第14話 悠馬を振った幼馴染2

悠馬の告白から1年近くが過ぎた高校2年生の1学期。私と悠馬は既にキスをするまでの関係になっていた。既にその先もあるかもと、私は毎日勝負下着にせざるを得ない状況になっていた。何せお隣さん同士なのだ。私が悠馬の部屋に行くのも悠馬が私の部屋に来るのもいつもの事だった。だって、窓を開けるとそこは悠馬の部屋の窓なのだ。時々悠馬はえいっと言って、私の部屋に入って来る。何時そういう雰囲気になるのか、もうわからないでしょ?


だけど、そんなある日、それは起きた。私と悠馬が下校を一緒にしない時なんて滅多にないのに、悠馬は、


「今日、大和にカラオケに誘われたんだ。今日は先に帰ってもらっていいかな?」


驚いた。悠馬が私と下校しないなんて、風邪をひいて休んだ時位だった様な気がする。でも、悠馬と大和君が仲がいいのは知っていたし、そこまで束縛するつもりはない。それ位許さないと将来の奥さん失格よね?


「わかった。今日は一人で帰るよ。カラオケ楽しんでね!」


「ああ、ありがとう。今度、空音ともカラオケ行きたいな」


「うん、誘ってね! 楽しみにしてる!」


悠馬はにっこりと笑うと私の前から姿を消した。


一人での下校。普通、当たり前の事なんだろう。でも、これまでいつも悠馬と一緒に下校していた私は何故か不安を覚えた。一人って、こんなに心細いものだったんなんて、


高校から私達の家は電車で2駅程離れている。それで学校から駅に向かって歩くと駅前の繁華街に辿りついた。結構な人数の私の学校の生徒が駅前で遊んでいる。かくゆう私と悠馬もよく喫茶店とかでホットケーキとか食べていた。たいがい、私が誘っていたのだが。悠馬は優等生だから、あまり下校中に買い食いしようとは思わないみたいだった。私に合わせて付き合ってくれているだけだけど、悠馬はいつもとても優しく笑っていた。


でも、私は意外な事実を知ってしまった。


「あれ? 空音さん。今日は悠馬はどうしたんだ?」


声の主は藤堂君だった。最近引っ越して来た、なかなかかっこいい人だ。もちろん、悠馬の方がカッコイイ 


「やだな、私だって、悠馬と一緒じゃない時だってあるわよ」


「いや…実は…言いにくいけど、悠馬はやっぱり…」


藤堂君は何かを知っているかの様な口振りだった。 私は藤堂君のその後の言葉に驚いた。何故って、悠馬は大和君とカラオケに行っている筈なのに。


藤堂君は多分学校で一番人気がある男子だろう。サッカー部のエースだ。サッカー部に入部するなり、レギュラーを勝ち取って、今ではエースストライカー。悠馬もサッカー部だけど、得点している処は見た事がない。


「あの、今日は悠馬と大和君がカラオケに行くって聞いてて、だから私……」


「…… やっぱりか、実は思い当たる事があって」


「何か知っているなら、教えてください。私、悠馬の事が!」


「ショックを受けないでくれよ。実は俺、さっき見たんだ…」


「何をですか? 一体何を見たんですか?」


「実は、さっき悠馬が、別の女の子とデートしている処を見かけたんだ」


「……えっ? いやっ? な、なにいってるんですか?」


「多分、同じクラスの女の子なんじゃないかな、あれは。仲良さげに歩いていたよ」


嘘だ。悠馬が私を裏切る筈がない。う、浮気? い、いや違う、悠馬は浮気なんてしないもん。すっと好きだったて言ってくれたじゃん。キスする時、あんなに喜んでくれたじゃない! 涙を流す私の瞼を優しく拭ってくれたじゃないの!


「……嘘」


「嘘だと思うなら、見てみる? ついさっきだから、多分追いつくよ」


信じられない裏切り? だけど私は信じられなかった。違う、多分見間違いとか……でもそれなら何故悠馬は嘘を言ったの? 何故私に嘘を言ったの? 私は藤堂君に連れられて駅前のショッピングモールに向かった。


「さっき、あの店で何か熱心に探していたから、多分まだいるんじゃないかな?」


藤堂君はそう言うと、私はショッピングモールの可愛い小物の店の中を覗いた。中には親しげに話す二人がいた。悠馬と誰?…あれはクラスで悠馬に時々話かける女の子、同じ高校だし、偶然あっただけなんじゃ? 何かの間違いじゃ? 私はそう思った。そう、思いたかった。


「しばらく、後を追いかけよう、協力するよ。俺…許せない」


「藤堂君、お願い、し、します。わ、私、ひ、ひっく」


私は泣きそうだった。そんな悠馬が、私は裏切られたの?


藤堂と二人で、悠馬とクラスメイトの女の子を追跡すると、二人はショッピングモールから少し寂れた路地に入って行った。そこを私は知っていた。その女の子の家。いや、一人暮らしのその子の部屋と言った方がいい。悠馬はその子の部屋の付近で消えた。


私はただ、茫然と二人が消えたのを見ていた。


「しっかりして、何かの間違いかもしれないだろ?」


「藤堂君……わ、私、魅力ないんですか?」


私は涙を止める事ができなかった。その涙を悠馬の様に藤堂君は拭った。


「君は魅力的だよ。こんな可愛い彼女がいて浮気するなんて、俺、許せないよ」


「でも、私、悠馬に、悠馬に!」


「君は可愛くて魅力的な女の子だよ」


藤堂君はひたすら私を優しくなだめてくれた。悠馬とあの子への怒り、それを藤堂君がなだめてくれた。


この時、私は藤堂君の正体に気がついていなかった。見せかけの優しさと本物の優しさを区別できなかった。悠馬を信じる事もできなかった。全ては私が悪い……そう、私一人が悪かったのだ。

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