第19話 ずっと好きだった
下校の時、真白からデートに誘われた。駅前のショッピングモールに行こうよと誘われた。僕は「うん」と言った。気晴らしにいいだろう。真白はかなり僕の事を考えてくれている。空音の事が頭にこびりついている事は承知なのだろう。『気分転換しよぉ』と言われた。
「何か見たいものあるの?」
「夏物の服かな、そろそろ目ぼしつけて、バーゲンの時に買いたいの。悠馬はどこに行きたい?」
「僕はいいよ。真白の好きな処についていってあげるよ」
「駄目よ。悠馬の好きな処もいきましょう。何処か無いの?」
「う~ん。おもちゃ屋かな、貴重なプラモが置いてある店があるんだ」
「じゃ、そこ行きましょう」
「いや、最初は真白の服を見よう」
「ありがとう。悠馬!」
何故か真白は妄想を発症しなかった。いや、こんな処で発症すると困るのだが、少し不思議だった。登下校で毎日妄想、僕の発言捏造を繰り返しているから心配だったけど、流石にこれだけ人が多いと自制心が働くのかな。
でも、僕はふっと思った。空音とデートする時、僕は僕の見たい処に一緒に行った事はなかった。いつも空音の行きたい処だけに行っていた。僕がそれでいいといつも言っていたからだ。
僕はこの事がとても重要な事とはこの時、思っていなかった。
二人でファションモールのある2Fにエスカレーターで登った。たくさんの女性の服が並び、たくさんの女の人がいた。男性はたいてい女性の連れがいた。僕はこのファションモールには詳しかった。空音はお買い物が大好きだった。それで、ここには頻繫に来ていた。よく、こんなに時間かけられるな~といつも思っていたが、楽しそうな空音を見ると、そんな事は飛んでいき、僕も楽しかった。一方…真白を見ると…いつも通り無表情だ。空音の様に、こういう処でウキウキ感満載で、顔に出さないんだ。まぁ、クールで有名なんだから、仕方ないよな。それに無表情でも真白は魅力的だ。
いや、それにしても真白は空音より服を選ぶのに時間がかかるな。既に2時間は経過したが、未だ最初の店の中で必死に服を選んでいる。服は3着位しか見てないのに、こんなに悩むのはびっくりだった。僕の見たいおもちゃ屋さん行く時間あるのかな? って思っていたら、
「あっ! ごめんね。もう、こんな時間、おもちゃ屋さん行こうよ」
「えっ? いいの? だって真白、未だ服見きれていないんでしょ?」
「ううん。そろそろおもちゃ屋さんに行かないと私、門限あるから」
「そうなの? じゃお言葉に甘えて、おもちゃ屋さんに行こうか?」
「うん。その代わりに、また付き合ってね?」
「うん。わかった。もちろんだよ」
エスカレーターの方へ向かって二人で歩いていくと、突然、
「駄目! 悠馬、見ちゃ駄目!」
突然真白は僕の首がもげそうな位右90度に僕の首を曲げた。いや、折れて死んだらどうする?
「いや、真白どうしたの?」
ホント、どうしたんだ。真白は突然僕の顔を90度曲げて自分の胸に押し付けてきた。柔らかい感じが凄く気持ちがいい。あったかいし、ちょっと得した気分。でも、真白らしくないよ、そんな極端なスキンシップを突然なんで? 突然妄想で何か発症したかな? でも僕は見てしまった。真白が見せたくないものが、なんなのか? それは空音と藤堂だった。真白は僕の首を90度曲げたが、ちょうど目の前に鏡があった。だから、目に入ってしまったのだ。鏡には空音と藤堂、そして知らないヤバそうなヤツら3人が映りこんでいた。
「(多分、空音が何かしでかしたかな?)」
僕はそう思った。空音は天然だから人とよくぶつかるし、天然の癖に妙に正義感が強くて、ヤバい奴らとか見ると結構辛辣な毒を吐く。空音は何も考えない、だから絡まれる。それを解決してきたのは空音じゃなくて、いつも僕だった。
「ごめん。真白、空音と藤堂だろ、見えたよ。そこに鏡があるんだ」
「悠馬、気を落とさないでね。私が必ず癒してあげるから」
「真白、ありがとう。でも、どうもまずい様だ」
藤堂とヤバい奴ら三人が何か口論になっている。慣れていないとああいう奴らの対応は難しい。対応を間違えると、待っているのは、
「テメェ! 舐めてんのか?」
「こいつ、やっちまおうぜ!」
「その女もふざけすぎてる!」
藤堂が殴られた。事態は最悪だ、このままだと藤堂も、もしかしたら空音も暴力の被害に会うかもしれない。女の子の空音は万が一連れ去られたりしたら、とんでも無い被害を受けるかもしれない。
「真白、行ってくる!」
「……悠馬、駄目よ!」
真白は止めたいだろう。でも僕が空音を無視できない事もわかっているだろう。
だだだだだだだだだだ、と空音と藤堂の近くまで走る。そして、
「藤堂、加勢する!」
「なんだ、こいつ!」
「仲間か、まとめてやっちまえ!」
2:3か、まあ、負ける事はないと思うけど。そこそこやっつけておかないと、こういう奴ら、図にのって、散々ちょっかいを出して来るんだ。多少は痛い目にあってもらうしかないよ。
ふわり、と男が舞う。僕の柔道の技だ。僕は意外とケンカに慣れている。意外だろ? 確かに僕のキャラにあわない。でも、空音の傍にいると、自然に巻き込まれるんだ。
ドカっ!
ベシっ!
「もう、いい加減、やっていられるかぁ!」
そういうと、藤堂は逃げた。嘘? マジ? 僕、ヤバくない?
「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪、連れは逃げたみたいだなぁ?」
「謝るなら、今のうちだぞ」
そう言うと、二人の男が僕に迫る。もう一人は最初の投げで伸びている。
「…お前、柔道をやるみたいだな、だけど残念だな」
「何が残念なの?」
何処に残念な要素あるの? 無いよね?
「それはな、俺様が神奈川県大会の優勝者だからだぁ!!」
「ええっ?」
僕はマジで驚いた!
「驚いたか? そうだ、お前がどれ程柔道に打ち込んでいたとしても、俺様には勝てる筈がないという事だぁ!」
「いや、そうじゃ無くて、何で柔道のチャンピオンがこんな処で喧嘩してんの? 駄目でしょ?」
「そ、それは…うるさい! 人には色々事情があるんだ! いいから、さっさと観念しろ!」
嫌だよ。観念したくないし、多分勝てる、勝てる。
「僕、女の子を虐めるヤツには頭を下げたくないんだ、例えボコボコにされてもね」
「いい心がけだな、それに免じて、俺様が投げてやる!」
そういうと、男は素早く僕の懐に入って来た、早い! 神奈川チャンピオンはおそらく本当だ、だが!
ふわりと宙に舞ったのは男の方だった。
ドカっ!
「う、嘘だぁ! 鵠沼が投げられるなんてぇ!」
投げた男は衝撃で起き上がれないようだ。もう一人の男が怒鳴る!
「お前! 一体何者だぁ! あり得ねぇー、鵠沼を投げるなんてあり得ねぇ!」
「神奈川県のレベルは高いと思うよ…でも、今や柔道は世界規模だよ。僕は欧州の柔道チャンピオンだったからね」
「なぁ!? 欧州? ヨーロッパのチャンピオン!?」
その時、真白の声が響いた。
「あなた達、止めなさい!」
僕と最期の一人の間に真白が立ちはだかった。
「真白、駄目だよ! 危ないよ!」
「悠馬は黙っていて!」
「なんだ、お前、コイツの女か?」
「そうよ、悠馬の彼女よ!」
「ち、ちきしょう! お前達、俺達に喧嘩売りやがって!!」
「貴方達こそ、早く逃げた方がいいんじゃないの? もう警察には通報したわよ」
「ぐっ!? てめえ!」
「あなた達、馬鹿なの? こんな処で喧嘩したら、警察直ぐ来るわよ」
「ちっ! ムカつく女だ。お前ら、早く起きろ! 行くぞ、覚えてやがれ!」
ヤバい奴らは逃げた。そりゃ、ここは路地裏じゃない。こんな処で喧嘩したら、警察の前に警備の人が来るかもしれない。あいつら多分、喧嘩なれしていないな。空音にかなり辛辣な事を言われて、我を忘れて激怒したんだろう。
「……大丈夫、悠馬」
「ああ、幸い、大怪我はなさそうだ」
「良かった。もうこんな事止めてね」
「……」
沈黙してしまった。別に空音じゃなくても助けたと思う。僕は女の子が困っているとほおっておけない性格なのだ。
「…ゆ、悠馬、ありがとう。ごめんなさい」
「空音、あの人達に何て言ったの? 言葉には気をつけてって言ったよね?」
「えっ? 私、ただ、『臭い口塞いでよ、もう限界です』って言っただけよ」
それ、誰だってカチンとくるよね。どちらかと言えば空音の方が悪い。
「悠馬…やっぱり、私、悠馬の事…今日、藤堂君と別れようとしていて…ごめんなさい!」
そういうと、空音は逃げて行ってしまった。これ以上合わせる顔が無いのだろう。
「…悠馬、あなたは優しすぎるのよ」
真白はそう言うと、僕の顔を抱きしめた。
「私だって、子供の頃から、ずっと…ずっと悠馬の事、好きだった。もう、遠慮しない。もう空音になんかに負けない。悠馬は私が守る」
「……ま、真白」
「悠馬は私が癒してあげる、だから、私の事を愛して」
「僕は真白の事好きだよ」
「違うの、好きじゃ無くて、愛して欲しいの!」
「……」
僕は即答できなかった。未だ、新しい恋をする気持ちにはなれていないんだ。こんな気持ちで真白の気持ちに付け込みたくない。真白がどんなに綺麗な女の子で、誰もが羨んだとしても……
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