第30話 由比ガ浜を満喫
「それにしても悠馬君と大和君の筋肉凄いね? あ!? 三浦君も凄いよ!」
「気を遣ってもらって悪いけど、この二人と比べられると恥ずかしいよ」
日吉さんと綱島さんが一難去って、僕達にお礼をひとしきり言うと、僕と大和の筋肉に興味が行ったみたいだ。三浦君は確か写真部だから…何も言うまい。
「悠馬、大和、それに三浦…そのありがとう…陰キャなんて言って悪かった。すまん、許してくれよ。それなのに助けてもらってさ、ありがとう」
僕達に謝ってくれたのは、あっさりのされた二人の一人、綾瀬君だ。二人は先ほど意識を取り戻した。
「おい、綾瀬、お前、なんで悠馬達にこびなんて売ってんだ? ちきしょう!」
綾瀬君は素直にお礼を言ってくれたけど、川崎君は不満なようだ。男のプライドが傷ついたのかもしれない。
「それにしても…すご……」
僕達が言い合っている中、綱島さんが声を漏らした。綱島さんはフリル付きの薄いピンクのビキニを着たセミロングの女の子で、クラスでも可愛くて、明るい性格で有名な子だ。
すご……と言うや否や、目をキラリンと輝かせて、急に僕の目の前に迫って来る綱島さん。
「凄いね宗形君! バッキバキだね! ちょっと腹筋触っていい? いい? いいよね? いいに決まってるよね?」
「ちょっ! ちょっと、待って、僕、心の準備がぁ! そうだ、腹筋なら大和の方が!」
しかし、
「大和君、腹筋ツンツンさせてぇ♪」
「いいよ、日吉さん」
何で、逃げ場所の大和は先約いれちゃてるの?
しかし、綱島さんは目をキラキラさせて、迫ってくる。グイグイ来ないでよぉ! 怖いよぉ!
「悠馬ぁ~!!」
「ええっ! あたしというものがありながらぁ!」
真白と海老名が不満そうに…そうだよね、僕は真白の彼氏だから、この状況はまずいよね?
真白と海老名が僕の手を両方から押し合い、引っ張りあいをする。
「何だよ、なんで悠馬なんかがモテてるんだよ! ムカつくなぁ!」
「まあ、助けてもらったんだから、仕方ないよ」
毒づく川崎君を綾瀬君がなだめる。
そんな中、
「三浦君、怪我をしてるんじゃないのぉ!」
声をあげたのは詩織さんだった。三浦君は大和の助けもあり、何とか喧嘩に勝ったけど、2、3発殴られたみたいだ。上手く避けたから大きな怪我じゃないけど、顔の頬にすり傷ができていた。
「ちょっと、待って、絆創膏とか持ってくる」
詩織さんは海の家に戻ると女子の必須ツール、絆創膏を持って来て、三浦君に膝枕をしてあげて、手当をしてくれた。三浦君いいなぁ、いや、もちろん詩織さんにしてもらいたい訳じゃなくて、真白に膝枕してもらいたいんだよ。
僕はこの時、気がついていなかったけど、僕のクラス内の立場は明確に変わり始めていた。
しかし、あまり綱島さんに懐かれるのも困るな、僕は真白の彼氏なんだ。僕、ピンチ!
「悠馬、膝枕して欲しいの? して欲しいのよね?」
真白が唐突に言い出してきた。詩織さんと三浦君の膝枕を羨ましそうに見ていた僕の気持ちを汲んでくれたのかな?
「……う、うん。お願いします」
恥ずかしいけど、そんな魅力的な提案は受けざるを得ない。僕は真白に膝枕をしてもらって、ビーチでパラソルの下でとてもいい思いでができた。真白、天使みたい、だけど、
「何だよ、悠馬や大和の筋肉なんてどうせ陰キャが自宅でこそこそ鍛えたボディビルダーみたいな形だけで大して出力の出ないコスパの悪い筋肉だぜ!」
「…川崎、止めておけよ」
川崎が一人毒づくが、何故か日吉さんと綱島さんがみなで海を満喫しようと言い出して、僕達と一緒する事になり、僕達から離れられない川崎。それにしても、綾瀬っていいヤツだな、意外だった。それに比べて川崎君は僕達へのヘイト半端ない、何で?
急に日吉さんと綱島さんが僕や大和に興味持ってきたから、慌てて自分への注意を引き付けようと躍起になっているのかもしれない。
「川崎のお腹は脂肪で、でっぷりじゃない!」
「うっ………」
川崎が日吉さんに奈落の底に突き落とされる。そうだよね、僕達の筋肉がボディビルダーの見せ筋と一緒だとしても、筋肉ないよりいいよね。これを機に頑張ってね、でも、綾瀬君の綱島さんからの評価は上がったようだけど、川崎君へ対しての日吉さんの評価は急降下したようだ。
ひとしきり僕と大和の筋肉を堪能した日吉さんと綱島さんは綾瀬君とは親しげに話すが、川崎君と話が減っている。明らかに、川崎君への気持ちが覚めたんだと思う。
川崎君ご愁傷様、綾瀬君、よかったね。どうも、綾瀬君と綱島さんはいい雰囲気だ。
それに、今回の主役の三浦君と詩織さんもいい雰囲気だ。詩織さんに膝枕されて、三浦君もまんざらでもないようだし、さっきから会話が弾んでいる。
ちなみに何故か日吉さんは大和との会話が増えている。止めてぇ! 日吉さん、大和と海老名は、僕の都合上、どうしてもくっついてもらわないと困るんだ! 何、大和は鼻の下伸ばしてんのぉ! 僕、怒るよ! 海老名への愛はどうした?
そんな感じで、約2名を除き、海を満喫していると、いつの間にか姿を消していた。海老名が戻ってきた。
「鎌倉駅の方まで薬を買いに行って、酔い止め飲んだんらけろぉ…ねむいよぉ」
「大丈夫、海老名?」
真白の膝枕タイムは既に終了していたけど、海老名の事を忘れていた。反省…
「ゆうま~、あたしのことこんなふうにしてどうするつもりれすか~…♪」
「はい?」
「いや~ん♪ ゆうまにおかされるぅ…♪ おかすなら、ちゃんとしているときにしてください~♪」
何でそうなる? ていうか、海老名、凄い肉食だね! 普通の男なら簡単に落ちると思うよ! でも、僕は絶対真白を裏切ったりしないけどね!
「悠馬、喉乾いていないか?」
唐突に大和が言い出す、今度は何?
「乾いたけど、ジュースでも買いにいこうと言う話?」
流れ的に普通そうだよね、しかし、大和の提案は違った。
「俺、悠馬の為にドリンク持ってきたんだぜ」
なんでぇ!? 怪しすぎる、怪しすぎるぅ~! 男友達の為にドリンク持参する男子いるか?
「意外と美味いんだぜ!」
爽やかな笑顔でドリンクのボトルを差し出す大和、そしてボトルのど真ん中にはドクロマークが…判り易すぎる…絶対主成分トリカブトの毒…どう切り抜ける?
「…い、いや、先に大和が飲めよ。それじゃ悪いよ」
僕はギリギリの交渉をした。このままでは大和が殺人犯に…いや、その前に僕が死ぬ…
「そうか、じゃ、お先に」
えっ? マジ? トリカブト入りじゃないの? ごめん大和、僕、お前の事を勘違いしていた!
大和がドリンクを二、三口飲むと僕にボトルを差し出した。断る理由ないよね? 僕はありがたく、大和からボトルを受け取って、ドリンクを飲んだ。
「うげっ!! は、はかったなぁ! や、大和ぉ!」
「ふふ、悠馬ばっかり花蓮にモテるのはこれ以上俺には許せない!」
「ち、畜生、し、信じていたのにぃ!」
「甘いな、悠馬、恋は戦いだよ!」
僕はゲロマズのドリンクを飲まされて、膝を屈した。
「ま、真白、あ、愛している…よ」
『完』
とはならなかった。あれ、僕生きている?
「あれ、なんで僕生きているの?」
「なんで、トイレ掃除用の雑巾の絞り汁を呑んだくらいで死ぬんだ?」
えっ? トリカブトじゃないの?
「だって、この間、『恋敵の親友の始末の仕方』っていう本読んでたし、トリカブト探してたじゃないか?」
「やだな、俺がそんな事する訳ないじゃないか!」
また、爽やかに笑う大和、
「や、大和、僕の勘違いだった?」
「ああ、トリカブトは最後の手段だ!」
へっ? トリカブトは無し、という訳ではないのね?
「まあ、そんな訳だから、花蓮に手をだすなよ。あと、早めに遺書かいとけよ!」
爽やかな顔で殺人予告しないでよ!
そんなダラダラした初夏の一日を海の浅瀬ではしゃいだり、ビーチパラソルの下で遊んだりして、午後の3時頃、そろそろ帰らないと駄目かな? と思い始める。鎌倉駅はびっくりする位混むのだ。少し早めに帰った方がいい、この辺に住んでいると移動は本当に苦労する。
「真白、ずいぶん汗かいてるわね、ちょっと汗拭きシートで拭いたほうがいいわよ」
「えっ? 真白の汗ならむしろ綺麗な気がする」
僕は不用意に真白と海老名の女子同士の会話に入り込んでしまった。
「悠馬、汗の成分はおしっこと同じって言われているのよぉ~。何、あたしの汗の香りかぎたいの? 悠馬、もうがまんできないのね~…? しょうがにゃいなぁ~♪」
「ゆ、悠馬はそう言えば今日、ずっと私の傍にいて! はっ! まさか私の香りをずっと楽しんで! もしかして…! 今日はずっと…そんな目で私を…!? んぁっ… だめぇ、おしっこじゃないのがとまらなくなっちゃうぅっ…」
お、おしっこって、真白…一体何を言っているの? いや、おしっこじゃないのが出るって何?
「ちょ、真白!?」
「なに? 悠馬? えっ!? 帰りに連れ込み宿に行こうよって! 駄目よぉ! 私達早すぎるわぁ! いくらわたしがはしたなく、おしっことちがうのがとまんなくなっちゃっているからといってもぉ!! えっ? なんなら更衣室で、今すぐなの? ええっ! もう、ゆうまに…食い入るように見られると、エッチな気分になっちゃってぇ、もうダメぇ!」
テシっ!!
と、いつものように暴走した真白にチョップを入れると、
「あ、あれ? 私は何処に? こ、っここは誰?」
真白は無事? 現実世界に帰還した。
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