第2話

「追い出されちゃった……。はぁ~」


 公園のベンチに腰掛け、思わずため息が漏れる。

 俺の名前は武能新斗(ムノウ アラト)。今年で23歳になる働き盛りのピチピチの男の子です。

 でも、先ほど住むところを失ってしまったため、今は金なし、家なし、仕事もなし

 なしなし尽くしの社会のお荷物になってしまった。

 下ばかり向いてると良くない気がして、せめてもの抵抗を兼ねて空を見上げる。


「ちくしょう。空が青いぜ……」


 ベンチから立ち上がり気分転換に伸びをする。


 ん?


 何かお尻に違和感を感じて、その正体を確認してみる。


「ちくしょう。尻が青いぜ……」


 放心状態だったため気付かなかったが、背もたれには『ペンキぬりたて』の紙が貼ってあった。

 諦めて再びベンチに座る。


 ヌチャ。


 どうしてこんなことになっちまったのかな……。


 遠くからはセミの鳴き声。

 季節は夏真っ盛り。


 思い返してみると、まだ桜が咲いていた4月頃。

 俺は都内の大学を卒業して、地元の島には帰らず、そのまま会社に就職した。

 特にやりたいこともなかったので、働いてお金を稼げればそれでよかった。

 子供の頃はヒーローに憧れていたけど、そんな職業なんてあるわけもない。

 でも、入ってしまった会社はヒーローすら引いてしまうものだった。


『よーし! これから朝の朝礼を始める! まずは社訓斉唱!』

『『『はい!』』』


『一つ! 我々は会社の血となり肉である!』

『『『一つ! 我々は会社の血となり肉である!』』』


『一つ! 我々は妥協を許さない! 妥協は死だ!』

『『『一つ! 我々は妥協を許さない! 妥協は死だ!』』』


『一つ! 死ぬこと以外は愛のムチ! どんな状況でも耐え抜くべし!』

『『『一つ! 死ぬこと以外は愛のムチ! どんな状況でも耐え抜くべし!』』』


 入社した初日で、自分がブラック企業に入社してしまったことを知った。

 てか、今どきそんな会社が残っていたこと自体が驚きだ。

 そんなところで働き続けることなんて到底できず、入社3週間で会社を辞めた。

 そのことを友達に話すと、


『あっはははは! これでニートの仲間入りだな! そうだ! 今度から〈武能新斗〉じゃなくて〈無能ニート〉に改名すれば? 武能新斗と書いて無能ニートと読めるし! あっははは!』


 こんなことを言われてしまう始末。

 俺はやればできる子なんだ。ニートになってしまったとしても、無能なんかじゃない。

 でも、母と妹にも、


『こら新斗! 会社を辞めてうちに帰って来たのはいいけど、あんたいつまで再就職先を見つけずにダラダラしてるつもり? 今は亡きお父さんだって……およおよおよ……』

『そうよ! お兄ちゃんがニートで社会のクズだなんて知られちゃったら、恥ずかしくて外を歩けないじゃん!』

『そこまで言う? それに、父さんは単身赴任でいないだけで、生きてるよ……?』

『そんなことどうでもいいの! あんた、再就職先を見つけてくるまで、二度とうちに帰ってくることは許しません!』

『そうよ! そうよ! ちゃんと社会の歯車になってから帰って来てよね!』


 こうして今に至るわけである。

 今振り返っても壮絶な人生だ。あとで自伝として売り出そうか。

 まぁ、そんな冗談はさておき、家を追い出されてから再就職先を見つける努力はした。


 でも、現実は厳しくのしかかってきた。

 新卒で入社した会社をたった3週間で辞めてしまったことが大きな要因なのだけど。

 アルバイトという選択肢も考えたが、あの母親と妹がそれで納得するわけがない。

 俺の人生、これからどうなっちゃうの?


「あ~あ、実は俺の中には隠された超スゲェ能力が眠っていて、知らないうちに開花しねぇかなぁ~」


 いつまでもここにいてもしょうがないし、ちょっくら街をぶらついて就職先を探すとするか。

 あっ、でもまずは……


「この尻をどうにかしないと……。とりあえず着替えるか」


 数少ない替えのズボンをリュックから取り出し、着替えて街の方に向かうことにした。

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