第55話 決闘の後で

「ちょっと無鉄砲過ぎたかな?」


いくら柔道やっていても、6人相手、それも一人は木刀持ってて、木刀の代わりに左手をくれてやった訳で、当然無傷という筈もなくて。


廃工場での闘いの2日後、僕は病院で横になっていた。


事情聴取はされたけど、警察の人も、僕の左手が折れている事に気が付いた途端、慌てて病院に送ってくれた。


そして、僕は真白にジトーという目で見られていた。


「左手を単純骨折…運が良かったそうよ。当たり処が良かったんだって、運が悪ければ複雑骨折だったり、かなり重症になったかもしれなかったんだからね」


「……あの、もしかして怒ってる?」


「怒ってないもん! 呆れてるの! なんでもう少し待てなかったの?」


それはまあ、空音が乱暴されると聞いて、頭に血が昇って…認めたくないものだな…若さゆえの過ちとやらを…


僕と大和達が廃工場で大立ち回りを演じた事で警察も高校も大騒ぎになってしまったらしい。


何しろ、本物の誘拐事件なんだ。藤堂も、他の暴漢達も退学の上、少年院送りだ。


彼らは事態の深刻さを甘く見ていたんだと思う。


「まあ、悠馬の優しさ馬鹿は十分知っているから、このことはこれ以上追及しないけど、左手とか他の怪我の調子はどう? 痛くないの?」


「まあ、痛くないと言えばウソになるけど……やっぱり心配してくれるの?」


「当たり前よね? 悠馬の彼女だから、その…当たり前でしょ!」


真白は今更自分で自分のこと、僕の彼女と言うことに照れてる。


「真白も大丈夫だった? お父さんに怒られたりしなかったの? お巡りさんから事情聴取なんてされて?」


「私の事も一応心配してくれるんだ?」


「当たり前だよ。僕、真白の彼氏だよ」


えへっ、と真白は照れて笑う。


「……すごく、キュンとしちゃった」


「真白?」


僕が話しかけるけど、真白は妄想の世界に行ってしまった。一見クールで、黙り込んでいるようなテイだけど、こういう時の真白はエッチな妄想で忙しいんだ。真白って、ムッツリなんだもん。


「頑張ったご褒美……あげる。ゆ、ゆうま……! ゆうまぁ……!!」


「ちょっ、ちょっと、真白!」


真白が僕の顔に腕を回して、顔がもう目の前にある。


「―――――~~~~ッ!!!!」


真白の吐息を感じる、そしていつものレモンの香り。何度目かのキス…でも、僕は今も慣れる事なんてなく、心臓の鼓動が激しくなって、真白にバレたら恥ずかしい、そして唇に柔らかい感触…


それだけで真白が済む筈もなく、僕は真白の柔らかい唇だけでなく、真白の柔らかい舌や口の中の感触を楽しむ。真白がグイグイ舌を入れてくるので、負けじと僕も真白の口の中に舌を入れ返す。


真白とのキスはたいてい一回だけじゃない。


「悠馬から、好きのキスして? 大好きのキス、してくれないの……? してくれないと無茶した事、許してあげないよ……? うふっ……♪」


「…真白、大好きだよ」


僕って月並みだな、大胆で情熱的な真白と大違いだ。


「ん……ゆうま……ん、ん……♪ ちゃんと悠馬のぎゅーっと濃縮した白くて濃いのをちょうだいね♪」


キスの話だよね? なんの話? まさかこんなところで、僕に求めてないよね? いや、僕が社会的に死ぬから止めて!


真白が僕の顔を抱きしめて、二人の時間をたっぷりと楽しむと、


すっと、真白が僕の顔を離して、いつもの表情に戻った。クールだけど、妄想していない普段の真白だ。


「…これ、預かってきたの」


「え?」


それは手紙だった。空音からの…


「一緒にお見舞いに行こって誘ったんだけど。…空音、悠馬から二度と会わないと宣言されたからって…馬鹿ね、こんな時はノーカンなのにね」


「…そっか」


でも、僕は少し嬉しかった。空音は多分、真白に遠慮したんだと思う。


それに僕の宣言をまるで約束のように思っているんだろう。空音なりのケジメ。


以前の空音なら、真白に遠慮なんてしなかっただろう。


空音…僕の妹のような存在、そして僕が甘やかし過ぎて、恋愛感やいろいろな事がおかしくなってしまった存在。


「…悠馬?」


ふいに真白が僕の名前を呼ぶ、綺麗な金髪がキラキラと夏の日差しにきらめく。


「もう、夏休みに入ったんだよ! だから…夏祭りに浴衣! 夏の海で水着! 人気のない山で野外プレイ!」


スパーン!!


僕は愛用のハリセンで真白の頭を張り倒した。


「い、痛いよ~♪」


「台無しだよ―――」

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