第51話 空音がさらわれた

私の幼馴染はなんてカッコいいんだろうか? 

いや、今はもう幼馴染ですらない他人か…私には悠馬の幼馴染を名乗る資格はない。

それに悠馬から二度と合わないとも言われた。


幼馴染をクビにされたのだ、私の浮気が原因で…因果応報だな。


私は幼馴染の彼を振った。転校生のちょっとカッコいい男の子に夢中になり、別れた。

その癖、後でまた復縁するつもりだった。

私は悠馬と自分は互いに特別な存在であり、彼はいつまでも私を待っていると、本気でそう思っていた。


悠馬が自殺するんじゃないか? ていう位落ち込んでいたそうだけど、私は全く気が付かなかった。

どこまでも愚かだった私…


今はわかる。何故なら、自分も自殺したい位心が落ち込んでいるからだ。

悠馬を失ってから初めてわかった。


…因果応報


それはまさしくそうだ。私は悠馬にない、カッコよさや社交性を藤堂君に感じた。

でも、悠馬は私と別れた途端、まるで別人のように変わっていった。


まさしく因果応報。


サッカー大会での悠馬はまるで別人のようだった。

冴えない元サッカー部員の筈の悠馬はいきなり得点を決めた。

私が彼女の時は一度も見せてくれたことがないのに、それもいとも簡単にあっさりと…そして大和君や藤沢君と連携してサッカー部のエースの筈の藤堂君のチームに10:0という大差で勝利した。


悠馬は天才だったんだ。

悠馬が抜けたサッカーは落ちぶれて、今では県大会進出さえ危ぶまれる状態になったらしい。


サッカーだけじゃない、英語の授業での悠馬の英語の朗読はまるで本物の外国人のようだった。


…悠馬カッコいい


それに、時々私が暴言を吐いたせいか、悠馬はよくケンカしてたけど、柔道の元欧州チャンピオンだったらしい。そんなの聞いてないよ。


……どうしてそんなにカッコいいの? 私と別れたから? 私は悠馬の疫病神だったの?


悠馬は運動や学校の勉強だけでなく、社交性も変わっていった。

前は親友の大和君としか話す人はいなかった筈なのに、今ではクラスの中心人物になっている。


一方、私はクラスのはじで、ぶざまに一人で孤独を味わうしかなかった。

私が悠馬を振った事がバレたのだ。


最初は悠馬が私を振った事にしてくれたけど、段々とバレてしまった。

皆の私を責める視線が辛い。

そう、私は悪女なのだ。

クラスメイトの女の子たちの大半が悠馬に好意を持っていたらしい、悠馬が全然カッコよくなかった頃から…


一番見る目がなかったのは私だったのだ。

みな、陰キャで、目立たないサッカー部員の悠馬が好きだったのだ。

私はカッコよくない悠馬じゃなく、カッコよく思えた藤堂君に移り気したのに。


本当に本質が見えていなかったのは私、サッカーも柔道も英語も悠馬の本質なんかじゃない。

みなわかっていて、私だけがわかっていなかった。


…17年も寄り添った幼馴染だったくせに。


失って初めてわかる事ってある。でも、わかった時にはもう遅かった。


生きていくのが辛い、友達は一人また一人と私のそばから離れていった。


「(もう、いっそ、本当に死のうかな?)」


悠馬を失った私の身体にはぽっかりと何かがなくなってしまったように、穴が開いていて、大きな虚無感に襲われていた。


死を決意した時、突然スマホのLi〇eに着信が入る。


もしかして悠馬?


そんな筈もないのに、愚かな私は期待をしてしまう。

私は未だに悠馬が私の事を許してくれるんじゃないかって思っているところがあった。


そんな筈はないのだ。だって、悠馬の隣にはもう、真白がいるから…


…真白、悠馬と私の幼馴染。彼女は何を考えているのかわからない子だった。

でも、彼女は私に遠慮して、距離をおいているだけだった。


『あなたが浮気なんてしなければ』


真白の言葉を思いだすと息が詰まる。そう、真白はいつも悠馬の事を考えていた。

私が悠馬の事なんて何も考えていなかったのに…彼女だったのに…あんなに仲が良かったのに…


子供の頃を思い出した。悠馬は私が偶然ケーキを落としてしまった時に、自分のケーキを私にくれた。でも、真白が自分のケーキを半分悠馬に分けてくれた。


「(どうして気が付かなかったんだろう?)」


私は今になって、真白の行動の意味がわかった。

真白は悠馬の事を大切に思っていたんだ。

だから自分のケーキを半分、悠馬にあげたんだ。私はなんで全部あげないんだろう? て思っていた。


でも、そんな事したら、真白だけケーキがなくなってしまう。

悠馬がそんな事を受ける筈がない。

真白は悠馬の事がよくわかっていた。そして悠馬の事が好きだった。


私は悠馬の事をよくわかっていなかったんだ。一番近くにいたくせに。


真白にはかなわない。真白の方が悠馬にふさわしい。

私にだって、それくらいはわかる。


でも、でも、浮気なんてしなかったら…


「多分、浮気した女のテンプレなんだろうな? これって…」


私は自嘲気味に呟いた。


そして、スマホの画面を見た。やはり悠馬からじゃなかった。クラス委員長の藤沢君からだった。


でも、私は藤沢君からのLi〇nを見て、


「ゆ、悠馬ぁあああああああッ!!」


思わず声をあげてしまった。

藤沢君からは長いメッセージが届いていた。

内容は悠馬から頼まれて、藤沢君が当分クラスでの私の立場をサポートするというものだった。


そして、藤沢君は悠馬の考えた事を私に教えてくれた。


「私の為に絶縁した? 私と悠馬の相性が悪いから?」


以前真白に言われた事と藤沢君のメッセージの内容でようやく理解できた。


悠馬は人を甘やかしたい人、私は甘えたい人。


私達は相性は最悪だった。確かに私は悠馬に甘えてばかりで、一人で電車にも乗れない位だ。


悠馬は浮気した私に怒って絶縁したわけじゃなかった。

幼馴染としての私はまだ、彼の中に生きていた。

恋人としてはダメでも、幼馴染としては見てくれる。

私の心には救いが与えられたような気がした。


そうだね。私は甘えん坊だ。いつも悠馬に甘えていた。何も一人じゃできない。


「ありがとう悠馬…私、生まれ変わる、そして、悠馬が恥ずかしくない幼馴染になる」


私は悠馬が与えてくれた課題を克服しよう。だから、死ねない。


悠馬は私が死にたいと思う事を考えて…


多分そうだ。優しい悠馬は拒絶したら、私がどういう気持ちになるかわかっていたんだ。


私は浮気した時に悠馬が自殺するかもしれないって、思いもしなかったのに…


気が付くと涙が頬を伝わっていた。久しぶりにもらった優しさは心にしみた。


そんな時、


「えっ!?」


突然、前に何人かのガラの悪い男の子が目に入り、後ろから口にハンカチをあてがわれた。


気が付くと、意識が遠のいていった。


「た、助けてぇ!? ゆ、悠馬ぁ…」


最後に助けを求める声はやっぱり悠馬に対してだった。

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