第16話 悠馬を振った幼馴染4

藤堂君とデートを繰り返すうちに、私の心はすっかり藤堂君にもっていかれた。私は何で悠馬となんかと付き合っていたんだろう? 陰キャだし、線は細いし…それに比べて藤堂君は浅黒い肌、精悍な顔つき…がっしりしていて男らしい、悠馬とは正反対…それに私、モテるし、悠馬なんて、サッカー部で1点もとれないお荷物…それに比べて藤堂君はエースストライカー…比べるべくもなかったわ。


『優しさだけじゃ、ムリ』、『悠馬はしょせんつなぎだったのよ』、『きっと、私よりふさわしい人がいるよ』、私ほどいい女じゃないだろうけどね。


私は悠馬にL〇neを送った、別れ話をする為に…


☆☆☆


こんな筈じゃなかった…そんな想いに捕らわれたのは、藤堂君達のチームが悠馬達のチームに惨敗して、藤堂君を慰めてあげようと思った時だ…藤堂君は怒り狂って、私を足蹴にした。


悠馬なら絶対、こんな事しない…それだけじゃない。デートを重ねるうちに段々わかってきた。舞い上がっていた頃と違って、冷静になれた時、悠馬がどんなに優しくて、私の事を想っていてくれたのかを…悠馬はいつも道路側に立って歩いてくれた。いつも、私を守る事を考えていてくれた。ショッピングモールにお買い物に行っても、悠馬は自分の見たいものなんて、見ないで、私のみたい処だけに行ってくれていた。


でも、私の中では、一つの事がいつも頭をよぎっていた。浮気したのは悠馬の方…


『浮気者』。私は自分の事を棚に上げ心の中で悠馬に毒づいた。


私は何故か無性に悠馬の浮気を責めてやりたかった。藤堂君には魅力を感じなくなった。むしろ、今は悠馬に心が…いや、違う! 悠馬は浮気者! それを責めてやりたい!


私は浮気の証拠を、例のクラスメイトの女の子に確かめようとした。


「ねえ、詩織、あなた3週間位前に悠馬と、その…ショッピングモールで二人で逢っていなかった?」


「えっ? 見つかっちゃっていたの? ごめん、でも、やましい事は何もしていないわよ。それに、今、空音は悠馬とは別れたんでしょう? 私、藤堂君にアドバイスされてね、悠馬君の空音の記念日のプレゼントを探すの手伝っていたの。藤堂君がね、悠馬とデートしたかったら、そうすると、きっとデートしてくれるよって、教えてくれたの!」


「えっ!?」


私の心は闇のどん底に堕ちそうになった。


それは、悠馬に見切りをつけて藤堂君と付き合い始めていた、2週間前のあの日の事、


藤堂君とデートをしていると、悠馬からL〇neが入った。面倒だけど、未だ別れていなかったから、藤堂君と別れて、悠馬の家に向かった。私は悠馬の家の呼び鈴を押した。いつも呼び鈴を押す事に戸惑い等覚えた事はなかったけど、あの日は何故か指が震えた。


すると、悠馬がすぐにドアを開けて私を出迎えてくれた。


「ようやく着いたんだね。待ってたよ」


「ご、ごめんね、悠馬。ちょっと花蓮と話が盛り上がっちゃっていてね」


「別に空音が謝る事はないよ。僕の方こそ急にごめんな。ビックリしたよね?」


聞かれてもいないのに思わず言い訳が出る。でも、悠馬も浮気したんだから……


「あはは……チョット、ビックリした、どうしたの?」


「それはもうちょっとのお楽しみ」


悠馬は笑みを浮かべた。とても眩しい。何故か私は眩しすぎて悠馬の顔を見られない様な気がした。


「空音? 具合悪いのか? なんか顔色悪いよ?」


「えぇっ!? あっ、ううん! 全然平気だよ!」


悠馬と同じ事をしただけなんだから。仕返ししただけなんだから……私だけが悪い訳じゃないから。そう、自分に言い訳をしても、自分の心にチクチクと何かが突き刺さり始めるような感覚。私は何をしてたんだろうか? こんなに…こんなにも心が痛むんだったら、藤堂君とデートなんて…


「じゃ、早くあがりなよ。お母さんが紅茶入れてくれるそうだよ!」


そう言って眩しい笑みを浮かべながら、悠馬は珍しく大胆に私の手を取ると、そのまま悠馬の部屋までエスコートしてくれた。悠馬の大きなあったかい手……この手で他の女の子の手を握っていたのかな? 悠馬は眩しい存在じゃない。私と同じ、浮気者……

部屋はいつもと違っていた。リボンで飾り付けられ、珍しく綺麗に掃除が行き届いていた。そして、真ん中の小さなテーブルには私が大好きなマロンケーキが2つ用意してあった。


「えっ!? 悠馬、これどういう事? 私の誕生日は未だだよ?」


「僕が空音に告白して、彼氏彼女になってちょうど1年目だよ!」


「え? だって、悠馬ってば、私の誕生日をいつも忘れるのに……記念日だけ覚えてたなんて?」


「だって、ほら……3月の空音の誕生日忘れてて、ケーキもプレゼントも無かったから、僕、今回のお付き合い1周年は絶対忘れちゃダメだと思って…… 」


「嘘……悠馬、覚えてて、くれてたの?」


「あんなに怒られたんだよ! 僕だって流石に学習能力あるよ。それに、二人の大切な思い出を忘れないよ!」


私は悠馬の浮気ですっかり忘れていた。でも、悠馬は浮気していたんだよね? 私の事を大切って言いながら……そう思うと無性に腹がたった。だから、あの時は何も思わなかった。


私は記憶を思い出して…この子とのデートは全部あのサプライズプレゼントの為? 嘘でしょ?


「ゆ、悠馬……わ、私……」


「どうしたの? 空音? 顔色悪いよ?」


突然顔色が変わった私を詩織が心配する。

私は心の中で悠馬に謝った。悠馬は浮気なんてしていなかった。


唇が震えた。多分顔色は悪く、真っ青だろう。血の気が引けた。私は一体なんて事をしてしまったんだろうか?


でも、私は気持ちをすぐ切り替えた。私は悠馬を裏切ってしまった。どうしよう? でも、正直に話して許してもらえば、きっと…… 悠馬は優しいから……


「きゃ! あたしのばか~っ! 何て勘違いなのぉ! やんなっちゃう!」


悠馬は何故か別れ話をした後、とても寂しそうな顏をしていた。


『わ、私、悠馬が浮気したって、気にしないから!!』


私は気持ちを切り替えると悠馬の事で頭がいっぱいになった。

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