第2話 真白を助けたらなんか変な事に
空音に振られて、僕はふらふらと下校しようとしていた。周りの景色なんて全然記憶がない。それ位僕は精神を病んでいた。だが、学校の正門で何だか人だかりができている。
邪魔だな…下校できないな。そんな僕の目に入ったのはもう一人の僕の幼馴染 真白だ。真白はギャルだ。金髪に春なのにニットのカーディガンをゆるっと着ている。どちらかと言うとクラスの中では浮いている。浮いているのは僕も同じなんだけどね。
しかし、真白はどうもピンチのようだ。
『死んじゃえよ、この変態!?』
かなり酷い暴言の様だ。あれ? 今の日本語じゃない…僕の良く知っている言葉、ロシア語だ。どうやらナンパに引っかかって、暴言か何か吐いたのだろう。日本語だとヤバいから、ロシア語で暴言吐いているのだろう。でも、何故真白はロシア語なんて話せるんだ?
『真白、言い過ぎだよ』
僕は真白をロシア語で嗜めた。一瞬、真白が驚いたような顔でこちらを見る。
ナンパ師は怒って真白に迫っている。運悪く、先生はいない、この学校は付近の治安がいいせいか朝は先生が風紀チェックをしているが、下校時にはいない。それに、強面のナンパ師に意見しようという意思の強い男子はいないようだった。
「(関わり合いにならない方がいいよね?)」
僕は即決だった。彼女はギャルでも可愛いから、他の誰かが助けてくれるだろう。僕は荒事は好まないのだ。
しかし、
「ゆ、悠馬、た、助けてよ!?」
「ええっ!? 僕?」
僕は驚いた。真白はナンパ師の手を振りほどくと、僕の元へまっしぐらに来て、僕に助けを求めてしまった。流石に放置しづらい。僕が薄情者に思われてしまうじゃないか。
『えっと、助けてあげなきゃ駄目なの?』
『う、うん、お願い!? あの人達、この辺でも有名な不良なの。その癖に喧嘩が強くて、誰もアイツらに意見できないの!!』
そんなヤツらに僕をけしかけるの?
『わかったよ。何とかするよ。任せて』
僕はいやいや真白を助ける事にした。まあ、知らない間柄でもないし、仕方ないか。それにしても何で真白がロシア語を? まあ、荒事も今は気が紛れるか…
「てめぇら、何、訳のわからん事を言って! 俺達に喧嘩売る気か? いい度胸だな?」
「ふん! …ホント馬鹿なヤツだな」
「自分の立場がわかんねぇヤツだな」
僕は不良ナンパ師達の半笑いの顔に殺意を覚えた。振られたばかりなんだよ。仕方ないよね?
「この子を見逃してあげてくれないかな? そうしないと困るんだ。僕、めがねの目立たない方の男の子だから、荒事はできれば避けたいんだ」
「目立たないのは見ればわかるさ? メガネだから許してくれ、なんだそれ?」
「聞いた事ないぜ! 助けに来ておいて、何もしないでくれって? 馬鹿か?」
「こいつ頭おかしいじゃないのか? 俺達に喧嘩うっておいて、許してくれ?」
「できれば穏便に解決できないかな?」
「「「できる訳ないだろう!?」」」
三人がもう、敵対するしかない事を宣言すると、一番大柄な男が前に進み出てきた。
「俺は西高の無敵のケンカ番長 高野だ。喧嘩の神髄を教えてやろう。てめえをボコボコにしてやる!」
「えっと?」
僕は困惑した。今時番長なんているの? それにこんな処で喧嘩したらすぐにお巡りさん来るよ。マジなの? この人、ホントに喧嘩した事あるのかな?
ケンカ番長はシャドーボクシングみたいにパンチを空に突き出す。
うん、絶対素人だね。それに、木刀とか、棒を持っているヤツはいないし…やれるか?
「俺の渾身のパンチで一発で沈めぇぇぇぇぇぇ!!」
ケンカ番長は大げさなモーションで僕に殴りかかってきた。僕はそれを黙って顔面で受け止めた。
「痛いな。先に手を出したのは君達だからね!」
正当防衛を確実なものにして、僕がそう言った瞬間、ケンカ番長の身体がフワリと舞い上がった。そして、激しく地面に落下する。受け身なんて知らないだろうから、角度は緩いものにする。
「なぁ!? てめえ、何しやがった! 卑怯者!?」
えっ? 卑怯? 別に卑怯じゃないと思う。唯の柔道だよ。むしろ、3対1で普通に喧嘩しようと思う方が卑怯じゃないかな?
「この野郎ただものじゃねえな? お遊びはこのくらいだ。こうなったら、こいつの威力を見せてやる!」
「いや、できれば話あいで解決しようよ?」
「ふっ……メリケン番長の俺をここまで怒らせるとはな…もういい。本当は軽い怪我をさせる程度で許してやる予定だったが……お前には惨めに大怪我をおってもらうことにしよう――メリケンサックの威力を喰らいやがれ!?」
メリケン番長はそう言って、いきなり狂暴な武器、メリケンサックを付けて、僕に殴りかかってきた。武具をつけてもなんか弱そうだな。
僕はひょいっとかわした。
「何かなこれ? こんなのでどうするつもり?」
メリケン番長は更に僕に殴りかかってきたけど、あまりにも威力が弱そうだから、手でひょいっとして素受けした。だが、
「止めてっ! 駄目! 悠馬、逃げて!!」
えっ? 逃げていいの? 助けるのどっち?
ケンカ番長とメリケン番長ともう一人…この人は何番長なんだろう? 気になる。三人は同時に僕に襲い掛かる。僕はひょいひょいとかわした。
当たらなければどうと言う事は無いよね?
その後も色々僕の知らない武器を出したりして仕掛けてくるが、全部かわした。なんか、弱すぎて真面目に戦う気がしない。
「ハァ……ハァ……な、何なんだコイツ?…………し、仕方ねぇ。これだけはやりたくなかった! 俺の最終奥義! 紅蓮流空手奥義! 細胞の一片たりも残らねえから覚悟しろ!!」
いや、細胞の一片も残さないって、どんな奥義だよ! それに、それ唯の殺人だからね!
「紅蓮流 拳闘術、我の拳は鋼なり、我の身体の源は無限の闘気なり、我が拳は無敵なり!」
「いや、待っていられないかな」
ナンパ師の拳闘術、多分古武道だろう、言霊に乗せて気を取り込み、身体能力を数倍に引き上げるとか…。眉唾だけど、待っている馬鹿はいないよね?
僕は素早く拳闘術士の懐に潜り込むと、大外刈を仕掛けて、その男を宙に舞わせた。
「ぐ、ぐすん、ち、畜生、父親にだってぶたれた事ないのに…」
嘘でしょ? こんな悪ぶっておいて、まさかお父さんにぶたれた事ないって…僕もぶたれた事ないか…でも、僕は悪い事しない子だからね。
「お、覚えてやがれ!?」
「この、喧嘩は預ける!」
「闇夜は気をつけろよ!」
個性のない三人が捨て台詞を残して逃げていくと、真白と目があった。
「わ、私、別に悠馬の勘違いだからね! 助けてもらって、嬉しくて、今すぐキスして欲しいとか! この隙に乗じて、お付き合いしてもらって、恋人なるとか、お似合いの2人になるとか、未来のお嫁さんになるとか、結婚式場はもう予約した方がいいとか! 思っている訳じゃないからね!」
どんだけちょろい? 真白? しばらくみないうちに真白は立派なチョロインに成長していた。
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