負けのヒロインの金髪の天使様と妥協で付き合うことになった

島風

第1話負けのヒロインの金髪の天使様と妥協で付き合うことになった

俺、磯風 悠斗 いそかぜ ゆうとには可愛い幼馴染の女の子がいる。


いつも優しい……陰キャな俺にも優しいリア充の女の子。


俺はその想い人の白露 花蓮 しらつゆ かれんにLI○eのメッセージを送って、呼び出していた。もちろん告白のためだ、わかるよな? このシチュ?


「おお、当たって砕け散って来いよ、 悠斗!」


「頑張ってねぇ、砕けたら、私が膝枕で慰めてあげるからねぇ」


「なんで砕け散ることが前提なんだよ!」


俺と親しくしてくれるクラス委員長の秋月 大和あきづき やまとと副委員長の初月 美咲はつづき みさきに見送られて、放課後の学校の屋上に向かう。


そして、そこには綺麗な黒髪をなびかせた花蓮が待っていた。


白露 花蓮しらつゆ かれん―――小学生の頃から何度も同じクラスになったことがある幼馴染の女の子。


俺が、時々話せる数少ない女の子。俺の初恋の人。


「か、花蓮……! お、俺とつきあってください!」


「は? あり得ないでしょ?……ちょっと調子に乗りすぎなんじゃないの?」


俺は子供の頃から想いを寄せていた花蓮に思い切って告白した。


子供の頃から何度も話していて、お互い気安い間柄だった。


陰キャな俺とは釣り合わないリア充の花蓮。でも、子供の頃からの間柄を考えたら。


一縷の望みをかけて、自身の最大の願いを込めて。


たとえ万分の一の確率しかなくとも、この願いが叶うなら……そう思い。


だけど、彼女から帰ってきたのは、あっさりした拒絶。


「私が悠斗と付き合う訳ないでしょう?」


「えっ?」


「どう考えたら私と付き合えると思うの? 全然釣り合わないじゃないの、ふふっ」


見ると花蓮は口角を釣り上げて残酷な表情を浮かべていた。


「はあ、もう優しくし過ぎちゃったのね。陰キャな幼馴染に優しくしてあげたら私の印象良くなるのよ。だから口を聞いてあげたてただけなのに、そう……勘違いしちゃったかぁ……ふふ」


俺は花蓮の言葉が耳障りだった。昨日までの花蓮の優しい言葉がどこかに飛んで行ってしまっている。そんな感じだった。


「えっ? 嘘だよな?……そんな……俺たちあんなに仲良くしてたじゃないか? だからさ、もうちょっとさ……話そうよ!」


「はぁ!? 何言ってんの? あんたなんて唯の腐れ縁でしょ! 気持ち悪いの我慢して頑張って優しくしてあげただけよ。むしろ、私のこと散々気持ち悪い目で見て来るから殺意すらわいてたわよ!?」


そ、そんな……


俺は花蓮のことで頭がいっぱいで夜も眠れなかったのに、殺意すらわくって……


「きもいわね、あなた自分のレベルもわかんないのね? わかってよかったわ。二度と私に近づかないでよね。あと、ストーカーは勘弁してよね、じゃ、バイバイ」


「え、え、えっと……ちょ、ちょっと待てよ……!」


「は? なんで待たなきゃいけないの? あんたみたいなキモい人間からの告白にいちいち反応してたらメンドクサイわよ」


「メ、メンドクサイって……そんな、酷い」


花蓮はそう言うと行ってしまった。初めての告白。俺の初恋は失敗に終わった。


それも、俺を振る時の花蓮は意地悪な笑みを浮かべていた。


俺の惨めな顔を見て愉悦に入っているかのような表情だった。


俺は気が付くと泣いていた。できれば一晩中泣いていたい。


だけど、いつまでもここにいれば先生が屋上へ出入りする扉の鍵を閉めに来るから立ち去るしかない。


「(――ん? なんだ?……)」


俺が屋上から立ち去ろうとすると、この学校で有名な三人が屋上の反対側で話しこんでいる姿が見に入った。


一人は、キラキラと輝く金髪を靡かせるロシア人の清楚で可憐な美少女。


金髪の天使と呼ばれる、誰にでも優しく学校中の男子の憧れの的の彼女はどこか儚げだった。


もう一人は、優しそうで笑顔が絶えず堪えない愛嬌がある愛らしい表情が特徴の幼さをまだ残す美少女。背が低く、守ってあげたくなる小動物系の女の子。


そして最後の一人は、二人とは全く釣り合いがとれない平凡な男。


平凡な顔、勉強やスポーツも平凡な男。


しかしこの平凡な男はなぜかこの学校で一二を争う美少女たちから好意を寄せられていた。


よくあるラノベの恋愛小説の主人公みたいな男を絵にかいたような男だ。


そして。


「――いいの、わかってるの。いつき結菜ゆいなちゃんのことが好きなのよね?」


聞こえてきたのは、可愛らしいが、凛と弓を張り詰めたような声。


俺は図らずとも学校で一番興味を引いている事案。金髪の天使様の恋の行方の結末の決定的なシーンに出くわしてしまった。


この三人が有名な所以。金髪の美少女は天使様と呼ばれる有名人だ。そして、彼女とこの平凡な男とは幼馴染の関係にある。


それが、3か月前に転校してきた、小動物系の女の子とこの平凡な男が知り合ったところから三角関係が始まった。だから、この三人の行方は学校中の話題の中心だった。


思わず金髪の天使様に目が吸い込まれる。泣きそうなのに、それをぐっとこらえる天使様。


「ごめん……ティーナ」


男は平凡な謝罪を口にしていた。


そして、思わずだろう、慰めるために天使様の肩に手をかけようとしていた。


だけど、彼女は男からそっと身を引き、目に涙を浮かべている癖に笑を浮かべ、口を開いた。


「そっか、結菜ちゃんはいい子だもんね。大切にしてあげてね。じゃあ、私は帰るよ――」


「ま、待ってよ! ティーナ!」


男は天使様を気遣いたいのだろう。だが、天使様は後ろをクルっと向くとこっちに向かって走り出してきた。


一瞬、目線があってしまい、気まずくなる。俺が立ち入っていい場面ではなかった。


それに、天使様は泣いていた。その顔は笑顔なんかじゃなく、険しく醜いものだった。


慌てて後ろを向いてやり過ごすが、彼女は俺のすぐそばを走り過ぎて行った。


そして扉を通り、そのまま階段へと下っていく。


一瞬、彼女の顔を見てしまった俺は、なんとも言えない気持ちになった。


残された二人はと言うと、二人は抱き合って泣いていた。


「(悪い奴らじゃないだろうな。人を好きになるとか、そんな簡単な問題じゃない。ここで男が彼女を追いかけたからと言って、何も問題は解決しない、むしろこれが正解だろう……)」


ここにいても仕方がない、そう思った俺は家に帰ろうと失意と共に学校の屋上を後にした。


が。


俺は下校途中天使様が何人かの不良っぽい奴らから絡まれている場面に遭遇してしまった。


「ねぇねぇ、これからカラオケいかない?」


「君、可愛いねぇ! 一緒に遊ぼうよ、きっと楽しいから!」


「や、止めてください!」


どうも、ナンパにあっているようだ。相手はあまりお柄が宜しくない風貌とファッション。


彼女は可愛いからこういうことがよくあるだろう。


だが、今はうまくあしらうことができないようだ。


そりゃそうだろう。振られたばかりだもんな。


俺は彼女を助けることにした。


ほおっておけない。学校の屋上で目線があった時の彼女の表情がフラッシュバックする。


「や、止めてください。わ、私、あなたとなんか付き合いたくない!!」


「どうしてダメなの~? 少し位いいじゃん?」


「そんなこと言わないでよ。俺の知り合い、めっちゃイケメンいるんだぜ!」


いや、それだったら、そのイケメン連れて来て、お前は去れよと心の中で突っ込んだ、が。


「や、止めて、お願いですから!」


天使様は本気で嫌がっている。声色からかなり恐怖を感じているのだろう。


「はいはい、ちょっとすいません。天使様にはちょっと用事があるんで」


俺はとぼけた口調で間にわって入って、天使様の手を取って連れ出そうとする。


「えっ?」


「な、なんだお前!?」


「ああっ!? お前なぁ!!」


まあ、予想はしていたが、ナンパ師は豹変してガラの悪さを露呈する。


……おぉー怖ぇ。


そんな親の仇みたいな顔で見ないでくれないかな。


絶対、俺、お前らの親にも誰にも恨まれるようなことしてないぜ。


俺だって面倒ごとは嫌いなんだ。


何よりちびったらどうしてくれる?


「あ、あなたは……」


天使様も突然の乱入者に驚いたようだ。


それにしても天使様……クラス同じなのに、俺の名前覚えていてくれていないのね。


「この子を見逃してあげてくれないかな? そうしないと困るんだ。俺、目立たない方の男の子だから、荒事はできれば避けたいんだ」


「目立たないのは見ればわかるさ? 荒事避けたいから許してくれ、なんだそれ?」


「聞いた事ないぜ! 助けに来ておいて、何もしないでくれって? 馬鹿か?」


「でも、俺、そこの天使様に用があるんだけど……」


俺は天使様の方を見る。天使様は目に涙を浮かべながら目をパチクリさせている。


だが、天使様から出た言葉は意外なモノだった。


「あ、あの、私の為に危ない目にあうのは止めて下さい。気持ちは嬉しいのですけど……」


俺は頭に来た。この天使様は心根が優しいことで有名だけど、自分がピンチの時にすら相手のことを慈しむらしい。


そう言えば、さっき振られている時も相手の女の子の幸せを願っていた。


「なんだよ。お前、やっぱり関係ないじゃないか!」


「痛い目にあわないうちにさっさと失せろや!」


そう言って、二人のナンパ師は俺との距離を詰めてきた。


「うわぁ……顔がこわ過ぎだよぉ、ママ助けてぇ。」


「お前、さっきから何ナメたこと言ってやがる? 随分と痛い目にあいたいようだなぁ!」


ガラの悪い男が俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。


「だ、だめぇ! 早く逃げてぇ!」


天使様が俺に向かって叫ぶけど……。


いや、俺がボコられるの前提で話さないでくれないかな?


そりゃ、俺は見た目陰キャで、強そうには見えないけど。


と思いつつも、勝手に身体が動く。


天使様のありがたい逃亡へのご指導を賜った瞬間、俺の胸ぐらを掴んでいた男の身体がフワリと舞い上がった。そして、激しく地面に落下する。受け身なんて知らないだろうから、角度は緩いものにしたが。


「なぁ!? てめえ、何しやがった! 卑怯者!?」


えっ? 卑怯? 別に卑怯じゃないと思う。唯の柔道だよ。むしろ、2対1で普通に喧嘩しようと思う方が卑怯じゃないかな?


「この野郎ただものじゃねえな? お遊びはこのくらいだ。こうなったら、俺の古武道の威力を見せてやる!」


「いや、できれば話あいで解決しない?」


「止めてっ! 駄目! あなた達、早く逃げて!!」


えっ? 天使様? まさかのガラの悪いヤツらの心配?


俺の方が悪いヤツみたいじゃない?


さっき投げ飛ばした男が再度起き上がって、古武道がどうとか言っていた男も二人がかりで俺に殴り掛かる。俺はひょいひょいとかわした。


当たらなければどうと言う事は無いよね?


その後も色々俺の知らない武器を出したりして仕掛けてくるが、全部かわした。なんか、弱すぎて真面目に戦う気がしない。


「ハァ……ハァ……な、何なんだコイツ?…………し、仕方ねぇ。これだけはやりたくなかった! 俺の最終奥義! 紅蓮流空手奥義! 細胞の一片たりも残らねえから覚悟しろ!!」


いや、細胞の一片も残さないって、どんな奥義だよ! 漫画か! それに、それ唯の殺人だからな!


「紅蓮流 拳闘術、我の拳は鋼なり、我の身体の源は無限の闘気なり、我が拳は無敵なり!」


「いや、待っていられないかな」


ナンパ師の拳闘術、多分インチキ古武道だろう、言霊に乗せて気を取り込み、身体能力を数倍に引き上げるとかなんとか……。眉唾だけど、待っている馬鹿はいないよね?


俺は素早く拳闘術士の懐に潜り込むと、大外刈を仕掛けて、その男を宙に舞わせた。


男の身体は舞い上がり、今度は加減しないで地面に叩きつけた。


「ぐ、ぐすん、ち、畜生、父親にだってぶたれた事ないのに……」


嘘だろ? こんな悪ぶっておいて、まさかのお父さんにぶたれた事ないって……俺もぶたれた事ないけど……でも、俺は悪い事しない子だから。


「お、覚えてやがれ!?」


「この、喧嘩は預ける!」


まあ、この手の手合いは一度やりあうとなかなか見逃してくれない。


だからと言って、ほおってはおけなかった。多分、この天使様の涙とあのなんとも言えない表情を見てしまったからだ。


「……」


戦いは終わったけど、そんな俺の顔を天使様は何故かポカーンと見つめていた。


俺、おかしいことしてないよな?


まあ、俺が意外に強いから驚いたんだろう。


俺、子供の頃からボッチだったから親父に柔道仕込まれていて。


まあ、そんなことより。

俺は怯えている天使様の傍に近づく。


「大丈夫?」


「は、はい……助けて頂いてありがとうございます」


天使様は怯えてはいたものの、何とか返事をしてくれた。


俺のこと怖がったりしたら、俺、泣いちゃうからね。


「酷い目にあったね。あんなガラの悪いヤツらに絡まれて」


「は、はい……でも、きっと何か事情があったのだと思います。根っから悪い人たちなんていないと私は思うのです。でも、先程はちょっと困ってました……」


この天使様はガラの悪いヤツですら根っからの悪人ではないと信じている?


今も怯えて震えている癖に?


俺はムカついた。そう、この天使様が振られていた時にも感じたこと。


優しい天使様? 嘘だ。そんな人はいない。


断言できる。


何故なら、振られた後、後ろを向いた天使様の顔は天使とは程遠い醜い顔。


情けない、人を恨んでいる顔だった。


この天使様はひたすら自身の心を殺して天使として振舞っているんだろう。


それが悪いことだとは言わない。


だが、俺は嫌いだ。


そんな生き方。


「それにしても、お強いのですね? どこの学校の方ですか?」


そう言って、天使様は最高の笑顔で俺を見つめる。


何故か雲の切れ目から日が差して照らされた彼女の笑顔はまさしく天使だった。


雲とか天候とかも味方につけるとか、この天使すげぇな。


ちょっとドキドキしちゃったじゃないか。


でも、俺、同じクラスなんだけどね。


「えっと、一応同じクラスの磯風 悠斗なんだけどね。まぁ、とにかく無事でよかったな。気を付けて帰るんだぞ。じゃ、ここで」


そう言って、俺は天使様と別れて帰ろうとする。


だけど。


「ま、待ってください!」


すると、天使様が立ち去ろうとする俺の腕を掴んできた。


「あ、あの! 助けていただいた、お礼をさせてください!」


「はあっ……」


俺は思わずため息が出た。


お礼がしたいだって?


天使様は勘違いをしている。


俺が天使様を助けたのは彼女の涙もあるけど、振られた腹いせにガラの悪いヤツにあたっただけだ。そうじゃなきゃ警察に通報して終わりだ。


俺は天使様みたいな聖人君子じゃない。


別に天使様のお礼には全く興味がない。


それに何より、俺は————


この天使様が嫌いだ。


「あのな、天使様。俺はお前のことが嫌いだ。みんなの顔色ばかり伺って、いい子に徹してるお前を見ていると腹が立つんだ。———お前は、さっき振られた時にあんなに相手のこと気遣ったくせに、振り返った時のあの顔はなんだ? お前は本当に優しいヤツなのかもしれんがな、自分の気持ちを殺して人のことを気遣って笑顔でいるお前が————俺は嫌いだ」


「―――――!!!!」


「俺の一方的な感情だから気にするな。ただ、俺はそう思ってしまうんだ。だから、別に今のことはお礼なんてしなくていい。ていうか、俺もさっき振られたばかりで、あいつらに八つ当たりしただけなんだ。恩義を感じる必要なんてないから」


俺は天使様に冷たく言い放った。別に天使様の生き方にケチをつける気はなかった。


むしろ、天使様の生き方の方が良いことなのかもしれない。


ボッチの俺がリア充の天使様に向かって八つ当たりしただけに過ぎないのかもしれない。


でも、あの屋上で彼女が振られて振り返った時の表情が俺には忘れられない。


悔しかった筈だ。情けなかった筈だ。なのに、相手を祝福して、配慮して……


その癖振り返った時の表情は醜いモノだった。


天使様はもしかして、人から嫌われたの初めて聞いたとも言わんばかりの表情で俺を見つめていた。


「あの時、屋上にいたの……磯野君だったのね……」


すまん、俺の名前……磯風だ。


「まあ、俺も振られたばかりでな。言いすぎた。すまん。俺は振られてお前とさっきのヤツラに八つ当たりしただけだから、このことは忘れてくれ」


「私のことが嫌いなの?」


驚いた顔をするクリス。まあ、天使様には新鮮な経験だったのかな。


だが、天使様は意外な提案をしてきた。


「……ねえ、磯山君も振られたんでしょ? なら私の気持ちわかるでしょ? じゃあ、私の愚痴に付き合ってくれない? 奢るから」


だから、俺の名前 磯風な……



結局俺は天使様の奢りに付き合うことにした。


俺は聞きたくなった。天使様の愚痴ってヤツが。


天使様の本音。


それなら聞いてやる。


うわべを飾った言葉じゃなくて、天使様の本音。


それなら聞いてやる。


俺はそれなら天使様のわがままに付き合うことに同意した。


「でね、樹は私の幼馴染なの。7歳の時、たんぽぽで作った指輪を私の指にはめてくれてね。僕、クリスを必ずお嫁さんにするって……お嫁さんって……」


「ちょ、ちょっと、天使様?」


天使様はかなり痛い感じで泣き始めた。


うかつだった。女の子の素の感情なんて俺が聞いていいものじゃなかった。


ていうか、周りからは俺が天使様を泣かせているようにしか見えないと思う。


「み、水飲んで! 気持ちを整えて!」


「あ、ありがとう。ぐすん……磯秋君」


だから、磯風な。


「結菜ちゃんは私の親友なの。だから、二人のことは祝福しなきゃとは思うの……でもね……親友の幼馴染を寝取るとか寝取魔よね?」


ふにゃりと天使様の顔が歪む。やだ、この人ちょっと怖い。


訂正。俺は自分の考えを即座に訂正した。


知らない方がいいものもある。


天使様の歪んだ闇堕ちした表情を見て、俺は速攻で自身の考えを改めた。


「樹もね。嘘つきだよね? お嫁さんにするって言ったんだから、これ、もう婚約でしょ? なのに結菜ちゃんを選ぶとか、酷い浮気だよね?」


いや、7歳の頃の発言とか本気にしちゃ駄目だよね?


天使様はブーと紙ナプキンで鼻を噛むと。


「今日はやけ食いするからね。磯井君、徹底的につきあってね」


「は、はい」


ホントは嫌って言いたかったけど、そんな空気はない。


天使様の目は闇堕ちしてすわっていた。


やだ、怖いよぉ~。


「ハンバーグステーキ定食二つとシザーサラダ大盛をお願いします」


はっ? 奢りとは言っても、俺のメニューの選択権ないの?


「どうしたの、磯子君? 頼まないの?」


「あ、じゃ、俺もハンバーグ定食で……」


まさかの一人で二人前の爆食いだった。それと俺、磯風な。


天使様はそうそうに来たシザーサラダの大盛を頬ばりながら、なおも愚痴も言い続けた。


「17年も拘った私の存在って何なのかな? 17年だよ?」


「まあ、それは俺にも気持ちわかるよ」


俺も17年拘った幼馴染の花蓮に振られたから良くわかる。


「確かに天使様と付き合ってたのに、他に可愛い子がいるからって乗り換えるとか」


「私と樹って、やっぱり付き合ってたように見えた?」


天使様がほほ笑む。


だけど、痛い、痛すぎる。


正式には付き合ってなかったらしい。


天使様のほほ笑みが痛々し過ぎる。 樹に罪は全くない。


「そうよね! 樹もきっと真実の愛に気が付いて、一歩手前で私に気持ち移らないかな?」


「いや、それは絶対ないと思うけど……」


逆に17年連れ添った幼馴染の女の子を振るんだ。相当な覚悟があったと思う。


「わ、私、樹とキスしたことあるんだよ。ファーストキスなんだよ」


「それ7歳位の時のことじゃないの?」


多分、樹は忘れてると思う、それ、ノーカンだと思う。


後、今後、あの二人は更に先に進むから気持ちの整理しておいたほうがいいと思う。


「そ、それに樹のお母さんが聞いたらどう思うかな? きっと、きっと……」


さすがに突っ込めなかった。


樹のお母さんは今後、天使様をはれ物を触るように接するしかない。


ご愁傷様です。


気が付くといつの間にか来ていた3人前のハンバーグステーキ定食のハンバーグにグサッと天使様がフォークを突き刺すと、ボロボロとまた泣き始めた。


ファミレスの店員さんのステルス能力すげぇな。


さぞかし、たくさんの修羅場をくぐり抜けてきたに違いない。


「あの、クソ女ぁ!!」


親友じゃなかったのか?


「て、天使様、どうどう! ハンバーグステーキ冷めちゃうよ?」


「う、うん」


ひとしおハンバーグステーキを血走った目で食べると。


「ねえ、やっぱり男の子って、胸が大きい方が好きなのかな?」


「いや、それは人によってそれぞれだと思うよ」


「い、今頃、あのクソ女の乳揉んでるのかなぁ~!!」


「あ~、天使様、どうどう、高校生でそこまではないと思うよ」


いや、ほんとは知らんけど、それに時間の問題と思うけど、さすがにこの爆食いの天使様を傷つけるほどの度胸はなかった。


「ごめんね。取り乱して。磯貝君には感謝しかないよ」


そう言って、ほほ笑む天使様。


それにしても磯の付く姓の語彙力凄いな。


一つもあたらんとこも凄いけど。


天使様はハンバーグステーキ2人前を食した後もデザートを三人前ほど頼んで、完食した。


そして、いざ会計になって、お会計のお姉さんの前で天使様は目に涙を浮かべてお財布の中とレジの金額表示を交互に見ていた。


あんなに食べといて、お財布の中身確認しないとか、この天使様って……


ポンコツって言いそうなのを我慢するのに骨が折れた。


ファミレスを出て、天使様と二人で帰途するが、どうも同じ方向みたいだった。


お会計を俺が立て替えたのは言うまでもない。


夏とはいえ、さすがに暗くなってきた。夕焼けの日が天使様にあたって綺麗だ。


そんなことを思っていると、唐突に天使様が言いだした。


「ねえ、私達付き合わない? 割り切りで、傷を舐めあうために……」


「ええっ? いや、傷を舐めあうとかはちょっと嫌かな」


「わ、私って、そんなに魅力ないのかな?」


「そ、そんなことはないよ。ただ、傷を舐めあうとかはちょっと……」


天使様ふっとため息をつくと。


「やっぱり、私みたいなの、魅力ないのね。結菜ちゃんみたいにおっぱいないし……今度、あの乳握り潰してやろうかしら?」


また、歪んだ笑みでヤバい発言をする天使様。


この子ヤバ過ぎん?


「じゃあ、磯風君に妥協してもらって彼女にしてもらうとかダメかな?」


そう言って、俺の方を上目使いで見て来る。


そんな目で見られると、さすがに断りにくい。


ちょっと、このポンコツ負けヒロインの天使様に近づくことに俺のアラームが鳴っているが。


「わかったよ。俺で良ければ……」


「あ、ありがとう。私、頑張るね。私のことはティーナと呼んでね!」


「ティーナ?」


「うん、私ね、半分ロシア人なの、それで名前がクリスティーナだからみんなからクリスって呼ばれてるんだけど、家ではティーナて呼ばれているの、ロシアではそう。親しい人にはティーナって呼んで欲しいの」


「わかった。ティーナ、いつまでも天使様と呼ぶのもなんだよな」


あれ、いつの間にか俺のこと磯風君って呼んでるな。


どうも、ティーナは俺の名前をようやく思い出したらしい。



「まあ、悠斗が無事当たって砕け散って来たことはわかったけど」


「そうよ、砕け散ったら、私が膝枕で慰めてあげる筈だったのに」


「なんで砕け散ることが前提だったんだよ!」


俺は俺と親しくしてくれる唯一のリア充の友達のクラス委員長の秋月 大和あきづき やまとと副委員長の初月 美咲はつづき みさきに散々からかわれていた。


「いや、花蓮に振られるのは予定調和みたいなもんだが、天使様と付き合うことになったとかどういうこと?」


「はっ! まさか、振られてその腹いせに天使様に性暴力を行って、卑怯にも脅しているとか?」


「初月、酷すぎん? 俺、そんな卑怯な人間に見える?」


ホント、こいつら、多分、先生に言われて俺に付き合ってくれてるんだと思うけど、俺への評価酷すぎん?


「あ、あの、実は私もちょうど昨日振られたばかりで、その。帰り道に怖い人に絡まれているところを磯風君に助けてもらって、その後、意気投合して付き合うことになったんです」


「天使様がねぇ~。気が付いちゃったのかな?」


「何が?」


謎の発言の初月。何なんだ? そのもったいぶった発言は?


「磯風君は気にしないで、せいぜい振られるまで青春を謳歌しなよ」


「だから、なんで振られること前提?」


全く、初月は俺と話してくれるし、秋月と三人でお互い勉強を教えあったりする中だけど。


毒舌が酷い。俺、こいつらと違って陰キャだよな?


優しくして欲しい。マジで。


「じゃ、今日は4人でお弁当食べよ?」


「えっ? 俺、秋月や初月と違って今日は学食だよ?」


「ふふっ、そんなの私が作って来たに決まってるじゃないですか♪」


楽し気に言う天使様。しかし。


「お、おい! 天使様があんなクズと一緒に弁当食うらしいぞ!!」


「あいつ……絶対天使様の弱みを握ってるんだと思うぞ!!」


なんかクラスメイトの反応が酷い。


なんか普通にクズとか思われてたのね?


「まあ、仕方ないわよ。磯風君ってゴミっていう認識だからね」


「初月!! 普通に俺の心、殺しに来ないで!!」


そんなこんなで、物騒なクラスメイトをよそに、四人でお弁当を食べる。


「はい、じゃ『あ~ん』」


俺は心臓が止まるかと思った。突然の『あ~ん』だ。それも天使様は顔を赤らめて、明らかに凄い意を決して言っている。断った方がいいよな?


「あの、ティーナ? できれば、ご容赦頂きたいんだけど、とてつもなく目立つと思う」


「わ、私に恥をかかせる気ですか? 泣きますよ、盛大に泣いて、悠斗が私をゴミクズのように捨てたって言って泣き出しますからね!」


俺がクラスメイトに殺されるだろ!?


「わ、わかったから、食べるから、許して」


「うん、ありがとう」


そう言うと、天使様は更に僕に近づき、って、近い、近すぎる! いい香りと共に凄い近距離で唐揚げを持った箸を僕の口に突っ込んだ。


もぐもぐ。ていうか、箸、関節キスにならんか?


リア充の世界では当たり前のことなのか?


「美味しい!?」


天使様の『あ~ん』の効果もあって、唐揚げは最高に美味しかった


「なあ、俺、ヤバくない?」


「何がヤバいの?」


「ティーナのファンに殺されるような気がするけど?」


天使様は指を唇にあて、首を傾げて考える様な素振りをする。考えて! 俺の身の安全、大事!


「悠斗君。頑張ってね♪」


柔らかな声で、ニッコリ笑って天使様はそう言った。考えてくれない訳ね。自分で何とかしなさいという事ね?


あれ? いつの間にか磯風君って言ってたのが、悠斗になってる。


俺達互いの傷を舐めあう仮初のカップルじゃなかったっけ?


俺はそんなことを考えている余裕はなくなった。


クラス中からあふれる殺気に気が付いて……



そんな感じで、クラスだと怖い思いをするので、天使様は放課後秘密の場所で話そうと言ってくれた。


その場所は校庭の裏庭の階段だ。


あまり誰も来ない。


「ここなら、二人の愛を密かに育むことができるね♪」


「えっと、なんかティーナ、幼馴染の樹のこと忘れてない?」


「いいのよ、あんなクズ、あのクソ女と乳繰り合っていればいいのよ」


やだ、天使様怖いー。淀んだ目が怖い。


そんな時、声が聞こえてきた。


「わ、私、綾波君のこと、す、好きです」


聞いたことのある声。それは俺の幼馴染の花蓮の声だった。


「ご、ごめんね。俺、彼女の陽葵がいるんだ……」


そっか、花蓮には好きな人がいたのか。


いや、どっちにしても、花蓮の心の中には俺はいなかったと思うけど。


「そ、そんな! あんなに仲良くしてくれたのに?」


「勘違いさせてしまったことは謝るよ。でも、僕、そんなつもりはなくて……」


「そうなの……。わかったわ。二人で幸せにね。じゃ、私はこれでね! くたばっちまえ!」


階段の奥から盗み見、いや、見守っていたが、花蓮は振られたらしい。


相手はリア充の中でも有名な綾波というバスケ部のエースだ。


「悠斗―――早く追いかけて」


「なんでぇー」


多分誰でもみんなそう突っ込んだと思う。


「あの子、そうとうメンタル参ってたわよ。いいの? あの子、の悠斗の幼馴染だったんでしょ?」


「ティーナはいいの? 俺が花蓮の後を追いかけても?」


俺は逆に聞き返した。


俺達仮初だけど付き合ってるんだよな?


「幼馴染の女の子の場合、仕方ないの!」


「いいの、幼馴染の女の子のはね、お場合はねぇ、特別なのよ!! だから―――」


「わかった行ってくる」


「ちょっと、まだ話の途中よぉ!」


俺はティーナを置いて花蓮を追っかけた。


ティーナが幼馴染の樹とその恋人の結菜ちゃんへのダークサイドの面を見る前に逃げた。


後、花蓮を追いかけたふりして戻るつもりだった、の、だが。


「や、止めてください。わ、私、あなたとなんか付き合いたくない!!」


「へへ、そんなこと言うなよ。俺の知り合い、めっちゃイケメンなんだぜ!」


いや、何でこんな時にこういうヤツに絡まれてるの?


「や、止めて、お願いだから!」


花蓮は本気で嫌がっている。声色からかなり恐怖を感じているのだろう。


花蓮は気が弱いところもあり、こういう手合いのヤツらを上手くあしらえない。


俺は余計なおせっかいだとは思っていたし、助けてもろくでもないことにしかならないと思っていたが、花蓮を助けることにした。


「ごめん、待たせたね。何? ナンパされちゃったの?」


「な、何、悠斗?」


一瞬驚く花蓮に俺はウィンクをして、合図を送った。


だが、一瞬で演技がバレたっぽい。


「こいつ、正義の味方のつもりか?」


「やっちまえ!」



「相変わらず喧嘩だけは強いのね?」


「それが助けてもらった人への言葉?」


「なんでよー! なんで私なんて助けたの? 私、あなたを振ったのよ? それもあんなにこっぴどく!!」


「別にそんなの関係ねーよ」


それは事実だ。花蓮が振られたからと言って、慰めるつもりはないけど、絡まれていたら、助ける。別に花蓮じゃなくて知っている子ならそうする。


「な、なによっ!!! 余裕なの? あの金髪の天使様と付き合えたから余裕なの?」


「あの天使様とはそんなんじゃないよ。あの子も振られて、傷を舐めあう仮初の―――妥協の恋人同士を装ってるんだ」


「ふっ、何それ、でもあんなに鼻の下伸ばして、やっぱり男の子なんて、ちょっと顔がいいとフラフラと好きになるのね。あなたの腑抜けた顔、殺意がわいたわよ」


花蓮、何を言ってるんだ? 俺は別にあの天使様が可愛いからフラフラしてる訳じゃない。


むしろ、内面が怖いんだけど?


いや、花蓮は俺が天使様の顔がいいから、すぐフラフラと好きになったと思ってたのか?


「顔とか、関係ないだろ?」


「はあ? じゃあ、何? 悠斗は本気であの金髪の天使様の顔に関係なく付き合ってるの? 嘘でしょ? 悠斗はどうして私の事を好きになったの? ええ、私は可愛いわよ! でも、中身はクズよ!! 悠斗なんて、気のある素振りでからかって遊ぶおもちゃとしか思ってなかったわよ!」


「知ってたよ……」


俺は静かに言った。


花蓮がびっくりしたような顔で黙り込む。


花蓮は裏表のある子だった。


子供の頃は素直な天使のような子だったと思う。


だけど、大きくなるにつれて、可愛く成長する中で、変わって行った。


俺を見る目が変わった。まるで物を見るように俺を見るようになった。


「嘘! 私、こいつに好かれちゃったなーって、またかって、たくさんの男の子に好かれるのに愉悦して心の中で笑っているような女の子だったんだよ? それを知っていて?」


「知っていたよ。俺のこと……哀れなヤツだと思ってたんだろ? 顔に書いてあったよ」


「う、嘘よぉ―――」


花蓮は振られて感情が高ぶっているのだろう。


普段ならこんな本音なんて絶対口にしない筈だ。


俺は良く知っているから。


「俺はお前のそういうところも含めて好きだったんだよ。惚れた弱みだよ。なんでも許せた」


「そ、そんな。そんなヤツがいる訳が―――」


俺はカチンと来た。


花蓮のことは吹っ切らなければならない。


でも、幼馴染の女の子にいつまでもそんな気持ちでいて欲しくない。


「俺が外見だけで人を判断するわけ無いだろ!! 花蓮がどんなだって、俺は一生お前のことが好きだったと思う。子供の頃の花蓮は何にでも一生懸命な女の子だった。俺はお前の根っこが好きになったんだ。花蓮が可愛くなる前からだ!」


「そ、そんなのずるいよ」


花蓮は涙を流して俺を見た。


久しぶりに見る花蓮の綺麗な顔。顔がいいとか、そんなじゃない。


綺麗な心を持っている時の花蓮の顔。


俺は花蓮の言葉を待っていた。


「ず、ずるい……よ! ずるいよぉ……!」


泣き続ける花蓮はすっかり変わったようだ。


俺の幼馴染の女の子はもっと素敵な女の子になれそうだ。


「なんで全部わかってて、私のこと嫌いにならないの? 私は嫌いだよ! こんな中身がクズな女!! どうして、私のすぐ近くに、私の知らない男の子がいるの!? なんで他の男の子みたいに私の外面だけで好きにならないのぉ! 私、こんな男の子知らなかったよ……っ!」


泣き続ける花蓮に俺は久しぶりにあの頃の笑顔を向けた。


「さっき振られて、どう思った? 他の男を弄んできたけど、相手の気持ちもわかっただろ?」


「う、うん。私がバカだった。ごめん、悠斗……わ、私」


そんな時、金髪の天使様が到着した。


「悠斗君、なんか大変なことになってない?」


「ああ、花蓮が無理なナンパにあってね」


「き、金髪の天使?」


なんか、花蓮が気まずそうだ。


だが、花蓮が爆弾をぶち込んできた。


「金髪の天使様はただ、妥協で悠斗と付き合っているのよね?」


「あらあら、何をおっしゃる黒髪の天使様、あなたには関係ないことでしょう? だって、昨日悠斗君を振ったばかりでしょう?」


なんか、修羅場みたいな空気じゃないよな?


結局、ティーナと二人で花蓮を家まで送って、その日は過ぎた。


二人の間に何故か高電圧の電流が流れているような気がしたのは気のせいだと思う。


⭐︎


あくる日。


「当たって砕け散って来たのは予定調和だけどな」


「砕け散ったら、私が膝枕で慰めてあげる予定だったにねぇ」


「なんで砕け散ることが前提なんだよ!」


俺と親しくしてくれるクラス委員長の秋月 大和あきづき やまとと副委員長の初月 美咲はつづき みさき。二人は多分、担任の先生に言われて俺と親しくしてくれてると思うんだけど。ボッチの俺にはありがたいことだと思うけど、酷すぎん?


「なあ、秋月、ティーナと花蓮ってどうしちゃったのかな?」


「どうしたのかなって、こっちが聞きたい。お前、どうやってあの二人をたらしこんだんだ? あと、お前、夜に帰る時、後ろを用心した方がいいぞ」


怖いよぉ! それ、絶対ティーナと花蓮の信奉者が俺を狙っているていうことだろ?


「おい、釘が刺さりまくったバットの用意できたか?」


「ばっちりだぜ、お前こそ、改造エアーガンの準備は?」


「もちろんだぜ、これでヤツもお陀仏だぜ」


お、俺のことじゃないよな? ヤツって!!


「悠斗ぉ!! お昼一緒に食べようよぉ! お弁当作ってきたよ」


「あら、黒髪の天使さん、あなた先日悠斗君を振ったばかりでしょ? 何言ってるの?」


「あら、金髪の天使様こそ、割り切りで、妥協で傷を舐め合うために付き合ってるんでしょ? ほんとの恋人できたら解消でしょ?」


「あなたにそれ言う資格ありますの?」


「わ、私、生まれ変わるから! 悠斗に相応しい女の子に生まれ変わるから! だから、悠斗は私のものなの!!」


「何、都合がいいことを言ってらしゃるの? 悠斗が素晴らしい男性だと気がついたのは私の方が先でしてよ? あなたなんて、17年もボケッと気がつかないでいたくせに!」


「なんですって! 悠斗は絶対渡さない!!」


二人はポカポカと可愛い感じで互いに叩きあう。


コアラが戦っているようにしか見えんけど。


俺……もしかして、すごい地雷踏んだんじゃ?


先に修羅場の展開しか見えん。


俺は今から気が遠くなってきた。


⭐︎


「なあ、初月、行かなくていいのか?」


「な、何がよ?」


「放っておくと、お前の初恋の人、トンビに攫われるぞ? お前だって、銀髪の天使って言われてるんだろ? 相手に不足はないだろ?」


「バッカ! 何言ってるの?」


「まあ、俺に任せろよ。話に入るチャンス作ってやるから」


そう言って、秋月はいつものように悠斗君に話しかける。


それにつられて、私も自然に会話に参加できた。


もう、悠斗が花蓮に振られるのはわかっていたから、私にチャンスあるかなと思ってたのに、なんで、速攻で金髪の天使たらし込んだ上、黒髪の天使の花蓮までたらし込んでるのよ!


私が一番早く、悠斗君の良さを知っていたのに。


悠斗君って、いざとなると男気がある。私も中学の時に気が付かされた。


あいつ、覚えてないだろうな。


私はすっかりアイツの虜になっちゃったのに。


それに秋月! お前もいいヤツすぎるだろ! 


私だって気づいてるわよ。あんたの気持ち!


私のために悠斗との間取り持つってどんなけいいヤツなのよ!


嫌いじゃないけどね。そんな秋月は。


悠斗君がいなければ惚れてたのかも。


ほんと、男って馬鹿ばっかり!!




そんなこんなで、私立雪の下高校の夏の青春の1ページは過ぎていくのであった。




終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

負けのヒロインの金髪の天使様と妥協で付き合うことになった 島風 @lafite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ