第11話 運動会(サッカー大会藤堂視点)

「はぁ!? 1組の最強チームが負けた!?」


俺はクラス担任の厚木先生から話を聞いて愕然とする。


決勝では必ず対戦すると思い、わざわざ1組の情報を聞きに来たと言うのに、既に1組が敗退したなんて冗談じゃない。それじゃ1組を下したのは何処のチームなんだ?


「一体、1組を下したのは何処のチームですか? ダークホースと噂されていた3組?」


「ううん、何を言っているの藤堂君? 1組を下したのうちのクラスのもう一つのチーム、藤沢君達のチームよ。いやね、自分のクラスのもう一つのチームの対戦者位、把握しておきなさいよ!」


ケラケラと笑う先生に不快感がMAX!


「いえ、びっくりして、少し驚いただけです。確かに勝負は時の運…奇跡が起きたんですね?」


「えっ? 変な事言うわね? 1組ってそんなに強かったの? なんか圧勝だったわよ」


「そ、そんなバカな!」


先生の話を聞きながら静かに歯ぎしりをする。心の中で激しい怒りが巻き起こる。


次の対戦は1組だと思っていた。サッカー部の顧問から、このサッカー大会で優勝しないとサッカー部をクビだと言われてはいたが、僕達のチームが負ける筈などない、優勝するのは当たり前、だが、いかに華々しくこの大会で勝利するかが、重要だったんだ…それなのに…藤沢達の弱小チームが決勝の相手? 


1組はサッカー部が5人も在籍する圧倒的に有利なチーム、その1組を僕一人の華麗なドリブルとシュートで我5組のエリートチームが勝利し、この大会のヒーローになる筈だったのに! 計算が狂った。


藤沢達か? なんでそんな奇跡が起こったのかは知らないが、ふざけた事をしてくれたな!


俺の考えていた演出が台無しだ!


「藤堂? どうしたんだ?」


「いや、なんでもない」


「ねえ、藤堂君、そんな怖い顔してないで、模擬展でアイスを買ってみんなで食べようよ!」


「空音は黙っていてくれるかな? わかる?」


「ごめん、それにしても、藤沢君のチーム、なんでそんなに強くなったのかしら? 1組って、サッカー部が5人もいたんでしょ?」


「理由は分からないけど、いいじゃないか? 同じ5組じゃないか、決勝は正々堂々と対戦しよう」


そうだ、最後に勝てばいいんだ。藤沢達は惨めな敗北を喫するだろう。


なにせ、未来のプロ間違いなしの俺、藤堂がいるチームと対戦するんだからな!


こうして俺は決勝のピッチに立っていた。対戦者はあの忌々しい藤沢、それに悠馬までいる。


「藤沢、正々堂々と勝負しろよ。まあ、俺のチームに負けても、それは十分名誉な事だ。むしろ、ここまで勝ち進んだお前らの運の強さを褒めてやるよ」


俺は藤沢達を褒めてやった。困った奴らではあるが、こいつらもそれなりに必死に這いつくばって、運だけでここまで来れたんだ。それは褒めてやらんとな、俺は紳士だからな。


「まあ、正々堂々と戦うという点には同意できるかな」


何だと? ふふ、強がっても…そうだな…0対10位で突き放すかな、もちろん全部俺のゴールだ。


コイントスでキックオフは俺達のチームからになった。いつものように俺が軽く前に蹴り出して、湘南台にパス、そして俺がゴール前まで上がって、あっさり1点…楽勝だな。


「なぁ? ない、ない? ボールがなああぁい!? 何処へ消えた!?」


「藤堂君! ボールは藤沢君にカットされて悠馬のところだよ!」


何だと? 俺が後ろを振り返ると、ボールは既に悠馬の所にあり、ピッチを駆け上がり、そして、大和にパスがつながり、更に上がった悠馬に大和がパスをして…見事なワンツー、そして、ネットが揺れた! 失点だ!


「そ、そんなバカな!?」


試合開始から3分、俺が決める筈だった、最初の1点がよりにもよって、悠馬によってもたらされて、狼狽する。


そんな馬鹿な事があっていい筈がないのだ。


この大会のヒーローは俺なんだ! 未来のプロ、藤堂の伝説の1ページに過ぎないただの体育祭のお遊びに過ぎない筈だったんだ。それなのに!

だから、最初の1点は俺が取るべきなんだ! 俺がこのピッチにいるんだぞ! それなのに!


いや、落ち着け、俺! 恐らくこれは神が俺に与えた試練…あいつらはとんでもない運に恵まれただけだ。気持ちを切り替えていこう。


だが、試合の状況が好転する事はなかった。気がつくと、0対10で負けていた。


俺には何が起きていたのかがわからない…そんなバカな! あり得ない!


俺は思わず、手直にあった点数表のボードを蹴り飛ばしていた。


「落ち着いて藤堂君!」


「うるさい! この雌豚!」


鬱陶しく近づく空音を振り払う。


グランドに倒れた空音の顔を踏みつけた。


「ベタベタするんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」


「ご、ごめんなさい」


ハッとした。つい気持ちが昂った。つい空音に乱暴してしまった、どうせなら、誰も見ていない処でやるべきだった。 慌てて取り繕って空音に謝る。


しかし、周囲からは以前と違う目が向けられていた。


何だよ! その目は!!


不快だ! 何故こうなった? 俺はこの高校に来て、才能が開花して、未来が約束された選ばれた人間になった筈だ! 悠真がいなくなってから、何故か上手くいかない。


以前はまるで、神が俺に媚びを売っているかと錯覚する位上手く行っていたのに!


悠馬がいなくなってから?


いや、違う! そんな筈がない! アイツは足手まといのただのお荷物だ! 断じて違う! 俺の邪魔をしているのは一体何者だ! 神なのか!!


悠馬のヤツめ! 見ていろ! 空音は絶対完全に俺のモノにして見せる!


あいつの前でそれを示唆してやろう! ああ! あいつの俺を怨嗟の目で見るのが楽しみだ!


俺は悠馬への復讐を決意するとピッチを去った。

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