第3話 最高の祝い
「――おかえりなさい」
甘い声。優しい声。柔らかい声。聞くだけでフワフワと
家に帰る度にそんな声が聞こえてくる。幸せだ。とても幸せだ。幸せを
「……どうしたの?」
「なんでもない。ただいま」
小柄でホンワカとした雰囲気。髪は肩にかかるくらいで
「今日ね、美味しそうなラーメン屋見つけたんだよ」
「へぇ、どこ?」
「
「あそこに入った店すぐ潰れんじゃん。ほんとに美味しいの?」
「
なだらかで。穏やかで。静かで。綺麗で。なんてことない会話が今も楽しい。
これからの事を考えると楽しくなってくるのは
そんなことを考えつつ、時雨の前にとある雑誌を広げた。
「結婚式ここなんてどうだ?」
「ここ?」
『
「
「よさそうだろ?時雨は
「……うん。そうだね」
「ならここが最適だ」
落ち着いた時雨にとっては最適な場所。ちょっと
ただ結婚式には
別に時雨が気にしないならいいのだが、それで気まづくならないのか。そこだけが心配である。
(あんまり昔のことは話そうとしないしな……)
過去に何かあったのだろうか。
「どうせ古風なとこでするんなら
「――」
……何かがあったとしても。今この瞬間の時雨が楽しそうなら。それでいい――。心の底からそう思った。
青い閃光。黄色の閃光。赤い閃光。真っ暗で広くもない会場。
ライブハウス『ファイティングポーズ』に八重と時雨は来ていた。うるさい所は苦手なようで、時雨は目を
『
八重と時雨の結婚を祝ってのライブ。いつにも増して気合いが入っている……気がする。気合いが入ったところでお客さんは多くはないが。
「無理して来なくても良かったのに。アイツだって怒りゃしないぞ?」
「私たちのために開いてくれたんだし、私が行かないと失礼だから」
「……無理だけはするなよ」
「うん」
正直なところ、歌はそんなに上手くない。ギリギリ金を取っても許されるくらいだ。歌詞も普通。自分たちの為に歌ってくれているとはいえ心に響くことはない。
それでも『嬉しい』という感情は何よりも勝る。ペンライトを振り回したり、声を荒らげたりしないものの、八重はこの場にいる誰よりも楽しんでいる自信があった。
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