第15話 悠馬を振った幼馴染3
あれから何度か大和君とカラオケだったり、ゲームセンターに行くとか言って、私と下校を共にしない事が2回程あった。そして、悠馬はスマホを時々気にする様になった。以前はスマホなんて滅多に見なかった癖に一緒にいるのにスマホをチェックしていた。これ、完全に浮気だよね? いや、浮気じゃなくて、あの子の方が本気なのかも、私は自分に自信がなかった。
あれから、悠馬が大和君と何処かに遊びに行くと言うと私は藤堂君と連絡を取っていた。本当に大和君と会っているか、それと無く探りを入れると大抵は嘘だった。
3度目、悠馬に騙された時、藤堂君からラインが入った。
『気晴らしにデートしない?』
そんな気分ではないけど、藤堂君は優しい。悠馬より優しい。私が悠馬の浮気に苦しんでいる間、ずっと私を励ましてくれた。
『きっと、何かの間違いだよ』
『悠馬を信じてあげなよ』
そう言って、私を励ましてくれた。藤堂君が悠馬を信じてなんていない事は判っていた。でも、必死に私を励ましてくれた。それで、私は彼に甘えようと思った。彼に癒されようと、ただ、そう思った。これは浮気じゃない。だって、悠馬の方が、そう思うと涙が出てきた。
『お願いします』
『ありがとう』
私はLi〇eで返し、返事を待った。藤堂君から…直ぐに返信が来た。悠馬とは大違いだ。
藤堂君と落ち合って、デートする。いや、藤堂君が私を気遣ってくれてるだけだ。
優しい笑顔で見つめてくれる藤堂君を見ると安堵の心が湧き出てくる。こんなにも私の事を心配してくれるんだ。藤堂君の優しさに感謝した。多分、彼がいなかったら、私、壊れてしまった。そして、藤堂君の隣にいると、そう…胸が少しドキドキしてきた。こんな気持ちになるのは初めてだった。
「新しくできたお店があるんだ。スイーツが美味しいらしいよ」
「あ、ありがとう。私の為に嬉しいです」
「あまり、思いつめちゃ駄目だよ。間違いかもしれないじゃないか?」
そんな訳はないのに、私は藤堂君の優しさに感謝した。そうだ、思いつめてばかりじゃ気が滅入るだけだ。今日は羽を伸ばそう。
「空音さんとデート出来て、凄く嬉しいよ。かりそめの彼氏役でも光栄だよ」
「藤堂君止めてよ。私の事、気遣ってくれてるだけでしょ? これはデートじゃなくて唯のお買い物です。私、今日はお買い物魔人になりますからね! 付き合ってください!」
「わかったよ。今日はお姫様の従者に徹するよ」
そう言って、爽やかに笑った。
悠馬以外の男子とデートなんて初めてだった。でも、悠馬は浮気者だ、私だって、これ位の浮気いいよね? 私には悠馬への『あてつけ』の感情が浮かんだ。
「(これで、見つかって、少しは私に気持ちを戻してくれたら……)」
藤堂君が連れて来てくれたスイーツのお店はとても絶品だった。そして、お買い物魔人が発動した。私は久しぶりにはしゃいだ。
「ねえ、藤堂君、このアクセサリー私に凄く似合っていない? 凄い可愛い!」
「似合っているよ。空音さんは可愛いから、凄く似合うよ」
「や、やだな。そんな風に言わないでよ。恥ずかしいよ」
とか言いながら、まんざらでもない私がいた。そして、藤堂君は突然私に真顔でこう言った。
「……そんなにショックなら、別れればいいんじゃないかな? いつまでもすがっていては惨めなだけだよ」
突然突き付けられた言葉に私は息が詰まった。その通りかもしれない。悠馬は私を裏切った。いや、いっそ、振られて裏切られるのなら、まだわかる、悠馬は私と彼氏彼女の関係のまま浮気をしているのだ。悠馬は遊び人なのかもしれない。頭、いいもんね。顔だって、陰キャだけどいい、意外と女子に人気がある。私だけじゃ満足できないのかもしれない。でも、そんな悠馬は嫌い。なら、私は悠馬と別れるべき……
藤堂君から苛立たしげに吐き出された言葉。それは私の心の中にしみ込んで行った。
そんなことを考えていると、なんだか視界が潤んできた。見つめていた藤堂君の顔がぼやけ、喉からか細い声が溢れた
「わ、私……」
泣いてもいいよね? でも、藤堂君に悪いな。こんな処で泣くなんて。せっかく藤堂君が慰めてくれたのに、すぐ泣く面倒な女だなんて思われたくない。藤堂君に嫌われたくない。
「空音 、泣くなよ! くそっ!」
涙はとどめなく流れ、頬を水滴が一筋通る。それを見た藤堂君はなんだか焦った様だ。
「俺が悪い。泣かせるつもりなんてなかったんだ。ただ、あわよくばとかズルい事を考えてたんだ」
「……?」
頭がぼーとした。藤堂君の優しさと私を想う気持ちで頭がいっぱいになった。私は思った。悠馬、あなたは私を裏切った。なら、いいでしょ? 私があなたを裏切ったって? 私の頭の中にドス黒い霧の様な物が湧き上がった。
「わ、私、悠馬と別れる。藤堂君の彼女にして? お願い」
「別れる決意、したんだね、空音 、かなり疲れだろ? 少し休もう」
「うん、もう悠馬なんてどうでもいいです…悠馬なんか、もう知らない。忘れてしまいたい」
それが取り返しの付かない事だと私は思いもよらなかった。
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