第23話 幼馴染達の攻防3悠馬の優しさは罪

真白は未だ風邪が治っていなかった。昨日お見舞いに行ったけど、真白は未だ調子が悪い様だったし、今日も真白から、


『ごめんなさい。今日も無理みたい』


わざわざLi〇eで連絡が来ていた。無理してLi〇eをくれなくてもいいのに。昨日の容態で、無理なのは察しがついていた。でも、僕への気遣いは嬉しかった。早く良くなって、一緒に登校したいな、そんな気持ちでいっぱいだった。


今日も一人で登校する。一人で登校したせいもあり、色々考えてしまう。真白も空音も海老名も同じプレゼントを贈ってくれた。真白はいつも僕の事を見ていてくれていた。空音も僕を見てくれる様になったのか? でも、今更…それに海老名まで…僕はどうすればいいのだろう?


学校に到着して、教室に入ると大和が先に来ていた。


「あわわわわ、ゆ、悠馬おはよう!」


大和は何かを慌てて隠した。でも、僕の目には入ってしまった。何か野草の葉っぱみたいなものを100均のプラスチックの箱に入れていた。トリカブトだよね? それ? どうも、大和はマジらしい、どうしよう? このままだと僕、大和に亡き者にされんの?


真白のいない一日は淡々と時間が過ぎていく、時々空音と目が合い、僕の方から逸らす。空音は髪を茶髪に染めたようだ。真白に対抗しているんだろうか? 真白は本物のプラチナブロンドだから、脱色みたいな髪じゃない。もっとも、以前、髪をワザワザ脱色系の茶髪に染めていたので、ロシアから取り寄せた日本のより本物の金髪に近い色合いのヘアカラーにしているそうだ。

実は僕はもう、空音を許していた。でも、僕は空音ではなく真白に心を惹かれていて、僕はどうすればいいのだろうか? 空音だけじゃない、海老名の事もそうだ。


お昼の時間になって、今日も大和と海老名の三人で屋上でお弁当を食べる事になった。今日も海老名に『あ~ん』を強要されそうだ。海老名! 大和に『あ~ん』してあげなよ! 僕の為に! 大和が犯行を躊躇うかもしれないじゃないか!


「じゃ、今日も悠馬に『あ~ん』してあげるね」


海老名が上目づかいで僕に懇願する様に『あーん』を強要する。でも、僕も馬鹿じゃない。予想して、対応策を考えていた。


「いや、大丈夫だから。鞄に鍵かけておいたから」


ニヤりと海老名に笑みを向ける。勝った、と思ったが、海老名の方が一枚上手だった。


「あら、いいのかしらそんな事言って、これは何かしら?」


「そ、それは!?」


僕のキーホルダだった。海老名は小指にキーホルダのリングをかけ、くるくる回していた。僕は慌ててポケットの中を探すが、入っていない。


「どうやって、僕のキーホルダーを!」


「さっき、すれ違い様にすったのよ!」


何でスリのテクニックなんて持ってるの?


「こんな事もあろうかと練習しておいてよかった♪」


どんなこんな事だよ!? でも、結局、海老名に『あーん』をされた。


「どう? 美味しい? 今日の唐揚げ自信作なの♪」


「美味しいよ。ありがとう」


無駄に美味い事と間近で見る海老名の顔が無駄に可愛いので腹がたった。


「あ!? 悠馬! 口元にご飯粒がついているよ♪」


海老名はハンカチで僕の口元を拭ってくれた。え? あれ? それハンカチじゃないよ。海老名が拭ってくれていたのは、ハンカチじゃなくて、パンツでだった。白のやつで、可愛い赤のリボンがついてる。パンツを仕込む件、やっぱりマジか? それにしても海老名は未来の旦那を社会的に抹殺してどうするつもりなんだろうか? よくわからん子だ。


そんな事を思っていると、突然、声をかけられた。


「なあ、悠馬、これは一体どういう事なんだ? 俺にはさっぱり事態が飲み込めない」


声の主はクラス委員長の藤沢だった。


「えっと、今日は真白がお休みで、海老名がお弁当を作ってくれたんだ。真白も知ってるんだ」


「海老名がお弁当作っている事もよくわからんのだが、何で悠馬は海老名に『あ~ん』されてるんだ? それ、真白も知ってるのか?」


「い、いや、真白は知らないと思う。海老名に無理やり…」


「無理やりでも駄目だろう? お前は今、真白とつきあってるんだろ?」


そだね。はい、真白に対して罪悪感を感じてます。海老名は可愛いけど、腹黒だから僕だって、ホント嫌なんです。


「じ、実は海老名に脅されて!」


「―――――~~~~ッ!!!!」


海老名が無言で圧力をかけてきた。でも、ここは本当の事言った方が得だよね。藤沢は人望があるから、理解してもらえば、万が一の時に安心だ。


「海老名が『あ~ん』を受けないとパンツで僕を社会的に抹殺するって脅すんだ」


「いや、さっぱり意味がわからん」


僕は事の次第を詳しく説明した。海老名は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしていた。


「海老名の『あ~ん』の件は理解した。だけど……その空音さんは一体どういう事なんだ?」


「わ、私ですか? 私、悠馬を真白から取り戻そうとしてるんです。私、一回の浮気位、我慢できます!」


空音だった。実は最初から空音は僕達の近くにいた。少し離れた処で正座をして、お弁当を食べていた。もちろん、無視していたのだが、あっちへ行けとまで言う非情さは僕にはなかった。正座をして食べているのは贖罪の為と思っていたんだけど、違うみたいだ。空音的には僕が浮気をした事になっている様だ。ホント、僕の幼馴染、真白も海老名も空音もみんなどっか、頭のねじが飛んだ子ばっかりだな。


「空音さん。君が悠馬を振った事は真白から聞いている。君が以前から藤堂とデートを重ねていた事もたくさんの人が見ている。浮気をしたのは君の方だ」


「ち、違います。私、藤堂君と一緒にいるとドキドキできて、でも、一緒にデートしてただけなんです。悠馬に悪いと思ったから、一時的に別れただけなんです」


「え~と、意味が…」


「どうも、空音も真白と同じで、…脳が…」


「悠馬は脳を犯す病気でも持ってるのか?」


僕が悪いの? 僕、病原菌?


「まあ、事態は大体理解できた。何しろ、悠馬が空音さんと別れて、真白と付き合いだした事だけでも大騒ぎになってたし、何故か海老名ともよろしくやっている上、別れた筈の空音さんとまでよりを戻したので、みんなこんがらがってたんだ。真白が休みで詳しく聞けなくてな。事態を理解する為に直接聞きにきたんだ」


「そんなに大騒ぎになってるの?」


「ああ、悠馬はクラスの大半の女子に好かれてるからな」


「へぇ? 僕がクラスの女子から?」


「ああ、今回の事でわかったんだけど、クラスの女子の大半がお前に恋してる。だから、みんな注目してるんだ。以前は幼馴染の空音さんが恋人だったから、みんな気持ちを隠していたらしい」


「なんで、僕、そんなにモテているの? 僕、顔と成績と運動神経以外特にいい処ないよね?」


「悠馬、お前、他の男子から刺されるぞ」


大和に怒られた。でも、僕、謙虚だよね? なんで?


「悠馬は女子へも、誰にでも優しいからモテるのよ。悠馬は色々優しいのよ。あたしも小学校の時、クラスの男子に虐められそうな処を助けてもらって、それ以来…」


海老名が僕の事を好きになったのは、小学校の時、風紀委員をしていて、何か男子に注意していて、逆切れされて、怖い思いをしている処を僕が助けた事が原因らしい。以前海老名が言ってた。でも、そんな事で? 当たり前の事しただけだよ。


「まあ、事態は理解できたが、悠馬、お前、早くキチンとした方がいいぞ。今のままだと真白も海老名も傷つけるぞ」


「そうだぞ。悠馬、モテるの楽しんでる場合じゃないぞ。男子から刺されるぞ」


いや、その前にお前に殺されそうなだけど、大和!


「それと空音さん、悪いがもう君達を庇いきれない。もう、君が藤堂と浮気して、悠馬を振った事は学校中に伝わった様だ。たくさんの人が前から君と藤堂がデートしている処を見ている。君は女子から総スカンをくらうと思う」


「わ、私、浮気なんて…」


「そんな事は誰も理解できない。それに藤堂はもっと酷い目に遇うだろうな。先日絡まれている処を悠馬に助けられたのにも関わらず、逃げた様だ。それも、空音さんをおいて…男子からも女子からも総スカンだろうな」


あの話、もう伝わったのか…あんな大きなファションモールでやらかしたんだから、目撃者がいても当然か…


「悠馬、空音の事は早く考えた方がいいわよ。真白の為に」


「考えるって、何を?」


「何をって、そんな事もわかんないの? だからあなたは駄目なのよ! 無駄に優しいから!」


海老名に怒られるけど、僕にも海老名の言わんとしている事が判ってきた。僕は無駄に優しいらしい。でも、僕の優しさは相手の為じゃない、僕の為…だから僕は駄目なんだ。


僕は自分の愚かさがようやくわかってきた。

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