第24話 幼馴染達の攻防4真白vs空音

藤沢に事情聴取された日の夕方に真白をお見舞いに行った。真白はようやく体調が戻ってきたらしい。顔色も良くなって、笑みがこぼれていた。


今日はきっと、一緒に登校できるな。そう思っていると、真白が来た。


「おはようございます。悠馬を迎えに来ました♪」


「あら、真白ちゃん、風邪治ったのね。良かった。悠馬をお願いね」


「あわわわわわ! そんな! 今日このまま結婚式あげてすぐ夫婦になってしまいなさいだなんて!」


「あら、あら、あら」


「えっ! えっ? 今日はお泊りしていきなさいだなんて! 悠馬の部屋で二人っきりでだなんて! ああっ! 今日の夜、悠馬に迫られて、抱きしめられて、『今夜真白は僕のもの』だなんて言われて、良くわからない成分を流し込まれて、天国にいっちゃうのかしら! 駄目よ、未だ早すぎるわ! でも、悠馬が望むなら! お父さん、お母さん、私、今日いよいよ大人の階段を上ります!」


真白がまた壊れた…どうしよう? このポンコツ彼女…


「真白ちゃん、しっかりしてね? うふふっ」


「はい、私、しっかりしてます! 悠馬の事は任せておいてください!」


どこがしっかりしてるの? 駄目だよね女の子がそんな事考えてたら…


「頼もしいわ。悠馬は優柔不断だから」


「ホント、お兄ちゃんは優柔不断で無駄に優しいから、真白お姉ちゃん、お願いします」


「みんな酷くない? 僕、そんなに駄目な子?」


「「「駄目に決まってるでしょう!」」」


お母さんと妹と真白にまで言われた。


二人で登校する。時々真白がいつものヤツを発症するが、そこがとても可愛らしく思えた。でも、ちょっと真面目な話をしてみた。海老名の事だった。何故真白は海老名の事を信用したんだろうか? 恋敵な訳だし、実際、海老名は汚い手で僕に『あ~ん』を強要してきたし。真白と目が合う。 真白がわわわわわとなる。ヤバい、また発症しそうだ。


「わ、私達、目と目が合うだけで心が通じ合っちゃうね! これ、夫婦になったからなのね!」


真白の脳の中では既に結婚式も通過して、夫婦になっている模様。


と、それより気になる事があった。


「あの、海老名の事だけど、真白は海老名が僕の事好きなの知っていて、海老名にお弁当を頼んだの?」


「海老名さんが悠馬の事好きなのはもちろん知ってた。小学校の時から知っていた。でも、海老名さんはこう言っていたの、


『あたしは選ばれない、空音なら選んでもらえるかもしれない、でもあたしは選ばれない。だけど、自分の気持ちだけでも伝えられたらいいな』


って、そう言ってた」


海老名が? あの海老名がそんな殊勝な事を? ちょっと信じられなかった。海老名らしくない。あんなに腹黒で、強引で、無駄に可愛い顔しか取り柄が無い悪い子なの…に…


「海老名がそんな事いうなんて驚いたよ。あんな腹黒なのに、そんな処もあるんだね」


「海老名さんも女の子よ。腹黒は彼女の一面でしかないのだと思うの」


「真白はもしかして、海老名の為にお弁当を? もしかして、海老名がアプローチするってわかってて」


「そんなつもりじゃない。でも、彼女が悠馬に気持ちを伝える機会は作ってあげたかった。彼女、小学校の時に悠馬の事好きになって、中学は違う処になってしまったから、必死で勉強してこの高校に入ったの。悠馬は大して勉強しなくても成績いいから…彼女、悠馬がこの高校に入るってわかってたのね」


「そ、そうだったんだ」


僕は驚いた。海老名がそこまで僕の事を想っていてくれただなんて、


「万が一、僕が海老名を選んだりするって考えなかったの?」


「その時はその時よ。私は海老名さんなら負けても仕方ないと思った。でも、空音だけは駄目だと思ったの、その、悠馬の為にも、空音の為にも…」


「……」


僕は真白の考えが判ってきた。僕が何故駄目なのか? という事が、そして、僕と空音は最悪の相性だという事がわかってきた。僕はハッキリさせなければ、相手から嫌われるという事は僕は嫌いだ。でも、相手の為に嫌われる事は時には必要だ。ましてや、その事でたくさんの人を傷つけるなら余計僕は嫌われる事でもしなければならない。でも、僕にできるだろうか?


真白と楽しい時間を過ごして、あっと言う間にお昼の時間になる。いつもの様に真白と海老名と大和で学校の屋上でお弁当を食べる事になった。


「何であたしが大和君のお弁当を作らなきゃいけないのかわかんないだけど?」


「仕方ないじゃない。大和君、お母さん働いていて、お弁当用意できないみたいだから」


「真白が作ればいいじゃないの! そして、悠馬のはあたしが作る、あれ、完璧じゃん!」


「悠馬、明日から二人だけでお弁当食べようね♪」


「うん、真白、わかった。そうしよう」


「あわわわわっ、分かった、わかったから、大和君のお弁当作るわよ、もう、あたしに腹黒で勝つなんて、真白、結構やるわね!」


「それはそうと、これはどういう事かしら?」


「空音の事でしょ? あたしも悠馬に少し幻滅したの。どこまで優しいのやら…」


海老名に駄目出しされるのはもっともだ。僕は未だに空音を拒絶できないでいた。空音は例により、僕らより少し離れた処に正座してお弁当を食べていた。


「空音! あなた、酷すぎない? 悠馬とは別れたんでしょう?」


真白がつかつかと空音の近くまで行って…これ、もしかして修羅場になるケース?


「わ、私、本当に愛しているのは悠馬だって気がついたの、藤堂君とは別れたし、だから…」


「あなたにそんな事言う資格ない! 悠馬に何したか、わかってるの?」


「わ、私、そんな、悠馬は絶対私の事、待っていてくれる。だから…」


「あなたは気軽な気持ちで浮気したんでしょうけど、悠馬がどれだけ落ち込んだと思うの? あなたが藤堂君と浮気し始めて、悠馬、顔色も悪くなったし、真剣に悩んだわよ! あなたに別れを切り出された時、悠馬が死んじゃうんじゃないかと思って、わ、私、24時間監視してたわよ!」


え? 24時間監視してたの? もしかして体調不良、それが原因?


「あの、真白、24時間監視って?」


「琴里ちゃんに頼んで監視カメラと盗聴マイク仕込んだの!」


「ええ? それ、犯罪だよ!」


僕はちょっと抗議した。流石にやりすぎだよね?


「いいの? 琴里ちゃんに悠馬の隠しているゲーム『妹パラダイス』の事バラすわよ!」


脅された。ヤバい、『妹パラダイス』とはエッチなゲームで、その…妹がヒロインのアウトなヤツだ。リアル妹の琴里に知られたら、僕死んじゃう。


「わ、わかりました。真白、そのまま24時間監視の方向でお願いします」


何を24時間監視を肯定してるの、僕?


「そんな事より、空音、あなた悠馬が自殺したらどうするつもりだったの? 悠馬の落ち込み方はそれ位のものだったわよ、あなた、近くにいて、気がつかなかったの?」


「わ、私…でも、今は悠馬の事、愛している、二度と浮気なんてしないし! それより真白ちゃんの方が酷いじゃん、ちゃっかり悠馬の彼女になっちゃて! 酷いよ!」


「私はあなたが浮気なんてしなければ、悠馬への想いは一生秘めて墓場まで持っていくつもりだった。あなた達の結婚式にも笑顔で出席して祝福しようと思った。でも、でも!!」


「結局私から悠馬を盗んだんじゃん、悠馬と私の方が真白ちゃんよりずっと昔から近いのに!」


「あなたと悠馬は最悪の相性なのよ! あなたは悠馬に恋なんてしてなかったの、空音はただ甘えたい人、悠馬は甘やかしたい人、だから二人はお互いいつも一緒だったの! でも、それじゃ駄目なのよ。あなた達! 又、同じ事繰り返すわよ。それに気がついて、私は悠馬の恋人になったの!」


「だって、だって、私、17年も一緒にいて、ほんの一瞬隣にいなかっただけなのに、真白に悠馬盗られてぇ!! 私の17年間はなんだったの?」


「あなたが悠馬の隣からいなくなったのは空音の意思でしょう? それで悠馬がどれだけ傷ついたの? そして、貴方は又同じ事をするわ。悠馬の優しさに付け込んで、私は悠馬にあんな思いを決してさせない」


「じ、十七年も一緒だったのに…」


「私だって、17年間悠馬を見てたわよ。悠馬とあなたが仲良くしている処をずっと…私もあなたみたいに簡単に悠馬と距離を近づける事ができたならと、ずっとそう思ってたわよ」


「わ、私…」


「知ってる? 私がこの高校入るのにどれだけ勉強したか? わからないでしょう? だって、あなた悠馬と一緒で、大して勉強しなくても成績良くて…どんな服着ても似合うし…わからないでしょう? あなたには? 私が悠馬の横に並んでも似合う様におしゃれも、美容もどんなに頑張ってたのか! あなたみたいに天然で頭良くて綺麗な子にはわかんないのよ!」 


「わ、私、わぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」


空音は泣きだして、行ってしまった。お弁当も置いて行ってしまった。


「…ごめん、真白」


僕は真白に謝った。空音を拒絶するのは僕の役目だ。真白の言う通りだ。僕と空音は最悪のカップルだった。僕は自分の為に空音に優しくしたんだ。空音は甘えん坊だった。甘やかしたい人と甘えたい人、だから僕は空音の傍が居心地がよかったんだ。だけど、僕は空音の為に甘やかしたんじゃない。僕の為だった。僕の優しさは全部自分の為、真白は僕がおやつを全部空音にあげてしまった時、僕におやつを半分くれた。人は支えあって、辛い事も嬉しい事も分かち合って生きるべきだ。真白は小学生の頃からわかっていたんだ。僕が悪い、僕は相手の事なんて考えずに自分の全てを差し出していた。それは相手の事を想っての事じゃない。僕の優しさは偽物だ。


「…ごめん、真白」


僕は何度もこの言葉を繰り返した。そう、僕が全部悪い、それなのに僕は真白に空音を拒絶させてしまった。僕は、僕は最低だ。

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