の頭を撫でる。
「そういやそうか。しばらく仕事が忙しかったからなぁ」
「あー。思い出した。覚えてるか?最後に
「あーあったなそれ。思い出すとしょうもないな」
「忘れないでくださいよー。なだめるの大変だったんですからね」
「ごめんごめん。結局どうなったんだっけ?」
「萩花が怒った」
「……忘れたままの方が良かったな」
「――どうかしました?」
「いいえなにも」
ビシッと軍隊のように背筋を伸ばす夫2人。顔は
「……こんな状況を喜ぶべきか、悲しむべきか分かりませんね」
「……なんでだ?」
「私には家族がいませんから。家族というのがどんなものが知らなかった私に……居場所をくれた。こんな暖かくて……幸せで……」
「――ほ、ほら。しみったれた話はやめよう。鍋が冷めちまうぞ」
「そうだな。喰おうぜ」
「あぁ、食べよう食べよう」
「……はい」
こっ
「――トイレ!」
「はいはい。ついでに着替えも持ってきちゃいなさい。久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか」
「入る!」
ドタドタとトイレへ走っていく。
「さて――覗いちゃダメよ」
「誰がしわがれた婆さんの裸なんか――あいた!」
呟く瞬間を狙った見事な手刀。あまりの美しさにその場の全員が笑った。
――トイレを終えた村雨は洗面所へ。手を洗って今度は寝室へ。そこのタンスに服が一式しまわれてある。
海琴は
なので電気を付けずにタンスを空けて服一式を掴んだ。
「――?」
子供の神経は敏感だとよく聞くだろう。大人なら分からないことでも、子供は気がつくことがある。これが大人になっても敏感なのを『第六感』だという説もあるようだ。
――村雨は違和感に気がついた。いつも聞こえる音。いつもの空気の温度。それらが少し違う。本当に少しだ。
だが村雨にとってその『少し』が異常に気になった。好奇心は誰にも止められない。今この場に止める人もいない。
電気のスイッチに手を伸ばし。部屋の明かりをつけた――。
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