第33話 新しい依頼は難易度が高い

「次の依頼者はまた藤沢なの?」


「悠馬、駄目よ。藤沢君の事だから、多分お節介だと思うよ」


「そうね。あたし知ってる。藤沢君は人の世話をするのが大好きな変人だと思う」


「俺の評判って、そんなに悪いのか? 自分ではクラスのリーダーを自負してるんだけどな…」


いや、藤沢は立派なリーダーだよ。僕も助けてもらった。正直、藤沢には何のメリットもない事も藤沢は放っておけないのだろう。


「ねえ、藤沢君はどうしてそんなに人の面倒を見るの好きなの? メンドクサクないの?」


「う~ん。放置する方が気になってしょうがないかな」


いるんだね。こんないい奴…国宝に指定すべきだ。


「で? 今日の依頼は何なの? 藤沢君」


真白が藤沢に聞く。実は風紀委員クラブの部長は真白だ。元々凛姉が真白の為に考えていたサークルだからだ。


「実は川崎と日吉の事なんだけど、先日の一件に絡んでいる」


僕達はシーンとなった。海での事と教室で川崎が僕に絡んで来た事だ。あれは川崎が悪いと思ったし、僕達にできる事なんてあるの?


「まあ、悠馬はとばっちりだとは思うが、川崎もそれだけ真剣に日吉の事が好きなんだ。察してやれよ、綾瀬みたいに素直になれる方が珍しいんだ」


僕は尚も無言だった。川崎の気持ちは想像できるけど、僕には関係ないし。


「厚木先生からはお前らは縁結びのプロだって聞いているから頼む」


そう言って、藤沢は頭を下げた。ホント、いい奴だよな。川崎なんかの為に関係ない藤沢が頭を下げるなんて…でも誰が縁結びのプロ? 凛姉何言ってんの?


「わかったけど、僕らにできる事なんてあるの? 普通に逆切れされそうだけど?」


「それがあるんだよ。川崎と日吉の前で盛大に残念な処を見せればいいんだよ、あるんだろ? 帰国子女の悠馬には?」


「それ、僕にダメージ大きすぎない? それに具体的に何すればいいの? 僕、みなの前で英語をひけらかしたり、強い意見を言ったりするのは嫌だよ、もうあんな事は…」


僕は辛かった中学3年の頃を思い出していた。自己主張、英語…僕は嫌なヤツだった。


「安心しろ。流石に悠馬にそこまで嫌な事はさせない。前に悠馬の中学のヤツに聞いたんだけど、悠馬はカラオケが苦手なんだろ?」


「うん。苦手というか、僕、みなの好きな音楽を知らないし、僕の好きな曲はみな知らなくて…」


そう、僕はロシアに3年いた。ロシアではインタナショナルスクールにいたから英語で授業が行われる。人種も多様だけど欧米の人が多いクラスだった。当然、話題になる音楽はロシア、イギリス、アメリカが多かった。当然、英語が多い。


「そんな訳で、俺が川崎と日吉をカラオケに誘うから悠馬と真白とついでに海老名も来い」


「あたしがついでって、酷くない?」


ちょっと、海老名が可哀想。確かに今回の依頼には関与できないけど…


「まあ、これを機会にカラオケの練習でもしたらどうだ? 日本の歌もいいぞ?」


「うん、わかった。藤沢がそう言うなら、それにカラオケだと、そんなに嫌な感じにならないね」


僕はカラオケで英語の歌は歌わないつもり、つまりほとんど歌わないつもりでいた。


「ねえ、いきなり本番というのもなんだから、今日、カラオケいかない?」


「…そうね、私も練習したいし」


「うん、僕も練習したい」


そう、ロシアにはカラオケなんてなかった。パーティで集まって、ギターを誰かが演奏して歌う事はあったけど、日本の歌を歌った事はない。つまり、僕は本当にカラオケは下手糞なんだ。


僕達は駅前のカラオケ店に藤沢と大和、真白、海老名の5人で行った。大和は僕が誘った。理由はわかるよね?


「ねえねえ悠馬? フェラとか手こきとか浮気のカウントに入るのかな……?」


ごちん!?


僕は思わず海老名の発言を聞くや否や海老名の頭にチョップを入れた。仕方ないよね? 発言がヤバすぎる。


「海老名は何考えているの? そんなの駄目に決まってるでしょ!」


「だって、昔のアメリカのだいとうりょうがぁ~♪」


そんな事件、良く知ってるな!! 歳はいくつなの!


「花蓮、駄目よ! それは私しかしちゃだめよ! ♪」


テシっ!!


僕は真白の頭にもチョップを入れておいた。


「い、痛いよう、でも悠馬にちょっぷされちゃったぁ…♪」


「外人の発想はわかんないからね…」


大和の発言に、確かにとも思った。海老名の言うような事はもちろんどう考えても駄目だけど、西洋人は日本人みたいにはっきり告白をして彼氏彼女になるという概念がないし、キス位だと、つき合いたいなぁ♪ という意思表示でする。雰囲気がいいだけでキスをする。


キスの敷居が驚く程低い。僕も中学で付き合ってもいない友達同士がキスしているのを見てびっくりした。日本人とは感覚が違う。もっともアメリカの例の大統領のはダメだ。


「じゃあ、最初は俺が歌うか?」


「うん、頼むよ。日本の定番ソング教えて」


藤沢は 『恋』という歌を歌ってくれた。ドラマのタイアップで、かなり有名らしい。もちろん、僕は初めて聞いた。


「じゃあ、次は私が歌っていい?」


「真白、歌える曲あるの?」


「うん、以前日本でも有名な英語の曲を教えてもらったの、厚木先生に♪」


真白はノリノリだった。どんな曲だろう?


真白はテ〇ラー・スウ〇フトの『We Are Never Ever Getting Back Together』を歌った。 これ本当にカントリーミュージック? という、ロック・ギターが融合された新感覚のクールな曲だ。『Taylor's song is so cool!』ていう感じ。


真白の歌うこの曲は真白の発音の良さも手伝って、凄く良かった…でも!


「悠馬に…食い入るように見られるとぉ! エッチな気分になっちゃってぇ! だめぇ、真白ぉ 歌えない……♪」


真白が内またになって脚をもぞもぞとして萌え悶えている。


ヤバい…これはあまりにもエロい、真白ってばこんなにエロかったのか?


「あたしだって、悠馬にエロい目でみられたいよー♪」


僕は海老名に軽くチョップを入れておいて、


「真白ぉおお! 僕をすてないでぇえええ♪」


「ちょ、悠馬、何するのぉよぉ♪」


僕は真白に抱きついた。ハグした。だって、だって!


「え~ん、真白ぉ! 僕とヨリをもどしてぇ!」


「悠馬、馬鹿! それは歌詞の中の事だから♪」


「……」


「……」


「……」


僕と真白が盛り上がっている中、藤沢、大和、海老名は???という冷めた状態だ。


実はこの曲、クールでノリノリな曲調に反して昔の男を振るという男の子にとってはちょっときつい歌だ。女の子にとっては失恋応援ソングかもしれない。歌詞はこんな感じ。


『もう何があっても絶対にヨリなんて戻さない、決して、ね』


頭に真白から別れを告げられて、絶対ヨリを戻さないと告げられるシーンが浮かぶ、僕の目には涙が…最近振られたばかりの僕には辛いイメージだ。『Never ever ever ever…』


「…もう、悠馬、みな意味わかんないという感じよ」


「ご、ごめんなさいぃ♪」


僕はみんなに説明して、ようやくみんな意味がわかって、腑に落ちたみたいだ。


「やっぱり、悠馬って感じ悪いよな?」


「そんな事、言う?」


「じゃあ、悠馬何か歌ってみろよ」


「う、うん、でもがっかりしないでね…」


僕は無難に エ〇・シー〇ンの 『Shape of You』を歌った、けど、


「う~ん、下手糞な外人が歌っているみたい」


「ううっ♪」


「英語で歌う位なら完璧じゃないとカッコ悪い」


「ううっ♪」


「悠馬、残念斬り!」


「ううっ♪」


僕は大和に真っ二つにされた。


結局、藤沢や大和に人気の定番カラオケソングを教えてもらったけど、絶対練習しちゃ駄目だって言われた。『Never ever ever ever…』

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