第22話 幼馴染達の攻防2海老名vs空音

朝、目覚ましの音で目が覚めた。中学校3年までは空音に毎日起こしてもらっていたが、高校1年の頃から僕は一人で起きる様になっていた。空音を異性ととらえ始めた時、空音に起こしてもらうのが恥ずかしくなってきたからだ。再び空音に起こしてもらうようになったのは、付き合い始めてからだ。


ここ最近、起きると最初にする事はスマホのチェックになった。時々真白からLi〇eが入ってたりするんだ。でも、その日のLi〇eは残念な内容だった。


「…真白、風邪ひいたのか」


僕は真白を励ますメッセージを送った。


『真白、おだいじに☆プレゼントありがとう☆嬉しかったよ☆』


僕はとても残念に思った。最近、ようやく元気になってきた。真白のおかげだ。毎日真白が迎えに来てくれるのが嬉しかった。今日一緒に登校できない事が本当に残念に思えた。こうして僕は真白のいない一人での寂しい登校になった。教室に入ると既に親友の大和が机に座っていた。


「や、やま…」


僕は声をかけ損ねた。大和は熱心に一冊の本を読んでいた。僕の目に背表紙のタイトルが目にはいってしまった。タイトルは、


『恋敵の親友を殺す方法(完全犯罪のすすめ)』


「あ? え? あ! 悠馬、おはよう! 今日は早いな!」


大和は慌てて、本を隠す様にしまい、爽やかな笑顔で僕に挨拶した。


「(何、爽やかな顔して人を殺す算段してんだ、こいつ! 怖いよ!)」


内心毒づくが、突っ込めない。だって、絶対マジなやつだよね、これ? 僕は真白のファンに殺される前に海老名のファンの親友の大和に殺されそうだ。


「あ、お、おはよ。いつもはこんなに早かったんだ」


「ああ、俺はいつもこの時間には来てるぜ。あれ? お前、今日は真白さんは?」


「真白は風邪をひいて、今日は休みなんだ」


「そっか、残念だな…ところで…トリカブトってどこに咲いているか知っている?」


僕に聞く?


「い、いや、知らない。聞いた事ないよ」


「そうか、残念だな…」


何が残念なんだ? 怖いよ。大和…


そして、何事もなくお昼休みを迎えた。お昼を告げるチャイムが鳴ると、海老名が寄ってきた。


「真白から聞いてる。安心して、あたしが三人分お弁当作ってきたから」


「え? 海老名が?」


「そうよ。愛妻弁当よ。期待していいわよ!」


誰が愛妻弁当だ。それにしても、真白はなんで海老名と連絡をとったりしたんだろう? 一応、僕と真白は付き合っていて、海老名が横恋慕している訳だから、不思議だ。そんな事を思ったが、お昼ご飯は食べたい。真白のお弁当が食べれないのは残念だが、海老名のお弁当を辞退するのもどうかと思った。だって、真白が手配してくれた訳だから、仕方ないよね。だから海老名のお弁当で我慢しよう。そうこうして、屋上で三人でお弁当を食べる準備をした。


「悠馬、お前、手早いな」


「ホント、男の癖にそういう事早いって意外ね」


大和と海老名にお弁当を食べる準備の速さを褒められるが、別にいつもの事なんだけど、不思議だ。


「とにかく、食べようよ。海老名、ありがとう。助かるよ」


「うん、あたし頑張ったのよ。美味しかったら褒めてよ!」


「ああ! もちろんだよ!」


「大和君もちゃんとお礼言ってよね?」


「う、うん、もちろん俺は大大的にお礼を言うよ!」


こうして、三人で食べ始めた。談笑しながら食べるが何故か海老名がちろちろとこちらを見る。こいつ無駄に可愛いから、ドキリとする。顔だけだと、可愛い系の美少女だ。高校生のくせに少し幼さが残る顔立ちで、この顔立ちで、性格最悪の腹黒だから、残念だ。しかし、わかっていても、そう何度もこちらを見られるとこそばゆい。


「あ、あの、何かな? 海老名?」


「う、ううん、いや、あ、あたし頑張れ!!」


「え?」


「ゆ、ゆゆゆゆ、悠馬…あの、『あーん』してあげよっか?」


海老名が頬を赤らめ必死に恥ずかしさを堪えて、僕に言ってくる。いや、真白がいないからって駄目だろ?


「いや、駄目だよ。真白に悪いよ!」


「なんでよ! テイなんでしょ!!」


「真白はそんなつもりはないんだ!」


「ふーん。そんな事言うんだ。あ、あたしの『あーん』は拒否るんだ…」


海老名は涙目で言ってくる。これがめちゃくちゃ可愛いのだ。顔だけはホントに無駄に可愛い妹系美少女だからな、海老名は、


「悪い、僕は真白を裏切る様な事はできないよ」


海老名はシュンとなったけど、今度はふっ、と何かを吹っ切った様な顔をして、


「あ、あたしね~、今、パンツ履いてないんだ~♪」


「はぁあ?」


な、何を言い出す海老名?


「あたし、今パンツ履いてないの。悠馬に無理やり脱がされちゃって…」


「ゆ、悠馬、お、お前、ま、まさか、まさか海老名に手を出したんじゃ?」


大和が涙目で、僕を睨む。いや、僕そんな事しないから、そんな度胸ないから!


「ち、違う、よく見ろ、海老名の顔! あれは悪い事考えている顔だ」


海老名は悪役令嬢ばりのあくどい笑みを浮かべていた。


「うわ~、折角の海老名の可愛い顔が…」


大和があまりの事にショックを受けた様だ。


「多分、あたしのパンツ、悠馬の鞄の中ね♪」


「海老名、まさかホントに僕の鞄に仕込んだりしていないよね?」


「さあ、どうかしら? でも、あたしの『あーん』を受ければ許してあげるわよ♪」


「そんなあっ!? こんなに汚い『あーん』はないよ!」


「いいな、悠馬は…」


大和がしょんぼり呟く。馬鹿海老名! 大和の気持ちに気がついてやれよ! いい奴なんだぞ! 僕の命さえ狙ってなきゃな!


「で? どうなの? 返事は?」


「わかったよ。受けるから…」


苦渋の決断だった。海老名は多分マジだ。コイツ腹黒だから本気でやりかねん。流石に履いてるだろうが、僕の鞄に一枚入れとけば、推定有罪が確定する。ホント腹黒だな、コイツ。しかし、ここから恋に発展すると思っているのかな?


「はい、悠馬『あーん』」


海老名が赤い顔に満面の笑みを浮かべて、僕に箸を突き出して来る。近いな、真白より近い様な気がする。しかし、間近で見る海老名の顔は愛らしかった。これで性格よければな…僕には関係のない話だが…


「美味しいよ。ありがとう」


一応お礼は言っておく。実際、海老名の焼売は美味しかった。


「俺も海老名の焼売欲しいな」


大和が海老名に無心する。そうだ大和頑張れ!


「はあ? あんたのお弁当にも入ってたでしょ?」


「ないよ、入ってなかったよ」


「そ、そうだったっけ? わかったわよ」


そういうと、海老名は指で焼売を掴むと大和の口に指で焼売を突っ込んだ。


「う、ムぐッ!? う、美味い!」


や、大和…いつかきっと、海老名が本当の『あーん』をしてくれる事をお祈りしておくからな! だから僕を殺さないで!


「ところでさ、どうする?」


「そうだな、どうしようか?」


「何の事だ、お前ら何言ってんだ?」


大和は未だ気がついていない様だ。さっきから、屋上の階段の扉の裏に潜む、女の子がいる事に、


「ねえ、姿を現したら、空音でしょ?」


海老名がはっきりと言った。僕も多分、空音だと思った。さっき、扉の影から少し髪が見えた。


「ええ? 空音ちゃんが? 何で?」


「僕にもわからないよ」


「まあ、あたしは予想がつくけど…」


海老名が何かもったいぶった言い方をする。そうすると、空音が扉の後ろから出てきた。テケテケテケと走ってくるけど、


バタン


こけた…空音はド天然だ。いつも通り、盛大にこけた。普段、僕が注意しているけど、ほおっておくと、直ぐこける。平な処でだ。何故か涙ぐむが、キッと意を決した様に立ち上がり、僕達の方に向かって来た。


「きゃ! いった~いっ! あたしのばか~っ! 何で肝心な時に! やんなっちゃう!」


「どうしたんだ? 空音? 僕らはもう別れたんだろ?」


「藤堂君とはもう別れた。私が愛しているのは悠馬なの」


「えええええええええええええええ!!」


大和が盛大に驚く。そりゃそうだろう。僕も昨日の夜はびっくりした。空音は浮気した癖に浮気したという自覚が足りなかった様だ。無自覚の浮気ってあるのか?


「わ、私、悠馬が浮気したって、気にしないから!!」


え? 浮気したの僕の方? 絶対違うよね? 空音の脳はどうなってんの? 真白もだけど、空音も脳おかしいの? 真白より酷くない?


「「えええええええええええええええ!?」」


二人共同じリアクションしかとれなかった。

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