第2話

「ハァ、ハァ、ハァ……それで、なんでアンタはすぐにミーティングしたいだなんて言い出したのよ……」


 言葉による死闘がひと段落し、ようやく話の本題へと入れる。


「そうだった! 二人とも無視するからつい熱くなっちまったじゃねぇか。今日二人に話したいことはこれだ!」


 バンッ!


 待合室にある掲示板に、あることが書かれた紙を力強く貼り付ける。

 そこには、


『チーム名および決めゼリフ求む!(超かっこいいの!)』


 と書いてる。


「なに? チーム名と決めゼリフって?」


 杏沙は、いかにもめんどくさそうな顔である。

 一方の一葉はちょっとワクワクしてる?ようである。

 約一名がいつも通り乗り気じゃないが、これは超重要事項。そんなんじゃ俺の心は砕けねぇぜ。


「そう! チーム名と決めゼリフ! 俺たちは幼女戦隊だ! ヒーローだ! しかし、我々を一言で表す言葉がないじゃないか! それがチーム名!」

「えっ? チーム名って、幼女戦隊じゃダメなの?」

「かぁ~。これだから素人は……。いいかい杏沙隊員」

「ムカつくからその喋り方やめれ」

「……コホン。えと、つまりですね、こういう戦隊ヒーローっていうのは、『〇〇戦隊〇〇レンジャー』とか『〇〇ズ』とかそういうかっこいいチーム名がついてるじゃないですか? ついてるのとついてないとじゃ一体感が違うと思うんです。だから僕は、それをここにいる皆さんと考えたいなって。そうすれば、敵と対峙したときに、高らかに宣言することで威圧できるかなって思ってます。はい」


 これでもかってくらい恐縮の意を示す俺。

 杏沙を怒らせたら母さん並みに怖いし。


「別にチーム名を決めるのはいいんだけど、わざわざ敵の前で言うの恥ずかしくない?」

「いやいやいや! チーム名を高らかに宣言するのってかっこいいじゃん! 絶対相手もビビるよ! チームの士気も上がるって! 一葉もそう思わない?」

「えと……あと……、チームが一丸になる気は……します」

「一葉ちゃんも賛成なんだ……」


 賛成票の方が多い状態だが、いまだに杏沙は否定的な模様。

 しかし、ダピルから助舟を出してくれた。


「新斗の言うことも一理あるピ。チーム名を宣言することも、決めゼリフを唱えることも、実は、君たちにとって多大なるメリットがあるピ。そういうチームが一丸になるようなことを言うことにより、内にあるYOJOパワーをさらに呼び起こせる可能性があるダピ」

「マジか⁉」


 本当に意味があったんだ。かっこいいから言いたいだけだったんだけど、これは黙っておこう。

 それを聞いた杏沙は、


「え~、恥ずかしいけど、強くなれるなら仕方ない……のかな。それで? 決めゼリフって何を言うの?」

「それも戦隊モノでよくあるやつだよ。たとえば……『炎の力を授かりしピュアピュアキュートガール・幼女レッド!』とかさ、そういうかっちょいいやつ!」

「あははははっ! なにそれ⁉ ギャグ? あはははっ! あー、お腹いたいっ!」

「ぷっ、ふふふっ!」

「人がせっかく考えた決めゼリフを……。一葉まで笑うなんてひどいよ……」

「ぷっ、ごめんなさい……ふふっ。素敵な決めゼリフだと思います」


 天使の笑顔だ……。

 いや、見惚れてる場合じゃない!


「とにかく、チーム名と決めゼリフをみんなで考えようぜ! 決めゼリフは、三人に統一感がでるように一つ核となる言い回しを決めて、そこから各々の属性に当てはめていけば問題ない。じぁあ紙とペンを渡すから二人ともかっちょいいのを書いてくれ。書き終わったらこのBOXに入れて、引き当てたもので決定とする!」


 事前に準備していた2つの投票BOXをかかげて見せる。片方がチーム名用、もう片方が決めゼリフ用だ。


「そんなので決めるの? 仮にも大事なことなんじゃないの? それを懸賞の当選発表みたいにやっちゃっていいの?」


 と、杏沙は心配するが、それには及ばない。


「引き当てたものでとりあえず一回やってみて、嫌だったり、しっくりこなかったりしたら、そのときは変えればよくね?」

「軽っ!」

「とりあえずやってみる。それが俺の正義」

「あんたの正義は行きあたりばったりなうえに軽すぎるわよ。でもいいわ。さっきのあんたみたいな壊滅的にダサいものになっても、後々変えられるってことだものね」


 少し引っかかる言い方だったが、杏沙もようやく了承してくれた。

 それぞれがペンを握りしめ、思い浮かべたチーム名と決めゼリフを書き記していく。

 こんなに真剣に紙とペンに向き合ったのはいつ以来だろうか……。

 もっと真剣に勉強してたら、今とは違う人生が待っていたのだろうか……。

 過去のことをしみじみと思い浮かべながら、自分のボキャブラリーをフル稼働させたのであった。

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