第13話 悠馬を振った幼馴染1
私には幼馴染の彼がいる。幼稚園から同じ小学校、中学、小学生6年から、彼の引っ越しで3年間会えない頃があったけど、また、お隣さんに帰ってきて、同じ高校へと示しあって進学した。高校一年まで私は彼を異性としては見ていなかった。いつも一緒にいたから……彼は空気の様な存在。一緒に学校に登校して、一緒に下校して……毎朝彼を起こすのもベタだが私の役割だった。
私の名前は
「…羨ましいわね。空音は」
「え? 何が? 私、何かいい事あったっけ?」
「いやね。幼馴染で感じのいい彼がいたら、誰でも羨ましいわよ!」
「はぁ? 彼? 私に彼なんていないわよ? 急に何を言ってるの」
幼馴染の彼が悠馬の事を指している事は直ぐにわかったが、とぼけた。だって彼を異性と考えた事はなかったから。
「本気でそんな事を言ってるの? 空音は?」
「い、いや、私、悠馬の事そんな風に…」
「じゃ、私が悠馬君と付き合ってもいい?」
「だ! 駄目よ!? 悠真と付き合うなんては駄目よ!」
「なんで? 空音の彼じゃないんでしょ? 空音あなた」
私はこの時初めて気がついた。いつも一緒にいて気がつかなかった幼馴染の事を私がどう思っているのか? 悠馬はめがねで陰キャだけど、とても優しい。大人しいけど、そこも好き。いつも喧嘩すると謝ってくれるのは悠馬の方からだった。私は悠馬の事が大好きだった。幼馴染としてでなく、男性として悠馬の事が好きだ。人から言われて初めて自覚した。
「わ、私……」
「本気で考えた方がいいわよ。悠馬君人気あるから、取られちゃうわよ!」
「い、いや、そんな、わ、わらしと、うっ! ゆ、悠馬は唯の幼馴染で……」
「あのね、正直に言うわ。この高校であなた達の事知らない人いないわよ! 幼馴染で美男美女のカップルなんて悶え死にしそうな位最高のシチュエーションよ!」
「えっ?」
「私達同級生が、どんだけあなた達に興味を持ってると思うの? それなのに本人達はいちゃいちゃしておきながら、付き合っていないだ等とほざいて、爆発して欲しい位よ!」
「い、いや、だって……」
「高校、一緒に相談して同じ高校に進学したのよね?」
「う、うん、相談して、同じ高校にした」
「それで付き合っていないっていわれてもね。まあ、時間の問題かもしれないけどね」
「え?」
私には花蓮の言っている意味が解らなかった。だけど、すぐにそれはわかった。高校に入ってから、色々な事が変わった。それまで、男子と話すのは悠馬位としかなかった。でも、何故か色々な男子に声をかけられた。あれ? 私、もしかしてモテるの? なんて事を思っていた時、突然、スマホに悠馬からLineが入った。
…悠馬から昼休みに屋上に呼び出された。わざわざ…
それは誰でも女子ならドキドキしてしまうイベントだろう。だって悠馬とはいつも一緒に登校して、下校もするのに、わざわざ呼び出すなんて、甘酸っぱいイベントの香りしかしないでしょ? 私がソワソワするのも、無理はないでしょ?
だ、だから、私が今、屋上で悠馬と向かいあってる訳だけどね、じ、じ、自分でも驚くくらいお、お、おおお落ち着いてるわよ。だ、だ、だってね、悠馬とは毎日会ってる訳だし、悠馬は女子の中では、いつも私にばっかり話かけてくれるし、お、お、お友達だってお似合いだっていわれているし。
「えっ? 何かな悠馬? 突然?」
「いや、ちゃんとした方いいと思って」
「えっ? 何をちゃんと?」
私はとぼけた。ホントは顔がとろけそうになっているけど、そこを必死でこらえた。悠馬は私を真っすぐに見ていた。そんなに見られると恥ずかしい。
「やだ、悠馬! 何をそんなに私を見てるの?」
「……ずっと、見ていた」
「……えっ?」
私の心臓はキュンとした。『ずっと見ていた』。その言葉の重さが私にのしかかる。私にとってこれ以上ない言葉。
「空音、好きだ。君と付き合いたい、彼氏彼女として、駄目かな?」
「……」
思わず沈黙してしまう。いや、即答したい。だけど、頭の中がとろけてぐちゃぐちゃで、すぐに返せない。心にぐっと何かが来た。気がついたら、私は泣いていた。
「どうしたの? 何で泣くの? 僕じゃ嫌なの? ごめん、空音に負担かけたのかな?」
悠馬の綺麗な親指が、私の目から流れた涙を拭った。いい様のない喜びが、波打つように私に押し寄せてくる。
「……嬉しい」
幼馴染を見上げながら、私はふわりと笑った。
そして、濡れ続けた目も拭わずに言葉を綴った。
「……私もずっと好きだった!」
もう、なんで悠馬は簡単に異性の顔に触れるかな! 悠馬じゃなきゃ、嫌よ! でも、嬉しい。こうして私達は彼氏彼女の関係になった。
それは私の一生の宝物だった。懐かしいあの頃、幸せだったあの頃。私はあの幸せに終わりが来るのだなんてこの時は夢にも思わなかった。
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