第31話 クラス内の攻防
「悠馬てめぇ!! 調子に乗るんじゃねぇぞぉ!」
「……へえっ!?」
朝、登校するや否や、川崎君にいきなり怒気を含んだ声で怒鳴られて、僕は思わずその怒気にそぐわないへんてこりんな声をあげてしまう。
近くにいた真白が「きゃ!」っと驚いて僕の首にしがみついて来たほどだ。
真白の推定Dカップ(水着姿見たからかなり正確だと思う)の胸がむぎゅっとする。
それにしても、川崎君は薮から棒に、一体どうしたんだ?
川崎君は不満なようだけど、昨日、川崎君達4人を助けたんだよね? 責められる事ってあるの?
「昨日の危ない奴ら、絶対にお前らが頼んで俺たちにけしかけたんだろう? お前らが強いなんておかしい! 絶対、日吉や綱島に横恋慕して、一芝居打ったんだぁ」
「……はぁ、川崎…馬鹿かおまえ」
近くにいた綾瀬君が嘆息して思わず呟く。
しかし、突然始まったクラス内トラブル、不運な事にクラス委員長の藤沢はまだ来てない。
でも、あきれた。いや、藤堂の近くにいるヤツって、クラスの中心と言っても、どちらかと言うと荒っぽくて、藤沢達のグループみたいな秀才の集まりじゃない。成績は真ん中位だろう、スポーツなんかが得意なヤツらだ。でも、もしかして、川崎君って馬鹿? 昨日からの行動で、もしかして馬鹿かな? 思っていたが(?)いたけど(?)、ここまでとは流石に想定の範囲外だ。
「ねえ、川崎君、落ち着いて! そんな訳ないでしょ? だって、偶然海で会ったんだよ! そんなの偶然に決まってるじゃない! それに悠馬君にどんな利益があるの? 悠馬君には真白という立派な彼女がいるのよ!!」
「なら、真白さんと言う彼女がいるのに、なんで海老名ともあんなに仲がいいんだ? 悠馬は女たらしじゃないのか? ひ、日吉だって、この間まで俺と仲良かったのに、あんなに悠馬と親しげに!」
「川崎君、みっともないわね! あなたが助けてくれた悠馬君達に暴言吐いたりするから、私はあんたなんかと会話したくないだけだよ! それに、悠馬君、凄いカッコいいじゃない! モテるの当たり前じゃない!」
綱島さんがフォローに入ったけど、更に暴言を吐いた川崎君に日吉さんが止めをさす。
「悠馬がカッコいい?」
「そういえば、悠馬君、最近メガネ外していて、サッカー大会の時もカッコよくて、ホント…カッコいいかも…」
何故か女子の誰かが変なムーブを起こし始める。
「悠馬君の腹筋、バッキバキなのよ! それに帰国子女で、英語も外人みたいなのよ!」
日吉さんが何故か僕の腹筋と英語アゲする…止めて、僕目立ちたくないよぉ。
「悠馬君、腹筋見せて? 見せるわよね? いいでしょ? いいに決まってるでしょ?」
今日は綱島さんじゃなくて日吉さんが僕の腹筋にグイグイ来る。
「あっ!?」
日吉さんにシャツ勝手にめくられてしまった。
「……すご」
「きゃあああああ! 素敵!」
「ヤバっ!」
何故か僕の周りに集まる女子…何かよくわかんないムーブ来ちゃった。
「悠馬君って、柔道やってて、もの凄く強いんだよ。私、ビックリした!!」
「…悠馬って、中学の頃、欧州チャンピオンだったね」
「チャ、チャンピオンって? ええ、それって、日本代表クラス?」
「いや、欧州ならオリンピック候補になるって事だぜ」
真白と大和ぉおおおお! 何で余計な事言うのぉ!!
「えええええええええええっえッ!?」
「そ、そこ迄凄いの?」
「…サッカーも凄く上手いし」
「英語ベラベラ?」
「そういえば、悠馬君って、成績も良かったような?」
「実は学年1位だぜ」
「い、1位? 藤沢君じゃないの? 1位って?」
「いや、藤沢も悠馬には勝てないって♪」
大和! 何でそれバラすの!? それ秘密って約束なのにぃ!!
「…柔道チャンピオン」
「…英語ベラベラ」
「…学年1位」
「…腹筋バキバキ…すごいよ…じゅるり」
何か、女子が集まってきちゃった。なんかじゅるりとか変な音も聞こえた。
さっきから僕につかまっている真白が更に手に力を込める。
真白の方を見ると、目に涙を溜めて、僕を見ていた。
「…ま、真白、僕は僕だよ。僕には真白だけだよ」
「わわっ」
真白が突然僕にチークキスをしてきた。そして、
『ちゅっ』
僕もチークキスを返して、
『ちゅっ』
遂に僕達のチークキスは『ちゅっ』とまでのレベルにきちゃった。勘違いしないで、みなの前で唇をかさねたり、頬に唇を口付けた訳じゃないよ。頬と頬を合わせて口で『ちゅッ』。
一番親しい人同士のチークキスだ。チークキスは恋人同士の…という訳じゃないけど、それだけ親しい間柄の証拠だ。
「キャァぁぁ! あっぁぁ」
「す、すご…外人みたいぃ」
「素敵!!」
「いいなあぁ、真白」
クラスメイトの女子が僕に突然興味が湧いてきて、真白は不安になったのだろう。日本人なら人前でチークキスどころか、些細な愛情表現さえしないだろう。
でも、ロシアで暮らした真白ははっきりとした意見を持ち、自己主張は激しい。もちろん、それは生粋の日本人からは疎まれる行為だ。でも、同じ帰国子女の僕には真白の気持ちが良く分かった。僕は真白の気持ちに応えたし、真白と同じようにはっきり言おう、そう、自己主張をしよう、今日だけは。
「なあ、川崎、僕達がお前らが由比ガ浜にいるって、どうやってわかったの? おかしいよね? 知っている訳ないよね? 川崎達だって、僕達が由比ガ浜にいる事知らなかったろ?」
「そ、そんなの、お前が何かズルをしてぇ!!」
「どんなズルができるの? そもそも、僕に何のメリットがあるの?」
「だから、お前は女たらしで、日吉の事を俺から奪おうとしてぇ!」
わかってきた。川崎君は日吉さんの事が好きで、いいところを見せられず、日吉さんが僕に興味を持ってしまって、僕にあたっているんだ。でも、それは僕には関係ない事だ。
「僕は真白一筋だよ。海老名は…友達としては好きだけど、それ以上の事には応えられないよ。海老名、そうだよね?」
「悠馬…酷いね…本人に言わせるの? そうよ、あたしは悠馬の事好きだけど、全然振り向いてなんてくれないの。悠馬には真白しか目に入っていないの…」
ごめん、海老名、でもはっきりさせないと…
「もう、川崎っ! いい加減にしたら? 悠馬は悪くない! 助けてくれたし、いい奴じゃないの! なのに、あんたがあんなに悠馬に無礼な事言うから、だから私はあなたの事嫌いなのよ!」
「お、おい日吉、何で………」
日吉の事が好きなあまり間違いを犯した川崎、でも、その本人である日吉にはっきり拒絶されて狼狽える川崎。
「悪いのはあんたよ!」
「そ、そん…な…」
川崎の顔色は真っ青に変わっていた。
「悠馬君は悪くない!」
「なんでだよ! なんでだよぉ……。俺は……お前の事が好きなのに……」
声が小さくなる川崎…彼は気がついたのだろう、自分の過ちに…自らの過ちを認めてしまったが故に、その目には涙さえ浮かんでいる。
「あんたなんて、大っ嫌い!」
ついこの間まで、この二人は親しい関係だったけど、ほんの僅かな事で壊れてしまった関係。
綾瀬君と対象的だった。綾瀬君と綱島さんは手を繋いで、川崎と日吉さんのやり取りを心配そうに見ている。そこへ、
「えっと…なんで川崎が泣き目で突っ伏して、悠馬と真白さんが抱き合っていて、綾瀬と綱島が手を繋いでいるんだ?」
険悪な雰囲気の中に突然登場したのはクラス委員の藤沢だった。
真白と目が遇うと、真白は顔を真っ赤にした。僕も照れてしまった。
綾瀬君と綱島さんは手を繋ぎあっていた自覚がなかったみたいで、藤沢に指摘されて、やっぱり僕らと同じように互いに恥ずかしくなって、繋いだ手を放してしまう。
「もう、藤沢君、青春の一ページを一瞬でグダグダにしないでよ…いいところだったのに…」
誰かが呟いたけど、僕は助かった。ちょっと、この空気どうしたらいいの? と、困っていた時、あっさりと藤沢が悪い空気を破壊してくれた。
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