第27話 真白、水着を買う

チークキスって、キスって言うけど、唇を重ねるものじゃないよ。お互いの頬と頬をすり合わせる、頬で行うキス。それがチークキス。


ロシアやヨーロッパでは親しい人同士で行う挨拶。ハグと同じと思ってくれればいい。アメリカ人が好きなのはハグ、ヨーロッパの人が好きなのはチークキス。大雑把に言うとそう。


日本人にはハグやチークキスはびっくりする行為だろう、でもあの人達にとっては握手と同様の事なんだ。


そして、垣根が低いのも日本人にとっては驚きだろう、少し親しければ、チークキスをする。だけど、僕と真白はチークキスの更に親しい人同士のチークキスをする間柄になった。普通は右頬から右左に一回ずつ、僕達は二回ずつしていた。家族や、より親しい人同士でしかしないチークキス。


真白が起きたので、そのままショッピングモールに向かった。電車で近くの大きなショッピングモールに向かう。


真白はかなり大きめの白いTシャツを着て、ブラが透けて見えていて、肩が大きく出ている。スカートは膝下がとにかく短い蛍光色の薄い青、足元は白のスニーカーだ。肩には紐で籠バックを下げていた。


それにしても……みんなこっち見るな、うん、全部真白のせいだ。すれ違う人がみなガン見してくる。もちろん対象は真白だけど…


真白に視線を移すけど、真白も男性の視線を察したのか、僕の後ろに隠れ始めた。


あ!? ヤバそうな男達がこちらを見ている! けど、直ぐに逃げた…この間喧嘩した柔道神奈川県チャンピオンたちだった。

それにしても、真白のファッションは露出が多すぎて危険だな。気を付けないと。


「真白、はぐれないように手を繋ご?」


「ええっ! 悠馬から私の手を繋いでくれるなんてぇ! あれ? なんか地球の重力がおかしくなっていない! 身体がなんか上に引っ張られて、あはあはははっ…♪」


な訳あるかぁ!


「何言ってるの? 真白が可愛すぎるから心配なんだよ! 自分でも気を付けて! 今、初夏だから、真白は露出多いんだからね!」


「…か、可愛い…やっぱり、今、重力おかしくない? なんか私、上に引っ張られて飛んでいきそうなんだけど♪」


えっ? 重力おかしいって、気持ちが上に向いているっていうか、天にも昇る気持ちっていう事? 僕なんかが手を繋いだだけで? 可愛いって言っただけで? 真白…可愛すぎるでしょ!


真白が顔を赤くする。止めてよ、僕まで顔が赤くなってる…と、思う…

そんな事を考えている時不意打ちで、


「ほ、褒めてくれて、あ、ありがとう。悠馬も…格好いいよ♪」


「ええっ!」


僕の顔は多分より赤くなったと思う。全部真白が悪い、僕のせいじゃない。


「ありがとう。冗談でも格好いいだなんて言われると嬉しいよ」


「……」


真白が下を向いて静かになっちゃった。僕も下を見てしまった。自分でも恥ずかしい。


「あっ! 着いたよ。女性の服のフロアだよぉ」


照れ隠しで話題を変える。女性のファッションのフロアで、水着のコーナーは割とエスカレーターの近くだった。うう、水着だらけで、僕、所在ない気持ち…


まだ。バーゲンの時期じゃないけど、既にプレバーゲンは始まっている。何度か来た事があるモールだからわかる。バーゲンの頃だと、お目当ての服が買えない時がある。でも、今時分は意外とお手軽なお値段と選択肢の多さからいいタイミングの場合もある。


「真白、じゃあ、僕は少し時間をつぶしてくるよ。水着コーナーに男がいると困るよね?」


男の僕が水着売り場にいると多分、女性は嫌だろう。真白だって…でも真白の反応は違った。


「ええ? 一緒に選んでくれないの? 一緒に選ぼうよ! 自分の彼女の水着だよ♪」


「ええっ!! 僕に水着姿見られるし、水着のコーナーに男いたらまずいよぉ!」


「彼氏はいいの! 他の女の子も彼氏連れているじゃん。私を一人にするつもり?」


なに、真白? ほっぺを膨らませたリスみたいで可愛いんだけど?

ファンタジーゲームのラスボスに突然序盤でエンカウントしてしまったような感じ…


いや、そんなにハードルが高い任務を突然与えないでよぉ!


女の子の水着選ぶの? 僕が? 二人で? 嬉しいけど、僕も重力に異変を感じ始めてきた。


「ゆ、悠馬が『真白は一生僕と一緒だよ。死ぬまで離さないからね! 来世でも一緒だよ! その次の生まれ変わりでも一緒だよ! 僕達永遠に一緒だよ』って、言ったじゃない!」


い、いや、そこまで言ってないよね? 離れちゃ駄目とは言ったけど…


い、いや、僕には女性のあんな下着みたいな水着のコーナーに入る勇気ないからね! ゆ、許して真白おおぉ!


「ま、真白なら何でも似合うよ、ぼ、僕がいなくても、大丈夫、大丈夫、僕、ファッションセンスないし!」


「彼女の水着を選ぶのは彼氏の義務よぉ! 駄目よ、逃げちゃ!」


真白は珍しくプリプリと頬を膨らまして、僕を睨む。睨んだ顔も可愛いよう!


ツンツンしながら、僕の手の袖を掴むと、むくれた顔のまま、急に引っ張っていかれた。


『わーあの子達、まだ高校生位なのに! 大胆!』


『でも、初々しくて、かわいいわね』


何処の誰かしらないけど、大人の女の人が僕達をからかう。僕の羞恥心のHPは0だ。


「わかったよ、だから引っ張らないでよ!」


結局真白に引っ張られて水着コーナーに来てしまった。ここであまり抵抗すると、かえって悪く目立ちそうで怖いから、真白の水着選びに協力する事にした。


高校生のカップルって、結構目立つんだ。みな、微笑ましい笑顔で僕達を見るんだもん。僕が抵抗すると、彼女のお願いを聞かない感じの悪い彼氏みたいに思われるじゃないか!


あれ、僕、いつの間にか真白の彼氏だと自覚してる? いつからだろう?


真白に手を引っ張られて女性の水着コーナーに来てしまった。


大半がビキニ…女の子って、よくあんな布面積の少ない水着で平気だな。お尻半分出てない?


「ねえ、悠馬ぁ♪ これとこれだとどっちがいいと思う?」


そう言って、真白が二着の水着を両手に持って寄ってくる。


片方は普通の三角ビキニでアースカラーで、凄く布面積が少ない、もう片方はチューブ型でストラップレスのやはりアースカラーのビキニだ。真白は大人っぽいのが好きなのかな?


僕に相談されてもわかんないよう…アースカラーが流行りとは聞いているけど、もっと明るい色の方がいいような気がする。


こんな時、どう言えばいいのだろう? 正直に言うか?

そもそも、流行ってインターカラーとか言って、何年も前に決まっていると聞いた事がある、そんなのに振り回されるなんて…いや、楽しそうだからいいのかもしれないけど、男の子の僕にはよくわかんない。うん、ここは自分の気持ちに正直に言おう。


「真白は可愛いから何着ても似合うと思うけど、もっと明るい色で、フリルとかついた可愛い水着のほうがいいんじゃないかな?」


似合う、似合わないという話なら、真白は何着ても似合うと思うよ。だって、手足長いし、スタイルいいし、胸も大きいし、金髪に青い目だよ。あえて一番似合うものがあると言うならば、多分、生まれたまんまの姿が一番綺麗だと思う、エロい気持ちなしで、真面目にそう思う。


ならばこの際、役得を享受すべきかもしれない。つまり…自分の好みを言ってしまう!


よし、完璧な完全犯罪だ。海辺で悶え死ぬ奴が増えてもしらないからね。


「え~、デザインはこの二つが気に入ったのに…でも、悠馬がそう言うなら、可愛い水着ね、これとこれなんかどう?」


そう言って、薄い青のフリルのついた三角ビキニとシンプルモダンの薄いベージュのビキニを取り出して来る。


「悠馬、どっちがいいと思う?」


真白がぐいぐいと2つの水着を突き出してくる。


とにかく僕に決めさせるの? そんな責任重大な事、僕に聞く?


知らないよ。海辺で真白の可愛さにあてられて悶えてキュンキュンする犠牲者増えても!


僕は無責任にも自分の好みを言った。


「そうだね…………こっちの薄いベージュの可愛いやつかな」


ベージュと言っても羊色じゃないよ。もっと薄いベージュ…つまり限りなく白に近いベージュ…僕の好み、わかるよね?

多分、この水着を来た真白はレベル999だと思う、うん、何の事かわかんない人は多いと思うけど、僕もわかんない。それ位最強だという事。


「そう? じゃあ、試着してみるね!」


「じゃあ、僕は待ってるね!」


僕のテンションも上がってきた!


「うん、試着室の前で待っててね!」


ええええええええええええっ!?


女性の水着コーナーの試着室の前で待っているという、軽く気がふれそうな時間が流れて…ああ、また重力の向きが変わった。多分、今は右から左に物が落ちるに違いない…という、男子高校生にはハードルが高すぎるミッションを終えると、ようやく試着室のカーテンが開かれた。


「どう? 悠馬?」


「―――――~~~~ッ!!!!」


水着は小さなハンカチだけで作ったみたいに面積が小さい布を結び合わせただけの心元ないものだった。風が吹いただけで飛ばされそうに見える。 


恥ずかしそうに、少しはにかみながら後ろに腕を組む、水着姿の真白。


似合っている。ストレートにそれしか思わない。


いや、水着の流行も色もデザインも関係ない、真白のスタイルと可愛さだけだよ。


……最強のラスボス出ました。


「……に、似合ってるよ…凄く」


辛うじて感想が言えた。多分、僕、今馬鹿みたいな顔していると思う。だって、目の前に天使がいるんだよ。

真白の水着姿の破壊力がこれ程とは……。私の戦闘力は1000000です! て言われてビビりそう。


あれ、なんで真白の顔赤くなってるの? あれ、多分僕の顔も赤くなっているよね?


「ま、真白、ごめん。見過ぎたかな?」


水着の女の子を目の前で見るという経験がないので、見過ぎたかどうかはわかりません。


「ゆ、悠馬に…食い入るように見られると、エッチな気分になっちゃってぇ♪」


「ええっ! いや僕、見たいけど、そんな身過ぎたらだめだよね?」


「……そんな視姦プレイをしたいなんて……私断れなくなっちゃっう……♪」


「ええっ」


何言ってるの? 真白!! 二人で顔を赤くしていると、我に返った真白が、


「じゃあ、これキープね♪」


へっ?


カーテンが閉まり、それが始まりの終わりだという事を告げた。

そうだ、真白は服を2着見るだけで2時間は悩むタイプだった。つまり、まだ終わらないんだよね……。

僕は真白の水着姿を間近で見るというHPを大幅に削られる攻撃に耐えながら、その後もあちこちの店の水着を見て回った。


散々試着をしたけど、結局先程僕が選んだやつを真白は嬉しそうに買っていた。


あの散々試着した水着達の意味はあるのですかぁ? 

いや、僕が色々なバージョンの天使を見れたからいいか…

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