第13話 狂気と疑問の狭間で
「本日はどのようなご要件で?」
「少し聞きたいことがあって。青谷時雨さんってご存知ですか?」
「――はい、知っていますよ。なんなら私が担任でした」
「え!?本当ですか!?」
思ってもみない収穫。目の前に
「時雨は――」
「待ってください。まず
「あーそうだった忘れてた。私は
「付き
「これが
左手の薬指にある指輪を強調しつつスマホを見せる――
「へぇ……時雨ちゃんが結婚か……」
「時雨はどんな子だったんですか?」
「静かでいい子でした。口数は少なかったけど……いつも周りに人がいた。孤立はしていませんでしたね」
同じだ。光が言っていた時雨の人物像と同じようなことを言っている。この場でわざわざ嘘をつく理由もないし、多分本当のことだ。
――ならば
まさか心の底で時雨のことを――そんなわけがない。確信して言える。
「……それともう一つ」
あと1つ。時雨の祖父母の家でのことだ。ここへ来たのは時雨の過去の幻覚を見たから。あれが本当の過去ならば――。
「時雨はここに最初から居たわけではありませんよね?」
「はい。4年生の時くらいに転校してきましたね」
「……その時の家族構成って」
「確か……お姉さんと2人暮らしでした」
――確信した。家で見たものは本物の景色だ。本物の時雨の過去だ。
「じゃあ今までの夢は……」
何も分からない。頭がこんがらがってきた。今までのは偽物か。偽物ならなんであんな夢を見た。そもそも家でなぜ時雨の過去の記憶が――。
「――あの。時雨ちゃんは元気にしていますか?」
石蕗の声で思考が少しクリアになった。
「え、あぁ、元気……です」
「そうですか。良かった……あの子、前にも家族を失った時、自殺しようとしてたんですよ」
「――え」
八重が聞き返す。
「詳しく教えてくれませんか?」
「いいですよ。あの子が小学校を卒業して1年くらいかなぁ――」
石蕗の仕事が終わり、家へと帰宅していた時のこと。
いつも通っている交差点まで来た時に石蕗は時雨を発見した。「こんな夜中に何をしてるのだろう」と思った矢先――道路に時雨が飛び出した。
トラックと衝突する寸前。
「――何をしてるんだ!?」
「な――なんで――」
「なんでもかんでもあるか!何があったんだ?先生に言ってみなさい!いじめられたのか?それとも――」
「――うぅぅうああああっっっ!!」
「――そうしてひとしきり泣いた後にどこかへ行っちゃってね。もう心配だったけど……無事で良かったよ」
石蕗の顔は優しく。本気で心配をしていたようだった。この人も時雨のことを心の底から想ってくれている。短い
「あの……実は――」
八重は本当のことを話した。時雨の
最初は
「……」
「信じられませんよね。僕も頭がわけがわかんなくなってて」
「――時雨ちゃんのお姉さんが死んだことは知っていますか?」
「知りませんでした。……まぁ今までのことからして何となく予想はついてましたが」
「ちょっと待っててください」
石蕗は一旦
「学校はですね、工作とかでよく新聞紙を使うんです。だから古いのも長く取ってましてね。――これは時雨ちゃんが自殺しようとした次の日に出された新聞です」
渡された新聞を2人で見てみる。
『アパートの一室で変死体発見』
徳島県
記事の内容は上記の通り。誰がやったのか。凶器は。まず殺人事件なのか。その全てが謎ということが書かれてある。
異様。異常。表す言葉は数あれど、それらは口から出せない。
――似ていた。この前の陸と萩花の死と。誰が、なぜ、どうやって。これら一切が不明な点が。
殺され方の違いから、事件同士の関係は一見なさそう――されども本能的に八重と弦之介は同じ奴の仕業だということに気がついた。
「……弦之介」
「……なに」
「俺たちは何か……ヤバい所に踏み込もうとしてる気がするんだが」
「……
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