第15話

「えっ⁉︎」


 何を言い出すかと思えば男の宏樹に着替えを手伝って欲しいと晶はいう。


「そ、そんなことできるわけないだろ?」


「身体がダルくて上手く動けないの……私は大丈夫だから」


 ――晶が大丈夫でも俺は大丈夫じゃないんだけど⁉︎


「お願い……」


 熱で意識が朦朧としているようだが冗談なのか本気なのか分からなかった。


「い、いいのか?」


「うん……」


「分かった……」


 宏樹は晶の辛そうな姿を見て覚悟を決め、ベッドを囲っているカーテンを全部閉めた。


「そ、それでどうすればいいんだ?」


 とはいえ、女子の制服など脱がしたことの無い宏樹にはどうしていいのか分からなかった。


「制服の脇のファスナーを下げて」


「こ、こうか?」


 学校の保健室で背徳的な行為をしていることで緊張し、宏樹は唾をごくりと飲み込み喉を鳴らした。


「そう……あとは頭から脱ぐだけだからお願い」


 晶は宏樹に上を脱がせろと言わんばかりにバンザイし両手を上げた。


 ――い、いいのか……い、いや……晶が良いと言ってるんだ躊躇するな。


 宏樹は晶の制服の上に手を掛け頭からスッポリと脱がせていく。


 すると制服の下は下着以外は付けておらず、可愛い柄のブラジャーに零れ落ちるほど大きな胸の膨らみが、脱がした制服に引っ掛かりブルンと揺れた。


 ――ッ! で、デカイ……そ、それに……なんて綺麗な肌なんだ……


 晶の肌はシミひとつ無く、ツルツルでハリがありいかにも健康そうで、その大きな胸と肌に宏樹の目は釘付けであった。

 宏樹は見てはいけないと理性ではいっているが、本能が目を逸らすことを拒否している。


「下もお願い……」


 熱で意識がハッキリしてないとはいえ、晶は腕で顔を覆い恥ずかしそうにしている。


「ええっ⁉︎ 下もやらなきゃダメ?」


 さすがの宏樹も下を脱がすのは躊躇してしまう。だが当の晶はコクンと頷いた。


「そ、それじゃ脱がすぞ……」


 意を結した宏樹はファスナーを下ろし、スカートに手を掛ける。


 ――本当にいいのだろうか? ここは学校だぞ? 見つかったら……


「はやく……お願い」


 潤んだ瞳で懇願され宏樹の葛藤は脆くも崩れ去った。


 スルリとスカートを下げると、それに合わせて晶は腰を浮かし、脱がしやすくしてくれた。


 膝までスカートを下げると、ブラジャーとお揃いの柄の下着が宏樹の視界に入り、柔らかそうな肉感のお腹周りと太ももが宏樹の脳を刺激した。


 ――綺麗だ……


 スカートを脱がし下着だけの姿になり、ベッドに横たわっている晶は美しかった。

 晶は全身がほんのりと紅潮し、熱のせいなのか、恥ずかしさから赤くなっているのか分からなかった。


「……下着も脱がしてみる?」


 晶の裸体に近い姿に見惚れていると、晶がとんでもなことを言ってきた。


「そ、そんなことできるわけないだろ⁉︎ か、揶揄わないでくれ!」


 さすがの宏樹もそこまでする勇気もないし、ジャージに着替えるのが目的であれば下着を脱ぐ必要なない。


「前に私のパンツ脱がしたじゃない……」


「そ、それは子供の頃の話だし……不可抗力だよ」


「じゃあ……今度はひろくんの意思で脱がしてもいいよ……」


 晶は熱で自分が何を言ってるのか分かっていないのかもしれない。そうでなければここまでする意味が分からない。


「どうする……?」


 ――見てみたい


 可愛いリボンの付いた下着で隠された晶の秘密の部分を見たい。宏樹はそう思ってしまう。健全な男子なら誰でもそうだろう。


「い、いいのか……?」


 晶は顔を隠しながらコクンと頷いた。


 宏樹はゴクリと唾を鳴らし晶の下着へ手を掛けた――


『あれ? 誰かいるのかな?』


 突然、保健室の扉が開く音がし、保健の先生と思われる女性の声が宏樹の耳に届いた。


『誰かベッド使ってるの?』


 晶の寝ているベッドを囲っていたカーテンの一部が開かれ、保健の先生が覗き込んできた。


「あ、体調悪くて寝てたの?」


 先生の声が聞こえた瞬間、咄嗟に布団の中に潜り込んだお陰で下着姿の晶を間一髪見られずに済んだ。

 着替えのジャージは晶と一緒に布団の中だ。保健の先生はベッドの上に放置したままの制服を一瞥した。


 ――し、心臓が止まるかと思った……


 とはいえ、晶は布団の中は下着一枚であり、見られれば何か疑われる可能性もあり宏樹は心臓がバクバクと鼓動し生きた心地がしなかった。


「み、宮古さんが熱があるみたいなんです。き、着替えは勝手に使わせてもらいました」


「そう、熱は計ったの?」


「い、いえ体温計がどこにあるか分からなくて」


「そう、今持ってくるから待ってて」


 保健の先生はベッドから離れた。


『あら? 体温計が……あ、さっき持っていって置いてきちゃったかしら? さっき別の教室で体調悪くなった生徒がいて行ってきたんだけど置いてきちゃったみたい。今、取ってくるから君が様子を見ててあげて』


「あ、はい、分かりました」


 そういうと保健の先生は保健室から出て行った。


「晶、今すぐにジャージ着て! さすがに下着姿のままじゃ疑われる」


 さすがにこの状況では下着姿の晶を見てもエロい気持ちは湧かなくなり、宏樹は晶の肌に触れても気にせず慌ててジャージに着替えさせ、制服もハンガーに掛けた。


 その後、38.7℃の熱があり風邪と思わしき晶は早退することになった。


 授業中に晶のあられも無い姿を思い出した宏樹は悶々としたまま一日中集中できず、その日を過ごすことになった。



「あれ? 宏樹くん今日は休みじゃなかった?」


 宏樹がコジマベーカリー二号店に顔を出すとめぐみが不思議そうに尋ねてきた。


「今日、晶は熱があって学校を早退したんだよ。だから出勤だった晶の代わりに来たんだ」


「あ、そうなんだ? 晶ちゃん大丈夫そう?」


「ただの風邪だと思うから大丈夫じゃないかな? しばらく晶のシフトは俺が代わりに入るよ」


「宏樹くん一人じゃ大変だから私も代わりに入るよ」


「めぐみさんありがとう。後で晶のシフト調べておくよ」


「うん、よろしく」



「めぐみさん、そろそろ休憩に入りましょう」


 休憩室に移動した宏樹は晶のシフトを書いたメモを取り出した。


「急なんだけど……めぐみさん明日のシフト入れるかな? 明日は自分も出勤だから晶の代わりに入れないんだよね」


「明日は……七限目まであるから少し遅くなるけど、それでよければ入れるよ」


「何時くらいに来れそう?」


「五時半くらいかな」


「うん、それでいいからお願いできる?」


「任せて! できるだけ早く来れるようにするから」


「慌てて来て事故に遭ったりしたら大変だから無理しないでくださいよ。六時以降の混雑する時間帯までに来てくれれば大丈夫だから」


「子供じゃ無いんだから大丈夫だよ」


「まあ、めぐみさんはしっかりしてるから大丈夫だと思うけど油断大敵ですからね」


「宏樹くんは心配性だなぁ」


「めぐみさんが事故とかに遭ったら嫌ですからね」


「心配してくれるんだ?」


「そりゃ当たり前ですよ。だから帰りも一緒に帰ってるんですから」


「ふーん……優しいね。宏樹くんのそういうところ好きだよ」


「え?」


 めぐみの口からポロッと溢れた言葉に宏樹はキョトンとしている。


「あ……そういう意味じゃなくて……いや、そうなんだけど、その……」


 ウッカリ本音を漏らしてしまっためぐみは取り繕うも、その言葉は支離滅裂で焦って慌てている様子が伺えた。


「う、うん……」


 宏樹もどう反応していいか分からず曖昧な返事を返すだけだった。


「と、とにかく優しいところが宏樹くんの良いところだよってこと!」


 めぐみは何故かキレ気味だ。


「あ、ありがとうございます」


 困惑している宏樹だが、とりあえずは誉められていることだけは分かった。


「そ、それで晶ちゃんの他のシフトはどうなのよ?」


 もうこの話はなかったかのようにめぐみは強引に元の話に戻した。


「ええと、その次の晶のシフトは――」


 休憩時間はめぐみとシフトのことを話し合い、今週いっぱい晶には休んでもらうこととなった。

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