中章 雨は止むことを知らず
第20話 それの存在
明かりも付いていない自宅へ到着――車も止まらぬうちに家の扉を
「――
うめき声にも似た声がリビングから聞こえてくる。汚れなど気にしない。土足のまま向かった。
薄暗いリビングでは互いに抱き合ったまま座り込んでいる2人がいた。かなり疲れ切っている様子。顔も青くなっている。
「大丈夫か!?」
「……私は大丈夫。ただ時雨が
時雨の足は光の家の時よりも青くなっていた。無理をしたから悪化したのだろう。
「光は動けるか?」
「う、うん」
「じゃあとりあえず時雨にテーピングを巻いて――――」
――ゾクリと。心臓を爪先でつつかれたかのような。不快な感覚がダイレクトに感じ取った。
同時に誰かに見られているような感覚もする。黒くて。気持ち悪くて。悪意に満ちた何かから。
「……
――
「八重!危ねぇだろ飛び出したら!」
「弦之介は時雨を、石蕗さんは光を車まで頼む!」
「車?なんで――」
「ここも嫌な感覚がするんだ!」
――バン。
窓ガラスに手形が付いた。泥のような粘度を持った血の手形が――。
「――早く!!」
嫌な『バン』予『バン』感を察した弦之介と石蕗は言わ『バンバン』れた通りに『バン』2人を『バンバンバン』
八重は『バン』時雨の応急処置を『バンバンバン』するために常備して『バンバン』いた救急箱を手『バンバンバンバンバン』に取った。
「はぁはぁ――――」
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン。
――ドン。
窓ガラスは真っ赤に染まり。そこから白い手が――――。
――出てくる前に八重は走った。廊下を通り抜け、扉から飛び出て、外に止めてあった車の助手席に滑り込むように入る。
「――出せ!」
合図と共に車は急加速して走り出した。窓ガラスから自宅を見る――そこには何事もなく家が
「――はぁぁぁ」
安心感で肩が落ちる八重。とりあえずシートベルトを付ける。
「無事か?」
「無事に見える?」
「……悪い」
救急箱を石蕗に渡した。
「……いや、ごめん。疲れてて」
「お互い様だ。仕方ない。……何があったんだ?」
「――――」
光は家で起きたことを話した。霊が時雨に殺されたと言っていた部分を
「そんなことが……」
「にわかには信じられない……って前までの俺なら言いそうだな」
「お前はそんな頭のいい言葉は使わないだろ」
「うるせぇ」
時雨と光の
「大丈夫だったかい時雨ちゃん」
「……辻先生?」
「久しぶりだね」
「な、なんでここに?」
「叢雲君から話を聞いてね。ちょっとした探偵ごっこの気分だったんだ。それがまさかこんなことに……」
「誰も予想なんてできないですよ。こんなの」
心は落ち着いた。だが困惑は消えてなどいない。
「……これからどうするの?」
「うーん……家には帰れねぇよな」
「帰りたくない……」
「まぁそうだろな。それに……どこへ逃げてもいずれ見つかるだろう」
「――ちょっと聞いてくれ」
全員が悩んでいた時――弦之介が急に喋りだした。
「八重、時雨ちゃんと光ちゃんの話。この俺も『幽霊』っていう存在に会った。そして新聞で見た出来事――もう『幽霊』を否定するのは難しい。少なくとも俺らの中ではな」
「えらく回りくどい言い方だな。単刀直入に言えよ」
「――――いるんだ。俺の友人に霊媒師が」
「「……は?」」
「……頼むのか?
「今はそれしかねぇだろ」
「正気で言ってるの?初めて会う人に言うのは失礼かもだけど――馬鹿じゃない?」
「馬鹿には馬鹿って言ってもいいんだぞ光」
少しイラついた弦之介が言い返す。
「じゃあどうすんだ。警察にでも行くか?『幽霊が出たから助けてください』って。それこそ馬鹿扱いされるぞ」
「それはそうだけど……」
「安心しろ。腕は確か――って
「俺以外に頼りになる友人なんているのか?」
「……くそ。あんまり否定できない」
「――――私は賛成です」
石蕗が口を開いた。
「どうせ警察に行っても相手にされないことは明確。ならばダメ元でも
「……
「あらほらさっさー」
にわか雨は止まず。むしろ強さを増していっている。もうすぐで夏というのに空気は肌寒く。気持ち悪い感覚が5人を包み込んでいた。
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