第9話 過去への旅路
ポツポツとにわか雨。神様が怒っているような
「雨か……」
車の窓から空を見上げながら八重は
「なぁ八重。道の駅寄っていいか?トイレしてぇ」
「いいぞ。俺も
時雨を光に預けて八重は時雨が長く住んでいたらしい祖父母の家へと向かっていた。場所は徳島県の
平日だからというのもあるが人はかなり少ない。数少ない住人もほとんどが老人。これでは将来が心配になる。
「……静かだな」
缶コーラを飲みながら
「ここで時雨は育ったのか……」
光と電話していた時。八重は時雨の実家の住所を聞いていた。
「
『徳島なんてどこもそうでしょ』
「違いないな。明日行ってみるよ」
『時雨はどうするのよ』
「頼んだ」
『頼んだって……』
「時雨も俺ばっかより、付き合いの長い
『まぁ私も会いたいけどさぁ』
「……本音を言うとな。時雨のことが嫌になったわけじゃないんだが、流石の俺も介護は疲れるんだよ」
『船乗りなのに?』
「船乗りでもだ」
電話の奥で光が笑う。
『倒れられる方が困るしね。わかった、いいよ』
「ありがとう、本当に助かるよ」
『気おつけてね』
「おう。警察にバレないように不法侵入してくるよ」
『そっちもだけど――なんか嫌な予感がするの』
嫌な予感など当たり前。これからいい事が起こるわけがない。覚悟はとっくにできている。
「――おーまた」
「うぃ」
――
「というかさー。そろそろ教えてくれよ。どこに行くんだ?」
「時雨が昔住んでいた家だよ」
「時雨ちゃんが?」
弦之介の車に乗り込みながら話す。八重は
ちなみに徳島県には電車がない。……だからどうしたって話だ。
「なんで?」
「ちょいと気になってな。時雨は昔のことを話したがらないし。今の状況で昔の話なんかしてみろ。また包丁を首に刺しかねん」
「そもそもなんで時雨ちゃんの昔を知りたいんだよ」
「……夢を見るんだよ。時雨の過去っぽい夢」
「ふぅん……どうせ今日は暇だったからいいけどよ」
壁スレスレで右にハンドルを回す。重力と恐怖が
「……もうちょっと安全運転で頼む」
「文句言うな。これがロックってやつだ!」
「『ロック』はなんにでも使える便利な言葉じゃないぞ」
道の
「――ここが、か」
――崩れそうな屋根。
手入れもされてないので庭は草だらけ。どれもこれも八重の腰までの長さはある。
「よし」
軽い準備体操をして
「ちょ、お前なにしてんだ!?」
「家に入るんだよ」
「それって不法侵入ってやつじゃないか?」
「うん」
「は、犯罪じゃねぇか……」
「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」
地面に飛び降りる――嫌な感覚が足から脳へと伝わった。
「うぇ……土が
――それだけじゃない。嫌な感覚は足だけじゃない。背筋が凍るような。まるで誰かに見られているかのような。
「――ふぅ!」
「行くぞ弦之介!」
「ま、待てよ八重。やっぱり危険なんじゃ……?」
「なんだよビビってんのか?」
「ビビってるって言うか……なんというか……」
「こういうのも『ロック』だろ?」
「……はぁ。分かったよ」
弦之介は
「運動不足め」
「うるせぇな」
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