第4話 我が友

「やぁー我が友よ!」


ライブも終わり、数少ないファンを見送りながら、弦之介は歩いてきた。


「楽しんでくれたかー?今回はお前と時雨ちゃんのために歌ってやったんだからなぁ」

金には見合ったな」

「おいおい――めたってプレゼントはまだだぞー!」

「え?めてるの?」

「お、時雨ちゃーん。結婚おめでとう!悪いけど御祝儀ごしゅうぎは用意出来てないんだよね」

「それは無理しなくても大丈夫ですけど……」


モヒカンかのように逆上さかあがっている金髪。お世辞せじにもいいスタイルとは言えない体。見た目からしてダメそうなこの男が沖見弦之介おきみげんのすけである。


「というより俺らのために歌ったって言うんなら、チケット代くらい無料タダにしてくれよ」

「いやぁ……分かるだろ?カツカツなんだよ」

「今度は何でスったんだ。馬か?船か?それとも玉か?」

「かっこよく言うなら――電子世界への放散ほうさん


スマホを見せる。……Foreign Exchange外国為替証拠金取引。要するにFXである。


「……お前それFXじゃねぇか」

「そうだけど」

「そうだけど、じゃねぇよ。初期投資はいくらだ?」

「50万」

「今なんぼ?」

「2万」

「ぼろ負けじゃねぇか」


てへぺろ、と舌を出す弦之介の頭をはたく。


「金無いやつが投資なんてするなよ。金はどうやって作ったんだ?この前は『貯金20円しかない』とか言ってただろ?」

「俺を誰だと思ってんだ?土下座どげざの天才だぞ?」

ほこって言うな馬鹿」


胸を張っている弦之介の頭をもう一度はたく。


「どーすんだよこれから」

「あの……御祝儀ごしゅうぎは無理しなくても」

遠慮えんりょすんなよ。友達の結婚式に金を持ってこない奴がどこにいんだ?」

「結婚式の前にやることあるだろ。そろそろほんとに漁船乗らされるぞ」

「マグロパーティ……だな」

「楽観的もここまで来ると病気だな――店長さーん!」

「――はーい」


――奥から出てきたのは金髪ロングの女性だ。耳に唇、口を開けると舌にまでピアスを付けてある。なんというかロックな人だ。


「こいつに何万貸したの?」

「10」

「……今回こそは立て替えないからな」

「またまたぁ。そんなこと言って」


店長が八重の肩をツンツンする。


「前回もそんなこと言って結局立て替えてくれたでしょ?もう一周まわって弦之介に金を貸すのを信頼してるわよ」

「流石に怒りますよ」

「あはは、ごめんごめん」

「いつもありがとうな八重!」

「店長さん。マグロ漁船……闇医者を紹介してください」

「まて、誰の内蔵を売るつもりだ!?」

「内蔵じゃねぇよ。全部だよ」

「待ってくれ!せめて漁船!漁船の方にしてくれ――――」




――ライブの帰り道。オレンジ色にまっている夕焼けの道を2人は歩いていた。


「ライブどうだった?」

「楽しかった。うるさかったけど」

「そういう場所だからな」

「――弦之介さん面白い人だったね」

「一緒に居るならね。時雨はあんなのと付き合いは持つなよ」

「あはは。でも私友達ほとんど居ないから、あんな人とも友達になりたいな」


何事もなく笑っている時雨。少し悲しそうな顔をして八重は口を開いた。


「……夕食。食べてくか。何がいい?」

「八重の好きなところでいいよ」

「じゃあ『にじゅうまる』で」


『にじゅうまる』とは近くにあるうどんのチェーン店だ。割とリーズナブルで美味しい。


「あ、そうだ。明日は何時にする?」

「……何時って?」

挨拶あいさつだよ。まだ行ってなかったでしょ?」

「――そうだった明日だった。まだお義父とうさんとお義母かあさんへの贈り物も買ってないぞ」

「じゃあご飯食べた後、買いに行こっか」

「あぁ……憂鬱ゆううつだなぁ……」

「私も一緒にいるから大丈夫だよ」



ここから徒歩とほ30秒。オレンジ色の看板かんばんにあともう少しでたどり着く。早くカロリーを摂取せっしゅしたい。喉へめんを流し込みたい。


そんなことを考えていると――ふと八重の瞳にある物が写った。


――それはカラスの死体。車にでもかれたのか。それとも猫におそわれたのか。どちらにしても珍しい。カラスは頭がいいので人の目に付く場所では滅多めったに死なないのだが。


「……どうしたの?」

「いや……なんでもないよ」


なにか悪いことの前触れか。嫌な妄想を抱えながら店へと足を踏み入れた。

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