前章 大雨。そして豪雨
第7話 死の大海嘯
――陸と
陸の同僚がたまたま家に来たことにより死体が見つかった。死因はどちらもショック死。萩花は腹部を何度も刺されて、陸は顔面を何かで貫かれて死亡していた。
部屋には誰かが入った
かと言って自殺か、と問われれば首を横に振る。どちらも死体の
最期に会ったであろう八重と時雨はもちろん事情聴取をされた。しかし2人ともアリバイあり。動機もなし。すぐに解放されることとなった。
しばらく調査は続けられたが成果はなし。ニュースも違う話題へと移り、人々の記憶から薄れてゆくのであった。
「……」
「……大丈夫か?」
「……うん」
時雨は首を縦に振る。――そんなわけがなかった。
そんな時雨を
「ただいま」
買い出しから帰った八重。――返事がない。嫌な予感がした八重はリビングへと走った。
――時雨は自分の
「…………」
「――時雨!?」
すぐに
「や、八重……わた、私、私……」
「大丈夫だ。大丈夫だ。俺がいるから安心しろ」
「うぅぅぅあああぁぁ…………!!」
へたりこんで泣きじゃくる時雨をそっと抱きしめる。
「大丈夫だよ。俺がいるから。俺は死なないから」
泣いて。泣いて。泣きじゃくって。子供のように泣く時雨をひたすら抱きしめ続ける。
――その後ろに黒い影のような物が見えた……気がした。
「……」
気の
――その日の夜。八重は不思議な夢を見た。
赤い部屋。壁のいたる
部屋の中心には幼い少女が。年齢は13歳ほどか。髪の綺麗な……見覚えのある顔をしていた。八重は直感的にその子が『小さい頃の時雨』だと分かった。
「違う――違う」
「……」
八重は幼い時雨に近づく。
「違う。こうじゃない。違う。これじゃない」
「……時雨。何やってるんだ?」
「ん――?」
――死体だ。死体だった。2人分の死体。片方は腹部を切り裂かれ、片方は顔面が確認できないほど
時雨の手には血がべっとりと付いた包丁。よく見ると時雨の全身に血がへばりついていた。
思わずぎょっとする八重。固まっている八重に幼い時雨は言った。
「違うんだよ。これじゃないの。こうじゃないの」
「ち、ちが、違うって……どういうこと……!?」
「私たち家族でしょ?家族なら中身も一緒のはず……なのに。違う。違うの」
時雨は悲しそうだった。――それで
「――八重。貴方も私と家族になるんでしょ?なら一緒……だよね?」
時雨は立ち上がる。まだ幼い体を動かして八重の元へ。
「時雨……」
「ねぇ。一緒。だよね。だよね。だよね?」
ゆっくりと。ゆっくりと。包丁を――。
『――
――後ろ。
『
――ゾワリと鳥肌が立つ。
『
――女が出てきた。年齢は
『
時雨は――女を見て笑った。
「また出てきたの?しつこいよ。死んだくせに」
『……』
「あぁ死んだんじゃなかったね。――殺されたんだったね。私に」
「――――――っっははっっ!!??」
起き上がった。時間は深夜3時。隣では時雨が眠っている。八重の声では起きなかったようだ。
「はぁはぁ…………」
雨にでも打たれたかのような汗の量。
「なんなんだよ今の……」
そうして――思い出した。今さっきまで見ていた夢を。あの異常としか言えない夢を。
時雨が殺した?誰を?なんで?そもそもあの女は誰だ?……疑問が尽きない。絶え間なくやってくる疑念に八重は頭を抱えた。
「疲れて……るのか?」
疲れている。それなら納得――にしても
だが夢というのは自分の心を映し出しているとも言う。ということはつまり――。
――八重はすかさず自分をぶん殴った。思っていたより強かったようで、鼻血を出したことに自分でも驚いていた。
「ぶっ……くそっ。なんてこと考えてるんだよ俺」
自分への
八重は鼻血を拭いて布団をかぶった。隣で寝ている時雨の
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