第24話 信じて
「――おかえリ」
アパートに戻ると海月が出迎えてくれた。
「なにその服」
「勝負服ダ。これじゃないと力が出なイ」
その姿はまさしくラッパー。サングラスに
さっきも
「キチンと食べてきたカ?」
「胃袋が裂けるくらいには」
「セックスは?」
「玉が
「なら良シ。お
全員が入ろうとする――が止められた。
「この子だけダ。お前ラは外で待ってロ」
「――はぁ?」
「どういうことだよ」
「1人の方が集中できるんだヨ。別に変なことはしないサ。人妻はタイプじゃないシ」
「でも――」
「――大丈夫」
時雨がすかさず言った。
「私なら――大丈夫だから」
「……そうか」
「安心しロ。必ず
そう言って2人は部屋の奥へと消えていった。
残った4人は車――ではなく部屋の前に座っていた。やはり心配なようだ。
「……どれくらいかかるんだろ」
「半日くらいじゃない?」
「暇になるね」
「私はずっと待機してますから、3人はどこかで
「すると思います?僕たちが」
「ですよね。そう言うと思いました」
八重と石蕗は笑う。――対称的に光は浮かない顔をしていた。
やはりまだ時雨を疑っているのだ。そのことを
「――八重。何も話さずに聞いてくれ」
「ん?おう」
「光ちゃん。さっきの話をしてもいいか?」
「え……う……」
縦には振らない。当たり前だ。
「大丈夫だよ。別に責めたりはしない。気になることがあるんだよ」
「……わかった」
「なんだよ。どうかしたのか?」
「――光ちゃんと時雨ちゃんが幽霊に
「話?なんの?」
「――『お前が私を殺したくせに』って」
八重が真顔になった。脚を組みかえて真剣に話を聞く体勢になる。
「それともう1つ。昔に時雨ちゃんと光ちゃん、あともう一人が友達に居たそうなんだ」
「言ってたな、そういや」
「光ちゃん
「記憶にあるだけだよ。それも
「俺たちが気にするべきなのはそこじゃないんだ」
「……どういうこと?」
「その子の名前だよ。――雨宮祐希、って名前だ。忘れてなんかないだろ?」
八重の
「時雨の父親を……ストーカーしていた女か」
「え?は?」
「そうなんだよ光ちゃん。俺らが時雨ちゃんの父親が働いていた会社に行った時に聞いたんだ。『時雨ちゃんの父親はストーカーされている』って。その時に聞いた奴の名前が雨宮祐希なんだ」
「……待って分かんない」
「そうだよな。俺らも分かんない」
降り注ぐ雨が一層強くなってくる。まるで『それ以上話すな』と言うかのように。
「だがたまたまなんてもう言えないだろう?」
「でも……じゃあこの記憶は……」
「光ちゃんは時雨ちゃんの父親のことは知ってたか?」
「知らない。まず時雨と初めて会ったのは時雨の両親が亡くなった後だし」
「じゃあ『雨宮祐希』という名前を知ってるのはおかしい。という前提で話を進めよう」
「うん……」
「まず――八重と光ちゃんに共通していることは夢だ。そうだよな?」
2人が頷く。
「八重は変な夢を見たから行動を開始した。光ちゃんは変な夢を見てから時雨ちゃんを疑うようになった。2人とも行動するにも考えるにも夢が原動力になってる」
「そして夢に出てきた女と幽霊は同じだ」
「私は夢に幽霊出てこなかったけど……」
「――それだ」
八重が光を指さす。
「夢っていうのは基本的に内容を覚えていないんだ。そして夢で起こることは実体験をベースにしている。現実で人を殴ったことの無い奴が、夢で人を
「じゃあやっぱり時雨は――」
「違う違う。逆に考えろ。夢で起こったことは実体験しているって思い込んでしまってるんだよ」
「……じゃあ私たちは夢を見せられてるってこと」
「可能性としてはな」
理にはかなっている。そもそも現実味のないことばかり起きているのだ。発想をもっと羽ばたかせる。意外と真実はそんな考えて分かることもあるのだ。
「まぁ時雨が本当に殺したって可能性もある」
「そんな――」
「――でも可能性だ。どうせ確定しない情報なら、俺は時雨を信じる。お前だってそうだろ?」
「……わ……たしは」
――涙が
「八重みたいに……信じれなかった」
「仕方ない。見た夢の内容が違うんだ。俺だって光の立場なら時雨を疑ってたかもしれない」
「でも……」
「ま、泣いたってしょうがないだろ。とりあえず待とう。時雨を信じてな」
「……うん」
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