第6話
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駅から少し離れたところにある飲食街。
時間が遅いため人通りはまばらだが、一部の居酒屋では仕事終わりのサラリーマンやOLたちの騒がしい声が響き渡る。
その中に、酔いが回りふらふらになりながら駅へと向かおうとしていた男が、一人の綺麗な女とすれ違う。
「ん? めちゃくちゃ可愛いじゃん! ねぇ、ちょっとそこのお姉さん!」
男が声を掛けると、女は振り向く。
店と店の間の狭い路地裏。
周りが建物に遮られているため、先ほどの喧騒はわずかしか聞こえない。
そこに先ほどの男が女を連れこんだ。
「君、本当に可愛いねぇ~。名前はなんていうのかな?」
「……ユヅハ」
「ん? ごめん。酔っててよく聞き取れなかったよ。もう一度教えてくれる?」
「……ユヅハ」
「ユヅハちゃんっていうんだ! 名前まで可愛いんだねぇ」
女はずっとうつむいたまま。
優しさを偽っていた男の目が、次第に爛々と不気味に光る。
「ねぇ、大人しく付いて来てくれたってことはさ、OKってことでいいんだよね?」
男の鼻息が荒くなっていく。
それでも女は無反応。
男の手が女の胸に近づく。
そして、触れようとした瞬間、
「ゔぉっ!」
男は急に苦しそうなうめき声をあげ、その場にうずくまる。
男の着ていたスーツの腹部が赤く染まりだし、次第に広がっていく。
「ぐっ……なんで……」
女の方を見上げると、その手には血の付いたナイフが握り締められていた。
男の視界からだと、女の顔は陰に隠れてよく見えない。
しかし、黒のワンピース姿と血の付いたナイフという異色の組み合わせに、男の理解は追い付けていないようだ。
「……」
女は依然として無言のままだが、うずくまる男に近づく。
「ぐ、ぐるなぁ!」
男の叫びは誰にも届かない。
必死に逃げようとするも、ただ後ろに倒れ込むことしかできない。
出血量的に、もはや助からないだろう。
それでも女は持っていたナイフを振り上げる。
そのとき、
「武田さん……?」
女子校生くらいの女の子が、ナイフを持った女を呼び止めた。
女は、女子高生の方を向く。
「武田さん……。何をしてるの? それに……」
女子校生は何かを言いかけるが、一瞬の間が空く。
まるで時が止まったかのように周りの音も消える。
そして、女子校生の口が開いた。
————どうして朱宮さんの恰好をしてるの?
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