第19話 最厄
話を聞き終えた3人。岩尾も見送るために外まできていた。
「本日はありがとうございました」
「いえいえ。私も懐かしい話ができて楽しかったです」
「また機会があったらお食事でもどうですか?」
「いいですねそれ」
石蕗と岩尾が話している最中、八重と弦之介はヒソヒソと話をしていた。
「……偶然とは思えないよな」
「この歳になって幽霊を信じるとは思わなかったぞ」
だが――夢で見た女、
今までに起きた全てを『たまたま』で片付けられるほど『偶然』という言葉は万能じゃない。
「謎が段々と解けてきた気がするぞ」
「でもよ……やっぱり危ないって」
「お前それしか言えないのか?」
「ヤクザとか借金取りなら怖さを細かく説明できるぞ?でも幽霊は初めての経験だからさぁ……」
「そっち説明できるのも十分怖いぞ」
話を完全に終えた3人は車へと向かう。
「それではまた――叢雲さん」
「はい?」
振り返る。
「時雨ちゃんに伝えてください。『君のお父さんは君のことを愛していたよ』って」
「……分かりました」
2人は頭を下げ、それぞれ違う方向へ歩いていった。
「はぁ……はぁ……」
会社へ戻る岩尾――その姿はどことなく苦しそうだった。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。ちょっとクーラーが強すぎたかな。まだ6月なのに付けたのが悪かったのかも」
顔見知りの警備員と話をしつつ階段に脚をかける。
(気分が……悪い。なんだこれ……?)
吐き気。頭痛。呼吸もしにくい。心臓の鼓動もいつも以上に速い。恋をしているわけでもあるまいし。
風邪でもないのに喉に違和感。視界も度の合っていない眼鏡をつけているようにブレブレだ。
(あ――やば――)
――岩尾は階段の途中で吐いた。
「げぇ……なんだ――」
――
「え……あ……?」
――また吐いた。また血だ。だが今回は血だけではない。黒い――羽。まるでカラスの羽のような――。
考えた
「ぐぉ――!?」
頭はパニックになった。体は
「え――岩尾さん?岩尾さん!!??」
警備員が駆けつける。一番下まで落ちた岩尾。頭からは大量出血。腕や足は折れている。誰がどう見ても重症だ。
「す、すぐ救急車呼びますからね!」
セミロング。細身。昔に見たことのある女の姿。いるはずのない女は岩尾にゆっくりと近づき――笑った。
「あはははははははははははははぎゃははははははははははははははははあはははははははきゃははははははくははははははははははははははははははははああははははははは!!!!!」
「――?」
弦之介の運転している車にて。3人は次の目的地を考えていた。
「で?どうするよ。次の目的地」
「ん、おう――次ねぇ……いい情報は手に入ったけど……もう行くとこがないな」
「今、時雨ちゃんはどこに?」
「友達の光って奴のところに預けてます」
「……そろそろ時雨ちゃんのところに帰っては?心配してるでしょうし」
「それもそうですね。石蕗さんもどうですか?」
「私はいいですよ。邪魔しちゃ悪いですし」
「邪魔だなんてそんな――」
――八重のスマホが震える。電話だ。
「誰だっと――時雨?」
――不安がよぎる。すぐさま電話に出た。
「どうした時雨!?何かあったのか!?」
『……うん』
「今どこだ!?」
『私たちの家……』
「すぐに行く!光は!?」
『一緒に居るよ』
「よし。すぐに行くからな!安心して待ってろ!」
『分かった……』
電話を切る。
「弦之介――!!」
「分かってる!法定速度の部分は目をつむれ!」
「石蕗さんあの……」
「問題ありません。すぐに向かってください!」
「頼んだ弦之介!」
法定速度など完全無視。信号はたまたま全て青だ。軽自動車を追い越しながら、車は加速していく。
(時雨……何があったんだ――!?)
心配する八重。その横を――カラスが通り過ぎた。それに気がつくものは誰もおらず。しかし全員が嫌な予感をしていたのだった。
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