第7話 風紀委員クラブと運動会

今日も真白と二人で登校…学校に近づくにつれて男子の殺意のこもった視線にビビる僕。


真白は何も感じていないかのようにクールを装っているが、さっきまで結婚式場はハワイがいい? それとも二人っきりで横浜の教会で式をあげる方がいい? と頬を朱に染めて妄想を全開にしていた。今はまるで何もなかったかのようにツンと澄ましているけど、多分頭の中は妄想でいっぱいだと思う。だって、真白はむっつりなんだもん。


その日の放課後、僕は担任の先生の厚木先生に呼び出されていた。場所は何故か理科実験室なんだけど、なんで職員室じゃないんだろ?


僕は理科実験室を前に扉をノックした。先生とは言っても厚木先生は女性だから、マナーは守ろう。僕はいつも紳士でありたいと思っているから。


コンコン


「おっ? 悠真か? 入れ」


「は〜い! 凛姉」


「こら! 学校ではそれだめだからな!」


「はい。すいません。先生」


実は厚木先生は僕の従姉妹だったりして、学校で一番人気のある先生な事に苦笑する。みな見かけに騙されているよ。子供の頃、真白や空音と遊んだ事もあるけど、あの凶暴な凛姉が今では皆のマドンナなんだもんね。


「あれ? 真白も?」


「そうよ…私も呼び出されていて、悠真…なんかした?」


いや、なんかしたとしたら、真白がらみだよ…


「あの、なんで僕が何か悪さをした事前提なの?」


「だって、普通、悪い事するの男の子でしょ?」


それは認めるけど、今回のケースの場合、真白が原因としか思えない。


「いや、そうじゃなくて! お前達二人共、学内で散々浮いているだろう? だから厚木先生が一肌脱いでやろうというんだ。なんなら、ほんとに脱いでやろうか?」


「凛姉! からかわないでよ! 先生がそんな事しちゃだめだよね?」


凛姉は見た目は清楚系のお姉さんだけど、ほんとはとんでもないお転婆だ。小学生の頃、よく僕達とサッカーをしていて、僕がサッカー部に入ったのも凛姉の影響かもしれない。


「まあ、冗談は置いておいて、今日は二人に話がある。実は先日風紀委員クラブの最後の一人が退部してしまって、困っているんだな。このクラブは意外と歴史が古くて、30年前からあって、私の代で途絶えると困るんだ。ていうか、理事長が初代顧問だったからほんとヤバいんだよ!」


「読めてきたよ。僕達に風紀委員クラブに入れって! そういう事?」


「真白は嫌よ! 悠真と遊ぶ時間がなくなるわ!」


僕も同感だ、サッカー部を辞めさせられて、今はフリーだけど、しばらくは放課後は遊んでいたい。


「真白ちゃん? いいの? 二人っきりの部活っていいものよ?」


「えっ!? 二人っきりの部活? 狭い薄暗い部屋に若い男女が二人っきり? ああっ! もう、二人に激しい愛情が芽生えて、二人っきりで、熱い夜を過ごすのね! 見つめ合う二人! そして激しい情熱が二人を襲い!!! ああっ! 赤ちゃんができちゃう!」


ええっ? そんな妄想が出ているのに、この部活していいの?


「ええっと…凛姉…まずくない? 赤ちゃんできたらどうしよう?」


「まあ、その時は頑張って、働け! 社会的には死んだも同然だがな!!」


凛姉…他人事だと思って…いや、僕だって、自制するつもりだけど、肝心の真白に自制する気がなさそうで、怖い…僕、真白の気持ちは嬉しいけど、だからこそ、大切にしたいのに。


「まあ、それは冗談だが、ちゃんと監視役も用意した。私も担当の生徒が不祥事を起こしたら困るからな、その位の常識はあるつもりだ」


「監視役って?」


「先生ですか?」


「なんで私が! 私が遊びにいけないだろうが!」


わぁー凛姉、クズ発言…


「まあ、本音は置いておいて、このクラブ活動はお前達の弱点を補うために行うんだ。お前達、二人共、成績も運動もできるくせにクラスで浮いているだろう? 理由はわかるよな?」


「…」


「…」


僕はどきりとした。何故って、僕には悩みがある、クラスに馴染めないというより、自分から距離を置いている…理由は中学生の時に虐められたからだ…ある理由で。


「悠真、お前、典型的な帰国子女だな…そして真白…お前もな…」


僕と真白は黙り込んでしまった。何故なら、僕は帰国子女なんだ。小学生六年から中学二年までロシアにいた。父親が仕事の都合の転勤でロシアに赴任、僕達家族は三年間ロシアで過ごした。


外国と日本の文化の違い、言葉の違い…僕は英語やロシア語が話せるようになったけど、代わりに失ったものがある。日本人らしさ…僕は日本人にとって空気が読めない人間になっていた。帰国子女…このレッテルにどれだけ苦しめられたか…それで、この高校では秘密にしている。


「あ、あの? 真白も帰国子女なの?」


「悠真…私もお父さんの都合で2年間ロシアにいたの…それに、私のお父さんロシア人だから」


そっか…真白もそうだったのか…知らなかった。だからこの間、絡まれていた時ロシア語で罵っていたのか…


「そんな訳で、お前らのリハビリの為、日本人の文化を学んでもらう。日本は島国だからな、違う人種は嫌悪感を持たれる。日本人の悪いところでもあるが、実際に日本で生きる為には克服しないとな? 二人でだったら、できるだろう?」


「…はい」


「悠真と二人でだったら!!」


僕達は厚木先生の提案に応える事にした。何より、帰国子女体質を変えるいい機会かもしれないし、真白も帰国子女なのは共感が持てて、心強い。


「まあ、ただ、二人の仲ばかりが進み過ぎて、赤ちゃんを作る相談ばかりされると困るから、監視役も用意した。花蓮入って来い!」


「はい! 先生!」


花蓮? 海老名? なんで海老名?


「まあ、そんな訳で、風紀委員クラブは三人で始めてくれ、花蓮がいれば間違いは起きないだろう」


いや、凛姉! 凛姉は海老名の本性を知らないんだ! 何より、海老名は僕を狙ってるよ!


僕は海老名の魂胆が大体読めてきて、顔色が悪くなった。僕、狙われていて、罠にはまってない?


「そんな訳で早速部活を始めろ! 最初の相談者はもうちょいで来る! 活動内容は花蓮から聞いてくれ! 私は合コンがあるから! あっ! もう時間がヤバい!」


凛姉はドタバタと出て行ってしまった…相変わらずの無責任ぶりを発揮する。


「じゃ、そういう訳で、宜しくね! 悠真との赤ちゃんは私の方が先にゲットするからね! 覚悟しておいてね! 真白!」


「ちょっと、悠真…これはどういう事かしら? なんで彼女の私がいるのに?」


「いや、そもそも、真白との関係はテイだろ? それに海老名の事も僕は知らないよ!」


「テイですって!! そんな酷い! 真白の気持ちをこんなにしたクセに!!」


「そうよ! 花蓮の気持ちだって、知っている癖に!!」


いや、そんな事言われても…僕、今は恋をするより一人で中島みゆき聴きたい気分なんだけど…


「僕は空音の事は忘れるしかないと思っているけど、そんなに簡単に気持ちは切り替わらないよ…二人の気持ちは凄く嬉しいんだ。でも、だからこそ、二人にきちんと答えたい。二人の事は大切に思うよ、だから、僕に時間を頂戴! 傷が癒えたら、答えをだせると思うよ。今のままだと、二人に引きずられて、二人と同時に付き合っているみたいになるよ! それ、嫌でしょ?」


僕は本音をいった、二人の気持ちはとても嬉しい、でも、今は答えを出せない。そんな簡単に答えを出したら、二人に申し訳がない。よく、考えさせて欲しい。


「まあ、わかったわ、下僕は生意気にも私たちを天秤にかけているのね?」


「悠真が私の事を大切にしたいって! 嬉しい! もう、母子手帳の用意しなきゃ! 母子手帳て、どこでもらえるのかしら!!」


いや、海老名のよくわからないドS発言もなんだけど…だけど、真白の妄想は度が過ぎる…JKが母子手帳なんかもらいに行ったら、どう考えてもざわざわする未来しか見えない。


「まあ、真白が完全に壊れる前に依頼者の話を聞きましょうか?」


「依頼者?」


「ぼ、母子手帳!?」


「えいっ!?」


「い、痛い!」


僕は真白にチョップを入れて治した。昔のTVと同じ要領みたいだ。


そこに現れたのは、クラス委員長の藤沢で彼から依頼の話が出た。


僕達の最初の依頼は運動会のクラス対抗サッカーの一員になる事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る