第9話 真白は日常的に妄想する

今日は真白と学校の中庭で弁当を食べる約束だ。僕の心の傷はまだ晴れない。真白や海老名がグイグイ来るのは嬉しい反面、今はそっとしておいて欲しいなとも思った。でも、感謝すべきなんだろうな、真白のグイグイが無ければ、今頃引きこもりになっていたかもしれない。


お昼になって、真白がやってきた。笑みは浮かべていない、真白はクールなのだ、何故か故障を引き起こすと突然キャラ崩壊するが、普段は表情をあまり変えないのだ。


「悠馬、お昼に行くわよ」


「ああ、いつもありがとう」


感謝の言葉を言った方がいいんだろうな。今は感謝の気持がある。最初はそっとしておいて欲しいなとか、できればどっか行ってくんないかなとか思っていたけど、真白と一緒にいると癒される。真白が壊れた時の対応をすると何故か心が晴れた。それはまるで、空音が何かやらかした時にフォローして回った時の事を想い出して愉悦に入っていたのかもしれない。空音はド天然だった。


校庭のベンチで真白が手早くお弁当の用意をする。ホント真白はしっかり者だ。昔からそうだった。いつもあまりしゃべらないけど、なんでも上手にこなす子だった。一方空音はドジで天然だから、何かと手がかかる子だった。比べるのは真白に失礼だとは思ったが、未だ空音に未練がある僕は自然に頭に浮かんでしまう、真白、許して欲しい。


「今日はつくねを作ってきたの、期待していいわよ」


「いつもありがとう。真白のお弁当美味しいから嬉しいよ」


「え?……あわわわわわ! そ、そ、そんな! 毎日私の手料理食べたいだなんて、そんな! あ! 悠馬! 直球過ぎる!? え!? そ、そ、そんなに見つめないで! い、いくら私が未来の嫁としてふさわしいと思ったからっていったって!?」


うん、そんな事一言も言っていません。最近真白のこの故障にも慣れて可愛く思えてきた。子供の頃は少し距離を置いていた様な気がする。真白は無口であまり喋らない子だった。まさか脳内でこんな妄想を繰り広げていたとは思わなかった。むっつりだったんだね…真白。


「真白落ち着いて。僕のいう事ちゃんと聞こうね?」


「わ、私、悠馬の言う事、一言だって聞き洩らした事ないわよ!」


うーん。聞き洩らしてはいないけど、盛って現実に捏造を加えるんだった。あまり突っ込まないでおこう。でも、こういう真白は好きかもしれない。ある意味素の自分を曝け出してくれているのだから、子供の頃の真白は仮面を被っていたのかもしれない。そういえば、真白はどこか何を考えているかわからない子だった。


お弁当を食べ始めた。


「あ! 今日のつくね自信作なんだ。食べる? 美味しかったでしょ?」


「いや、僕のお弁当にも入っていたから、いいよ」


真白がまた『あーん』を企んでいる事が予測できたから、僕は逃げようとした。正直、とんでも美少女真白の『あ~ん』は魅力的なんだけど、そんなの男子の誰かに見られると、殺意しか飛んでこない様な気がする。僕は学園で一二を争う美少女の空音を振って、やはり人気の一二を争う真白を新しい恋人にした事になっているんだ。殺意を向けられるのは当然だという自覚はある。


「じゃっ、半分こしようよ。悠馬もう食べちゃってるじゃない」


「う、うん、ま~」


口籠ってしまった。真白の目がマジだった。拒否したら殺すと言わんばかりだった。僕は真白の迫力に負けた。


「はい、『あ~ん』」


真白はつくねを箸で半分こにすると、僕につくねを差し出した。今日は笑みも浮かべずクールな顔で。今更取り繕ってもクールさ0だからね。


「真白のつくね、一番だな」


「そんな、真白の事『僕の一番大切な人だ!』なんて、こんな処でそんな大きな声で叫ばれると、わ、わ、私、照れてしまう。でも、安心して、もう結婚式場は予約済みだから!」


真白はいつもの定常運転で壊れ続けるが、叫んだのは真白で僕じゃない。頼むから校庭でそんな恥ずかしい事叫ばないで欲しい、マジで。それに僕の言った事は既に残骸すら残らず虚偽の発言に変換捏造されている。もう、僕の発言と真白の脳内の乖離はほぼ合致している処は0だよね。うん? 結婚式場は予約済って、そんな先の予約できるのかな?


「あっ!」


僕は思わず呟いてしまった。真白は興奮して自分の世界に入ってしまっている。何かウェディングドレスは基本のAラインかなとか、妄想を開始し始めて、僕の一瞬のつぶやきは聞き逃したみたいだ。そんな重要な事と思われないだろうけど、僕にとっては重要な事だった。真白と空音とはよくそれぞれの家でおやつを食べた。空音はおっちょこちょいだから、ある日大好きなモンブランのケーキを落としてしまった。それで、僕は空音に自分のモンブランを全部あげた。空音の喜ぶ顔はとても印象的だった。それ以来、僕は空音の好物が出てくると空音に自分のおやつを全部あげた。でも、そんな時、真白は自分のおやつを半分にして、僕に分けてくれた。どうしてそれがこんなに気になったのかは自分でもわからない。でも、何かモヤモヤしていたものがあったんだ。


その日の真白の妄想は学園中に広まった。特に困ったのが、既に結婚の約束をしていて、結婚式場も予約済なのだと伝わってしまって、真白と歩いていると女子から「お幸せに!」という祝福の声があがった。男子からは当然殺意の嵐だ。


僕、大丈夫かな? 刺されたりしないよね?

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