第3話
朝の
HRを終えた白川先生が二人の元へとやって来て宏樹に向けてこう告げた。
『二人の間に何があったか分からないけど、小島くんはちゃんと責任を取りなさいね。先生は聞かなかったことにしておくわ』
物分かりが良い大人みたいなこと言ってるけど教師としてどうなの? と宏樹は思わなくもなかったが生活指導室に呼ばれることなく、とりあえず見逃してもらえるようでホッと胸を撫で下ろした。
一躍、時の人になってしまった宏樹と晶は昼休みになると席の周りをクラスメイトに囲まれていた。いつもの昼休みは瑠璃の周りに生徒が集まってくるのだが、今に至ってはいつもと状況が異なっていた。
「おい、宏樹! お前宮古さんに一体何したんだよ?」
昼休みに入った途端、雄大が我先にと宏樹の元へと駆け付け詰め寄ってきた。
「い、いや俺は何も……」
――何もしてないことはないか? でも……小さい頃のことだし本当のこと言っても問題ないよな? もう時効だよな?
『宮古さん、小島くんに何をされたの? 許せないんだけど』
『ホントホント、宮古さん私たちが相談に乗ってあげるよ?』
晶の周りに集まった生徒達は皆一様に彼女の心配をしている一方で
『小島の奴、女子に興味が無いみたいな感じだったけど裏では酷いことしてるんだな』
『小島くんちょっと良いかなって思ってたけど女癖が悪いなんて幻滅した』
などと宏樹はすっかり悪者扱いされ評判を落としていた。
言い訳したところで女子のパンツを脱がせたことは事実で、サイテーと後ろ指を刺されるかもしれない。黙っていてもコイツだんまりかよと言われるかもしれない。
進むも地獄、退くも地獄の状況に宏樹は頭を抱えた。
「あ、あの……子供の頃の小さい時の話だし私は気にして無いから……その……ひろくんを責めないでください……」
女子生徒に囲まれ萎縮していた晶が恐る恐る宏樹の擁護を始めると、それを聞いた周囲の女子が騒ぎはじめる。
『えー宮古さん本当にそれでいいの?』
『泣き寝入りはダメだよ』
せっかく晶が収めようとしているが、何故か周囲の女子がそれを良しとしていないようだった。
「ほら、宮古さんが困ってるじゃない。本人が気にして無いって言ってるんだからこの話は終わりにしましょう」
遠巻きに事の成り行きを見守っていた瑠璃が晶に近付き助け舟を出してきた。
『久宝さんがそう言うなら……』
『まあ本人が良いって言ってるしね』
生徒たちは納得したのか晶の席を離れ各々自分の席へと戻っていった。
さすが、瑠璃お嬢さまと呼ばれるだけあってクラス内での影響力は大きい。
「瑠璃、助かったよ。ありがとな」
どうしていいか分からなくてオロオロしている晶に代わり、宏樹が瑠璃に礼を述べた。
「宏樹、別にアンタを助けたわけじゃ無いから。宮古さんが困ってたから口を出しただけだから勘違いしないでよね」
瑠璃はラブコメのツンデレヒロインのような台詞を吐きつつ、ゴミを見るような目を宏樹に向け言葉を続けた。
「それに子供の頃とはいえ、女子のパンツを脱がすような男に助けは必要ないわ。反省しなさい!」
「は、はい……スイマセン……」
その様子はさながら貴族に頭を下げる庶民のような絵面だった。
「あ、あの……あ、ありがとうございます」
二人のその様子を見ていた晶は瑠璃の迫力に腰が引けているのか、必要以上に恐縮しているのが分かる。
「別に気にしないで。悪いのはコイツなんだから」
瑠璃はビシッと宏樹を指差す。
「ひろくんと再会できて嬉しくて……つい変なことを口走ってしまった私が悪いんです。どうかひろくんを悪く言わないでください」
晶は瑠璃の迫力に負けじと宏樹の擁護を健気にもしてくれている。
「もう……これじゃ私が宏樹をイジめてるみたいじゃない。分かったわよ……宮古さんに免じて宏樹の罪は不問にしてあげる」
――俺は罪人扱いなのか?
酷い言われようだが、これ以上過去のことは蒸し返されなくて済むようでひと安心だ。
「えと……ありがとうございます。私は宮古晶と言います」
「私は久宝瑠璃。コイツとは幼馴染みなの」
瑠璃は自己紹介しながら宏樹を一瞥する。
「そ、そうなんですか……久宝さんはひろくんと長い付き合いで仲良しなんですね……」
晶は徐々に声が小さくなり元気が無くなっていくように見えた。
「ま、まあ宏樹とは小中高とずっと一緒だし? それなりに仲は良いわよね? ね?」
瑠璃は宏樹に仲が良いことを強調し同意を求めているようだ。
「そうか? 俺と瑠璃は学校であんまり話さないし……まあ、腐れ縁みたいなもんだよ」
瑠璃と特別仲良しだと自覚していなかった宏樹は本音をそのまま口にしてしまう。
「腐れ縁とかヒドくない⁉︎ 腐ってるのはアンタの頭よ!」
そんな宏樹の言葉は地雷だったらしく怒った瑠璃は捨て台詞を残し立ち去ってしまう。
『まったくコイツは人の気も知らないで……』
席に戻るのかと思いきや、瑠璃は不機嫌そうにブツブツと何かを言いながら教室を出て行ってしまった。
「久宝さんとひろくん本当に仲良さそう……」
晶が誰に言うともなくボソッと呟いた。
「え? これで仲良く見えるの?」
晶は無言でコクンと頷く。
「お前さ……瑠璃お嬢さまを怒らすとは良い度胸してるなぁ」
黙って三人のやりとりを見ていた雄大だが、感心したようでいて実のところ呆れているようだ。
「俺、瑠璃のこと怒らせちゃったかな……?」
瑠璃は基本的に宏樹に対して当たりが強く、いつもこんな感じのやりとりだったので怒らせるようなことをした実感が本人には無かった。
「まあ、腐れ縁とか言われちゃな……後でちゃんと謝っておけよ」
第三者である雄大から見れば、怒るのも無理は無いと思わせる発言だったのかもしれない。親しき仲にも礼義ありということだ。
「そ、そうか……後でフォローしとくよ」
付き合いが長いとはいえ二人とも多感な年頃の男と女だ。どこに地雷が埋まっているか分からない。
ヴゥー! ヴゥー! ヴゥー!
宏樹の制服のポケットに入れていたスマホのバイブが振動し、何かのメッセージが届いた旨の通知を知らせてきた。
「げっ⁉︎ ごめんちょっと電話しくる」
「宏樹? 何かあったのか?」
スマホのメッセージを確認した宏樹は一瞬だけ顔を
「い、いや、大したことじゃ無いから」
大したことでは無いと言っていた宏樹だが、その言葉とは裏腹に慌てて教室を出て行く様子から急ぎの用事であることが伺えた。
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