第37話 海老名がグイグイ来た。
週末は酷い目にあったけど、上手く僕は妹の琴里の追及をかわした。
誤ってぽちったと上手く釈明できた。
実は実際に間違えたのだ。ホントは好きな漫画の新刊を買おうとしたのだけど、どうも、あのアウトな妹ゲームはその漫画家とコラボしてたみたいで、登場人物がソックリだったんだ。だから間違えちゃった。
それにしても今後僕は琴里とどう接していこう…もう元には戻れないよう。
妹って、そんな風に見た事ないし、いつも毒舌ばかり吐かれてそんな事考えつきもしなかった。
それなのに琴里が急に僕に優しくなったのだ。もう、恐怖しか感じない。
いつものクラスでの、授業が始まり、そして終わり、休みに入る。
僕はふと空音の姿が目に入ってしまった。いつの間にか髪を茶髪に染めている。真白と入れ替わったかのようだ。
真白は孤立して、心が荒れた事もあって、本物のプラチナブロンドの癖にわざわざ日本人ぽく脱色系の茶髪に染めていた。
今は空音の方が茶髪に染めている。最近の空音は孤立気味だ。
それにしても、二度と会わないと宣言したものの、僕って結構馬鹿かもしれない。
よく考えたら同じクラスで、顔を合わさない事なんてできない。
でも、あれ以来、視線さえ合わさなくなった。空音も流石に僕の近くには一度も寄ってきた事はない。
人を拒絶する事は嫌いだけど、仕方ない事もある。そもそも振ったのは空音の方からなんだ。
今の僕は真白を愛している…あれ、何時の間に僕は真白にやられているのだろう? 最初は頭のネジが飛んでる、とんでもチョロインだなと思っていたけど、今ではすっかり真白に魅入られている。
僕の方がチョロイな。
でも、僕にはもう一つ悩みの種があった。それは海老名の事だった。
彼女は僕を好きでいてくれる。嬉しい事だけど、僕には真白がいる。
だから、僕の事は諦めてもらわないと…というより、僕がはっきり拒絶しないから、海老名は僕達の傍にいつもいるんだと思う。
海老名は真白の友達でもあるから、完全に拒絶する事はできないけど、精神的な拒絶というか、釘はさしておいた方がいい様に思えた。
もう、僕の失恋の傷は癒えて、僕の心の中には真白がいるんだ。だから、海老名とは距離をおかなきゃいけない。辛いけど…
そんな事を想っていると、海老名から相談を持ち掛けられた。
「ねえ、悠馬、ちょっと手伝って欲しい事あるんだ。お願い」
「…嫌」
即答だった。当然だよね?
「いや、変な事じゃなくて、風紀委員の正式なヤツなの!」
「どういう事なの? 理由次第だけど、腹黒の海老名の言う事はどうも怪しい」
僕は鋭い目で(のつもりで見ている)海老名を見た。海老名は少し目に涙を浮かべている。
これが凄く庇護欲をそそられるのだ。
海老名は小柄な女の子で可愛い系、学年内でよく年下と間違われる事も多い容貌なんだ。
「違うの、今日の放課後に科学実験室に踏み込むんだけど、怖いから悠馬にも来て欲しいの、じゃないと、あたしだけだと、あたし危険じゃない?」
「風紀委員って、確か三浦君もだろ? 三浦君に頼めばいいんじゃないかな?」
至極簡単な事だ。風紀委員は各クラス男女一人ずつで、女子は海老名で、男子は三浦君だ。
「あのリア充は放課後に彼女に会いたいから、やなんだって、悠馬に代わってもらえって言われて、その」
三浦君に話を聞くと、本当にそうだった。三浦君は詩織さんという彼女がいて、今日の放課後は彼女と図書館デートの約束をしてしまったらしい。しかし、なんで僕を勝手にピンチヒッターにするの?
「でっ? 一体、何をするの? そもそも何で今日じゃないと駄目なの?」
「実は…」
三浦君と海老名は事情を話してくれた。それは、
「という訳で風紀を乱しているというタレコミがあったの、そして今日、科学実験室でその〇害が二人で会うって話をしている処をあたしの鋭いアンテナが察知してしまったの」
「でも、どうしてそこまでするの? 〇害がはっきりしているなら、今日じゃなくても泳がせて証拠って…ていうか、何をしたの? その二人は?」
僕は疑問が大きくなって来た。何故そこまで急ぐのか?
「川崎君と日吉さんが付き合い始めたのは悠馬も知ってるわよね。まあ、当の恋のキューピットなんだから当然だけど…」
「それは知っているけど、それが一体? 別に付き合うだけで風紀を乱す事にはならないよね?」
当たり前だ。この高校は偏差値は高いけど、それ程風紀は厳しくない。男女の交際が禁止されている訳じゃなし、今時禁止なんてしたら、問題にされるのは学校の方だ。
「それが、二人は越えてはいけない一線を越えてしまって、学校の中でも、その…」
海老名が顔を赤らめて言いよどむ。ようやく事態の深刻さがわかってきた。
男女交際は禁止されていないけど、性行為がバレたら退学ものだ。ましてや学校内でなんて…しかし、川崎君と日吉さんは仲良くなったのはいいけど、逆に仲良くなりすぎたの?
そんな感じで僕と海老名は放課後の科学実験室に潜んでいた。
「ホントに今日、来るのか? がせねただったんじゃないの?」
既に30分位経過しているけど、放課後の科学室に人が来る気配がない。
ふと、海老名と視線が合うと、
「あれ? 悠馬、顔にごみがついているよ? とってあげるから目を閉じて、ね?」
「えっ? そうなの? わ、わかった。ありがとう、海老名」
と言って、目を閉じた瞬間、気配を感じた、同時にシャンプーとコンディショナーの香り、海老名の香りだ。
「ムグ、ググッ…♪ もう少しの処で、どうして流されないのよぉ♪ 悠馬ぁ♪」
今のヤバかった…かも、危うく海老名とキスするところだった。やっぱり腹黒海老名の罠だったのか…でも、震えながら口づけをしようとしていた海老名の顔を見てしまった僕は心が歪んだ。
切ない海老名の気持ちが見えてしまった。
「ご、ごめん……はしたない女の子で……」
「海老名、僕達は友達だろう? 僕には真白がいるんだ」
「わかってる、でも、やだ、なんか泣きそうになる」
「…」
僕は何も言えなかった。
「悠馬はいつもあたしが無防備なところに……めちゃくちゃキュンと、させちゃってぇ…はぁ…あたし…我慢できないの、悠馬の事すきだから…
……えっち、してもいいよ。真白には秘密にしておいて、あとくされなくて一回だけでもいいから」
そりゃあ、僕も海老名の事…嫌いじゃないけど…むしろ好き…でもだからこそ駄目だ。僕には真白がいる、真白は好きじゃ無くて、愛している。裏切れない。それに海老名を弄ぶような事はできない。ましてや学校内でなんて…
「もう開き直らないのぉ!!! テシッ!」
僕は強めに海老名にチョップを入れた。
「あたし、ズルい子かな?」
目に涙を浮かべた海老名に僕ははっきりとは言えなかった。
海老名は腹黒だ。とびっきり可愛い腹黒の女の子。
でも、僕は彼女の愛情を受けとめる事なんてできない。
…彼女の事を想えば余計に
「…海老名、駄目、もし二度とこんな事したら、二度と会わないし、口もきかない!」
海老名は泣き出してしまった。僕は罪悪感に打ちひしがれてしまった。海老名は
「ホント、悠馬の言葉って重いんだよね、多分10tくらいあるよ。あたしにとってはね」
海老名の切なそうな顔を見ると、僕は優しい言葉をかけたくなった。
でも、その優しい言葉は本当の優しさじゃない。僕はずっと歯を食いしばって無言を貫いた。
きっと、それが海老名への僕の本当の優しさになると思った。
僕は海老名を校門まで送ると、そこでブレイクした。
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