第10話 運動会(サッカー大会)
僕達風紀委員クラブの初めての依頼は同じクラスの委員長 藤沢の案件だった。内容はクラスで参加する体育祭の催し物、男女混合サッカー大会に参加して欲しいというものだった。
藤沢が言うには、僕の恋人を奪った、あの藤堂のクラス内の発言力が最近強いんだけど、藤堂はクラスの立場が弱い子に意地悪をする。それを見かねて藤沢が注意しているのだけど、口が上手い藤堂は来るサッカー大会で自分達のチームに勝てたらいう事を聞いてやると言いくるめられたのだ。
「でも、藤堂とサッカーでは勝ち目がないんじゃないか? 僕が藤沢のチームに入ったとしても、そんなに期待されても…僕、実力なくて、サッカー部を辞めさせられた位だよ」
「悠馬はなんでそんなに自己評価が低いんだ? あの藤堂とは真逆だな? 正直、お前が入ってくれたら、絶対勝てる自信がある。俺は中学の時、サッカー部だったから、わかるぞ」
「そ、それは買い被りじゃないか?」
僕は自信が無くなってきた。あのエースストライカーの藤堂とサッカーで勝つなんて? 無理ゲーじゃない?
「まあ、何となくわかった。悠馬はサッカー始めたのが高校からだろ? だから、自分の実力に気がつかなかったんだな? それに、俺と悠馬だけじゃなくて、強力な助っ人がいるんだぜ」
「誰なの?」
不思議だった。男女混合サッカー大会はクラスで2チームが作られる。藤堂のチームは当然のように他の運動神経がいいヤツやサッカー部の二人が入るだろう。いくら、女子が入ったとして、藤堂と二人もサッカー部がいれば、僕達に勝ち目なんてない。そんな中で僕達のチームに入ってくれる秘密兵器って誰?
「大和だよ。あいつ、あれでもプロサッカーのユースに所属しているんだぜ」
「ええっ? う、嘘ぉ!」
「ええっ! 大和君! サッカーなんてするの?」
「ゆ、悠馬と一緒にサッカーだなんて! これがきっかけで、一緒に倒れ込んで、キ、キスしちゃったりするイベントあるのかな? そして、長くて情熱的なキス! 熱く燃え上がった二人はそのまま悠馬が私の服に手をかけて! そして、そして!!!」
「えいっ」
僕は脱線する真白にチョップを入れておいた。いや、体育祭の最中になんで、二人で見つめ合って、キスして、それから…そんな事するの? その場で僕の社会人としての何かが終わりそうだ。
「い、痛いよう! もう、悠馬! …でも嬉しいかも♪」
でも、僕はびっくりした。あのガンダムとお宅話しか出て来ない大和がサッカーの…それもプロユースに所属しているって…それって、サッカー部レベルじゃないって事?
「ああ、驚いたろ? でも、だから俺は悠馬と大和を引き合わせたんだ。お前ら似ているよ。凄いスペック高い癖に、人付き合いが苦手なところ、そっくりだ」
「大和はともかく、ぼ、僕はそんな事は…」
僕は焦った。僕、確かにハイスペック自称しているけど、そんな大したものじゃない。大和がプロのユースに所属しているのが本当なら、僕となんかと比べようがない。
「悠馬は少しは自分の事理解した方がいいぞ! そこまで自己評価低いと嫌味だぞ」
「い、嫌味って! そんな! 僕、ホントにそんな大した事出来ないよ」
「いや、ちょうどいいよ。俺は悠馬はもっと自信を持つべきだと思う。正直なんでこんなに自分に自信がないのかがわからん」
僕が自分に自信がない事…それは少し自覚がある…全ては僕が帰国子女で、みなの空気を読めないから、自分でみなを拒絶している。だから、自分に自信がない。
「悠馬が自信を取り戻すいい機会だ! 悠馬、お前、大会で、守備は一切考えるな!」
「ええっ? なんで? それ、僕の唯一のサッカーの得意分野だよ?」
「いや、悠馬…お前は優しすぎるんだよ…悠馬はみなの事ばかり心配で、守ってばかりなんだろう? なんで時々大胆に自分の意見をはっきり言うのに、サッカーの時はあんなに献身的なんだ?」
僕が時々自分の意見をはっきり言ってしまうのは、つい、本音が出てしまうから…僕は少しでも日本人らしくなる為に、出来るだけ自分の意見を言わない…目立たないようにしてきた。
「まあ、安心しろよ。守備は俺にまかせろ! 俺、中学の時、センターバックだったんだ! 守りの要だったんだよ。そもそも悠馬はミッドフィルダーだろう? どちらかと言うと攻撃陣だ!」
「そ、そうなのか? 僕、攻撃に参加していいのかな?」
何故か藤沢は苦笑すると、
「いや、悠馬はサッカー部で、守備にも攻撃にも参加していたよ。自覚無しか?」
「攻撃には参加した覚えがない…」
「あきれた無自覚ぶりだな…あんな鋭いキラーパス連発しておいて?」
「そりゃ、パスはするけど、当たり前の事だろ?」
僕は藤沢の言う事が良くわからなくなってきた。確かにサッカー部では守備には大きく貢献してきたつもりだ。頑張ったつもりだけど、攻撃には…僕、一点も取った事ないよ?
「まあ、俺を信じろよ。それに一度位、守備じゃなくて、攻撃の事だけを考えてサッカーしてみろよ! 守備担当の俺に言わせると、お前のプレー、守備陣を多分、申し訳ない気持ちでいっぱいにさせていたぞ!」
そうなのか? 僕はピッチの中盤が持ち場だったけど、対戦者の攻撃を警戒して、いつも中盤から上がる事はなかった。それをあがれというのか? いや、それより守備陣に悪い事してたのかな?
「まあ、攻撃陣は悠馬と大和の二人で十分だよ。あと、真白さんと花蓮も参加してくれるよな?」
「藤沢君とは同じクラス委員の仲だから、もちろん!」
「ゆ、悠馬と、い、一緒に、サ、サッカーをして! 二人の距離は更に縮まって、もう! ああ! 私、二人で迎える初めての一夜は安全日かどうか、ちゃんと把握しておかなきゃね! いざという時にちゃんと赤ちゃんできないと未来の嫁として失格よね! もう! 一番危険な日じゃないと駄目よね!!」
「テシっ!」
僕は手慣れた手つきで、真白にチョップを入れた。真白…頭のねじは更に緩んでいくようだ…
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