第2話


 銀髪美少女の一件から数日後。


「どうした、幼女戦隊! それでも我が同胞たちを倒してきたヒーローなのか? これじゃあ、このオロバス・オトーフ様には勝てないトフ! トーフッ、トフッ、トフッ、トフッ、トフッ!」


 目の前でトフトフ笑っているのは、豆腐にそのまま目と口が付いただけの悪魔。


「って、なんで今度の相手は豆腐なんだよ! 今まで獣だったじゃん。すごく悪魔っぽかったじゃん! 名前もオロバス・オトーフとか、無理やりすぎるにも程があるだろ! もうちょっと法則性を持たせてくれよ!」

「ちょっとアンタ、何に対してキレてるのよ……」


 杏沙が呆れ顔でツッコミ。

 だってしょうがないじゃん。適当過ぎるんだもん。

 これじゃあ、ヒーロー好きの良い子たちもがっかりだよ……。


「それにしても、あの豆腐の悪魔さん、全然攻撃が効かないですね……」

「だな……。俺のバーニングパンチと一葉のライトニングブレードはあの弾力ではじき返されるし、杏沙の攻撃にいたっては、相手をみずみずしいおいしそうな豆腐にしちゃうだけだし」

「悪かったわね」

「でも冗談抜きで本当にまずいぞ。このまま奴に街中で暴れられたら……」

「トフッ、トフッ、トフッ! このまま街に行って、すべてを飲み込んでやるトフ!」

「くそ……どうすれば」


 このまま万事休すかと思われたそのとき、


「ブレイズブリザード」


 誰かの声が聞こえたと思ったら、何かがピカッと光る。


 そして、


「なんだトフ⁉ 身体が……凍って……動か……」


 オロバス・トーフは一瞬にして全身を氷に覆われてしまった。

 次に氷の矢のようなものが命中し、


 パリンッ!


 粉々に砕け散ってしまった。


「なんだ⁉ 新手か?」


 辺りを見渡すが誰もいない。


 さらに後ろを振り返ると、


「うわっ!」


 綺麗な青い瞳が特徴的の銀髪ポニーテール幼女がそこにいた。

 その表情からは一切の感情は読み取れない。


 この感じ、どこかで見たことがあるような……。


 というか、もしかしてコイツも幼女戦隊?


「お前は誰だ? ダピル、こいつのこと知ってるか?」

「知らないピ。でも幼女戦隊の恰好をしてるし、新斗と同等かそれ以上のYOJOパワーも感じるピ」

「え? じゃあこの子も仲間なの……?」


 杏沙も尋ねるが、銀髪幼女はそれにも応じない。

 変身を解いてもう一度確認する。


「俺は幼女戦隊リトルガールズの幼女レッド、武能新斗だ。お前は一体誰なんだ?」


 依然として無表情のままだが、こちらが変身を解いたのに合わせて、変身を解除してくれた。

 全身が光に包まれ……


「……やっぱりアンタだったのか」


 変身を解除して姿を現したのは、つい先日会ったばかりの銀髪ポニーテール美少女だった。


「新斗、この子知り合いなの?」

「一度だけ会ったことがあってな。杏沙もその反応ってことは、俺が幼女戦隊に入る前でも会ったことがなかったってことか?」

「うん。一葉ちゃんも見たことないよね?」

「……はい。こんな可愛い外国の方がいたら絶対に忘れませんよ」


 二人とも面識がないみたいだ。


「おっ! 他のメンバーの紹介がまだだったな。この人は幼女ブルーの青柳杏沙。それでこの子は幼女イエローの萌黄一葉だ。それで……アンタの名前は?」

「ソニア・シルバッハ。所属はない」


 名前を答えてくれたが、いっこうに眉一つ動かさない。

 人形なのではないかと疑ってしまうほどだ。


「ソニアか。所属はないって……君はどこから来たの?」

「ここではない平行世界から来た」

「違う世界ってことは、ダピルと一緒か?」

「多分違うピ。こんなにパワーがあるなら、ダピルが感知できないはずはないピ。もしかしたら、さらに別の平行世界で力を得てこちらに来たのかもしれないピ」

「そっか。とはいえ、幼女に変身して悪魔を倒すことは一緒みたいだし、これからも仲良く————」

「あなたたちはいらない」

「はっ? いらない? それってどういう意味だよ」

「悪魔や魔法少女を倒すのは私一人で十分」


 それを聞いた杏沙は居ても立っても居られず、


「ちょっとあなた、それどういうつもりよ! あなたは確かに強いかもしれないけど、この先、敵はもっと強くなるのよ? それを一人でやろうだなんて、いつか絶対に壁にぶち当たるにッ決まってる! でも、私たち全員で挑めば、あなたも少しは楽になると思うわよ?」


 一触即発の雰囲気だったが、最後はお姉さん風にいい感じにまとめてくれた。

 さすがは杏沙。


 しかし、そんな杏沙の訴えすら届かないのか、


「…………」


 足元を見ながら黙ってしまった。

 その後、拳をぎゅっと握りしめておもむろに口を開く。


「悪魔たちは、私が倒さないといけない……私一人で……」


 その目には、憎しみのような怒りのような強い感情が浮かんでいるように見えた。

 さっきまで眉一つ動かさなかったのに……。

 これはのっぴきならない事情がありそうだ。


「もしかして、ソニアも自分のいた平行世界を悪魔たちに滅ぼされて……」

「違う」

「えっ? 違うの? あぁ! 元いた世界自体は無事だけど、親とか大切な人を傷つけられたとか?」

「みんな元気モリモリ」

「モリモリって……。じゃあどうして?」

「ポイント……」

「ポ、ポイント?」

「悪魔を倒すごとにポイントがもらえる。10個集めるごとに1杯無料」

「ラーメンの話⁉ それ、ラーメンの話なの⁉」

「50ポイント貯めると、黄金のどんぶりがもらえる」

「ラーメンじゃん! 絶対ラーメンじゃん!」

「魔法少女を倒せば、ラーメンが一生食べ放題……じゅるり」

「ラーメンって言っちゃったよ! もう確定だよ! ヨダレまで垂らしちゃって、もうラーメンのことしか考えてないよ!」

「新斗、いちいちうるさい。えと、ソニアさん、あなたはラーメンが食べたいから悪魔を倒してるの?」

「そう」

「あなたの平行世界では悪魔を倒すこととラーメンが密接に結びついているわけね」

「肯定」

「なんなのよ! こちとら世界滅亡の危機だからって必死こいてるっていうのに、ラーメンて!」

「杏沙さん落ち着いてください……!」


 なんとか杏沙を落ち着かせたところで、


「もう帰る。次は邪魔しないでほしい」

「お、おい!」


 帰ろうとするソニアを呼び止めるも、すぐさま姿が見えなくなってしまった。

 俺たち以外に幼女に変身して戦える奴がいたのには驚いたが、その行動理念にも驚いた。

 幼女ヒーローにも色んな奴がいるんだな。

 ソニアにとってこの世界は、所詮よその世界。

 いくら滅ぼうが関係ないはずだ。


 でも、俺たちにとっては世界存亡をかけた負けられない戦い。

 ソニアの軽い失敗のせいでこの世界がやられちまったらたまったもんじゃない。

 今後も警戒を怠らないようにしないと……。


 悪魔以外にも悩みの種が一つ増えた瞬間だった。

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