第4話

 放課後。帰り道にて。


「また担任、ゴリ林だし。せっかく柊と同じクラスになれて嬉しかったのに、ちょっと憂鬱だよ」


 担任の先生は、一年生のときと変わらず、大林先生が担当することになった。体育教師でバスケ部の顧問でもある。

 その風貌は、あだ名の通りゴリラのような見た目をしている。


「大林先生、好きじゃないの?」

「うん。だってあの人、絶対生徒を変な目で見てるって! ときどき寒気が走るもん」

「そうかな。ボクはそう感じたことないけど」

「それは柊だからだよ。女と判断したとたん、目つきがギラついてるというか、一言でいえばいやらしい。あー、やだやだ」

「さすがに手は出さないと思うけど、結葉がそう感じるならきっとそうなのかもね」

「そうそう! しかも、これは柊にも話したことがなかったんだけど、一回だけ先生の家に呼ばれたことがあるの」

「えっ、なんで?」

「よく分かんない。まだ転校して間もなかった頃だし、慣れるためにもまずは先生と話そうか的なノリだったけど」

「……何もされなかったんだよね?」

「もちろん。でもそのときからだよ、変な目で見てくるって感じたのは」

「そうだったんだ……」


 一担任が生徒を自分の部屋に呼ぶなんて怪し過ぎる。

 まだ独身みたいだし、結葉をそういう目で見てもおかしくない。

 何事もなかったみたいだから良かったけど、警戒はしておこう。


「すぅ~はぁ~、でも、空気がおいしいから今日のところは許してやろう」


 そう言いながら大きく深呼吸。

 お世辞にもそこまで大きいとは言えないが、背中を反ることにより女性特有の部位が強調される。

 ダメだ、ダメだ。変なことを考えてちゃ。


「空気がおいしいっていうけど、福岡はどうだったの?」

「少し移動すれば自然もそこそこあるんだけど、私には合わなかった。やっぱりここみたいに、すぐ近くが田んぼで囲まれて、人通りも少ないのが一番好きなのかも。近くに行けば大きなショッピングモールもあるから買い物には困らないし」

「ボクもこの場所自体は気に入ってるから嬉しいよ」


 ボクたちが今歩いているのは、舗装されたアスファルトの道路だが、左右は田んぼや畑で囲まれている。

 今はまだ田植えの時期ではないため土だらけだが、風が運んでくる香りは、どこか身体を落ち着かせてくれる。


「コンビニでお菓子も買ってきたし、ゆっくりしよ!」

「うん、でも毎回ボクの家に来てもらうのはなんか悪いよ。学校からの距離的には結葉の家の方が近いんだし」

「いいの。私は柊の家の方が好きなの」

「ボクは楽だから良いんだけどさ」

「あ……」


 急に立ち止まる結葉。

 見つめるその先には、道端で数人が群がっていた。

 その中心を確認してみると、


「猫が車に轢かれちゃったみたいだね。可哀想に……」

「そうだね」


 見るも無残な姿でいる猫に同情したボクであったが、結葉からは思いのほか素っ気ない返事が返ってきた。

 思わず質問する。


「可哀想って思わない?」

「どうだろ。でも、どうせ生き物は死ぬんだから、あの猫にとっては車に轢かれるまでが寿命だったってことじゃないの?」


 そう語る彼女の目はどこか虚ろだ。

 目の前で死んでいる猫というよりも、もっと別の何かを見ているかのような感じだった。

 その表情のまま彼女は言葉を続ける。


「死んだら何もかも解放されるのかな?」


 どういう意図でその質問をしたのかは分からなかったが、ボクにはその答えを出すことはできなかった。

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