クラスで最低と蔑まれた上、幼馴染に振られたけど、後輩を助けたら、超グイグイ来た~俺が無実な上、実はweb小説の神作者だとわかってももう遅い~

島風

第1話クラスで最低と蔑まれた上、幼馴染に振られたけど、後輩を助けたら、超グイグイ来た~俺が無実な上、実はweb小説の神作者だとわかってももう遅い~

幼馴染の女の子から屋上に呼び出された。ドキドキの告白のイベントかって?


それはあり得ない。何故なら俺達は1年前から既に付き合っていて、もう彼氏彼女の関係だからだ。


なのにワザワザ呼び出されるイベントって…俺は幼馴染の彼女の言う言葉が既に頭に浮かんでいた。


学校の屋上に行くと、そこには黒髪の綺麗な、俺の幼馴染、花蓮がいた。


俺の彼女としては不釣り合いだろう。彼女の容貌はこの学校でも一二を争う。


だからと言って、俺は自分の事を卑下するつもりはない、花蓮がただ可愛いというだけのことだ。


もちろん、俺は花蓮のことが好きだ。10年以上連れ添った幼馴染の彼女なんだ。


だけど、花蓮は見た目と裏腹に性格は決して良くはない。


でも、わがままで、多少の性格の悪さを差し引いても、俺は花蓮が好きだった。


もっとも、たいていの男がその外見と内面の違いに気が付くと引いてしまうだろうという事も察していた。


俺は特別、美少女の幼馴染の彼女がいることをラッキーとは思っていなかった。


花蓮と付き合うということは、かなり難儀なことがあり、苦痛も伴う、俺が花蓮を幸せにしないと、花蓮は不幸にしかならないとすら思っていた。


花蓮には俺が必要なんだ。そう自分で勝手に思っていただけなことは、これから起こることでわかってしまうんだろうな、と、そう思った。


そして、花蓮の口から出てきた言葉は予想通りのものだった。


「……私達、別れよう」


「……ああ」


「悪いのはあなたなのよ。全部……あなたが悪い……。あんなことするから……」


「あれは誤解だって言っただろ? 信じてくれるって言ったじゃないか!!」


俺は腹が立ち、思わず怒気がにじんだ言葉が出てしまった。


「そんなの信じられる訳がないでしょ?」


「花蓮が信じてくれなかったら、誰が信じてくれるんだ?」


俺の魂の叫びだった。俺は3か月前からクラス…いや、学校中から孤立している。


ある、誤解…いや、無実の罪を着せられて、全校の学生から蔑まれている。


必死に担任の教師に訴えた。でも、取り合ってくれなかった。


両親もそうだ。俺はあんな噂のようなことは断じてやっていない。


せめて花蓮にだけは信じて欲しかった。


「あなたの言うことなんて、誰も信じないわ。当たり前でしょ? だから、今日から二度と私には近づかないでね。私、綱島先輩と付き合うことにしたから。あなたとでは月とすっぽんでしょ? 陰キャなうえ、あんなことをして!!」


「ち、違うんだ!? 本当に俺は無実なんだ!!」


「そんなことはもうどうでもいいのよ! 陰キャなあなたに優しく幼馴染として接していて、彼女にまでなってあげたら、私の印象が良くなるでしょ? どうせ繫ぎだったのよ」


「…つ、繫ぎ……ああ、わかったよ」


俺は絶望のどん底に落ちていった。


気が付くと俺は涙を流していた。花蓮との思い出を思い出して……


気が付いていた。


最近その綱島先輩とよく会っていることも、俺のことを信じてくれないだろうと言うことも…


だけど、俺の脳裏には子供の頃の花蓮との思いでが走馬灯の様に蘇った。


子供の頃、「樹のお嫁さんになる」花蓮はそう言ってくれた。子供の頃の花蓮は素直で無垢な子だった。でも、気が付いたらこんな子になっていた。


彼氏彼女の関係になった時、「何があっても一緒になろうね」花蓮はそう言ってくれた。


それが、たった3か月間の出来事で、俺は花蓮にとって邪魔な存在へと変わってしまった。


10年以上も拘わっていたのに!!


そして、俺は花蓮の性格の悪さが改めてよく分かった。


「ぎゃははははっはは!? コイツ笑えるぜ!!」


「ほんと、コイツ、マジで泣いているぜ!!」


「全部ばっちり、スマホで撮ったぜ! 今すぐ学校中の奴らに送信だぁ! 最低なヤツの惨めな姿はみんな涎を垂らしてまっているぜぇ!!」


気が付くと、俺と花蓮の周りには、同じクラスの同級生が取り巻き、俺をあざ笑っていた。


……二人きりじゃなく。公開処刑にしたのか…


いや花蓮ならそうするか……外面のいい花蓮は、自分に都合がいい人にだけには笑顔で返して、どうでもいい人には塩対応……人目のないところで散々なじったりしていたな。


喧嘩した時は散々罵詈雑言を吐き散らすな。みな、この可愛い顔から出てくる氷のように冷たい言葉を想像なんてできる筈もないだろう。


それでも、最後はどんなに花蓮の方が悪くても、俺から謝って……信じられない位に裏表のある子だけど、俺の前では裏の顔を平気で晒すところは、それなりに花蓮も俺のことが好きだからなんだろうと勝手に自惚れていた……でも、誰に対しても同じなんだな。


本当に自分に都合がいいだけの人だったんだ……俺は……


花蓮が常に考えているのは周りに自分がどう思われているかどうか……あざといだけにもほどがある。最初は信じていると言ってくれていたのに、都合が悪くなって来た途端、こうだ。ずっと側に居たのに今更気が付かされた。


「……二度と私に近づかないでよね…気持ち悪い」


俺の中の幼馴染は、この時、どこかに消えてしまっていた。物理的にも、精神的にも…


俺のことをあざ笑うクラスメイト達を後に残し、俺はフラフラと学校から自分の家に向かっていた。


明日からはもっと生きづらくなるんだろうな。それは間違いないことだろう。


そんなことを考えながら帰途についていると、一人の銀髪の少女が何人かの不良っぽい奴らから絡まれているっぽい場面に遭遇してしまった。


彼女の制服は同じ高校のものだ。


どうせ、俺に助けられても嬉しくなんてなくて、せいぜい罵声を浴びせられるだろうな。


そう思った、でも、


「や、止めてください。わ、私、あなたとなんか付き合いたくない!!」


「へへ、そんなこと言うなよ。俺の知り合い、めっちゃイケメンなんだぜ!」


いや、それだったら、そのイケメン連れて来て、お前は去れよと心の中で突っ込んだが、


「や、止めて、お願いやけん!」


女の子は本気で嫌がっている。声色からかなり恐怖を感じているのだろう。


見た感じギャルなのに意外だが、こういう手合いのヤツらを上手くあしらえないようだ。


俺は余計なおせっかいだとは思っていたし、俺の正体を知ったら、どうせ罵倒されるだけだと思っていたが、彼女を助けることにした。


たとえ俺が学校中から嫌われていて、最低なクズと言われていても、俺はクズなんかじゃない。


たとえ、助けても罵声を浴びせられるだけとわかっていてもほおってはおけない。


それは俺の矜持のようなものだった。本当の最低のクズになんかになりたくない。


気が付くと、俺は女の子と男達の間にわってはいった。


「ごめん、待たせたね。何? ナンパされちゃったの?」


「あ、あの?」


一瞬驚く彼女に俺はウィンクをして、合図を送った。


「ああ! はい、ナンパされて困っとったとよ。陽葵ひなたの彼氏さん!」


わぁ…この子大根役者だ。それに方言?


案の定、演技がバレたっぽい。


「こいつ、正義の味方のつもりか?」


「ふざけやがって、漫画かよ!」


「いいカッコしてんじゃねぇ!」


男達は俺に殴りかかって来た。もちろん俺に対処する力なんてなく、一方的に殴られた。


「や、止めてぇえええええ!?」


女の子の叫び声が響いた。だが、幸運なことに何人か、大人の男性が集まってきた。


「君たち何をやってるんだ? ケンカか?」


「いや、一方的に殴ってるぞ、これ!」


大人たちは声を聞きつけて何人か集まり始めた。すると、


「やべぇ。逃げるぞ!」


「ああ!」


「事件にされたらかなわん!」


そう言うと、逃げて行った。


俺は大人達にお礼を言うと、みな安心して去っていった。


そして、俺と女の子だけが残された。


陽葵ひなたを助けるためにこんな怪我までして…あの名前は何て言うと?」


「えっ? ああ、海老名樹えびな いつきって言うんだ……」


「樹さん、陽葵の事はこれから呼び捨てにしてくれん。これからの陽葵と樹さんとの間に…そんな遠慮だなんて、うち達相思相愛やないと?」


はい?


どうも、変な女の子を助けてしまったようだ。俺はちょっと後悔した。


でも、どうせ俺の正体がわかったら、見向きもしなくなるだろう。


そうして、その場をなんとか無理やり去った。そして、一週間が過ぎた。


俺は放課後、いつもの廃部になった書道部の部室で本を読んでいた。


ここは日当たりが良くて、日が落ちるギリギリまで読書ができるからだ。


「せーん、ぱい♪」


俺は無視した。例の助けた後輩の女の子は何故か俺にまとわりつくようになった。


多分、あの噂をまだ知らないからだろう。


何処で聞きつけてきたのか、俺の居場所を発見して、毎日この元書道部の部室にやって来る。


でも、止めてくれ、俺に拘わるのは……情が移った相手に拒絶されるのは辛い。


幼馴染の花蓮のことを思い出した。


「もう、せんぱいったら、あいらしかっちゃけんぁ♪ もう、陽葵ちゃんが来たからホントは嬉しゅうてしょうがなか癖に、意地なんてはってぇ! 先輩は陽葵ん夫になる人なんやけんぁ♪」


その口からいずれ、拒絶の言葉と蔑みの言葉が出るかと思うと、ぞっとした。


頼むから拘わらないでくれ! 本気の思いだった。


陽葵ちゃんは1年下で、下級生だった。


銀髪の髪をポニーテールにした活発な可愛い容姿と個性的な瞳が映える。


ギャルらしく、ゆるっと着た制服に身を包んではいるが、彼女はとんでもない美少女だった。


「で、結婚式はいつにすると?……もう、先輩は真面目に考えてくれんでぇ♪ 先輩は陽葵ん夫になるん方なんよ。陽葵が決めたんや。優柔不断ではつまらんけん。……ふふ、嬉しくて声も出らんのやなあ?」


「俺に拘わらないでくれ!!」


俺はとうとう本音を言ってしまった。正直、花蓮に振られたばかりの俺にとって、この陽葵ちゃんには癒された。


しばらくなかった人との交流をもらって、嬉しかった。


でも、そんな陽葵ちゃんの口から拒絶と蔑みの言葉を聞くかと思うと、もう止めてくれ!


という、魂の叫びが思わず、口から出た。


「せ、せんぱいん馬鹿ぁ! どうせ、例ん噂気にしとるんやろう? 陽葵だって知っとー! でも、陽葵がそんなこと信じるとでも思っとーと!!」


「えっ!?」


俺は思わぬ陽葵ちゃんの言葉に驚いた。


誰も信じてくれなかった……


先生も、両親も……幼馴染の彼女にすら……なのに?


「ほ、本当に俺のことを信じてくれるのか? 俺はこの学校一の最低ヤローていうことになってるんだぞ? 俺のこと怖くないのか?」


「えずか人(怖い人)が陽葵ば助けてくるー訳がなかし……噂が本当なら陽葵はとっくに先輩ん餌食やなあ?」


俺は間抜けな顔をしていただろう。そして、気が付くと涙が出ていた。


――― 人から信じられる


――― 信用される。


俺には久しく感じたことがない感情だった。


「な、なんで俺のこと、信じてくれるんだ? 助けたって、一回位? それに罠とか思わなかったのか?」


「せんぱいんバーカ! 陽葵が助けてもらうまで、先輩んこと、知らんかったとでも思うとったと? 前から好き、あわわわっ!! いや、気になって見とったばい!」


前から俺のことを知っていた? でも、それならいっそう、俺の悪い噂をよく知っているんじゃ?


「な、なんで俺のこと、信じてくれるの? 誰も信じてくれないのに?」


「先輩はよう下校ん時、倒れてしもうた自転車軍団ば直したり、ボランティアでゴミ拾いしとーとね? 陽葵、知っとーばい。それと噂ん先輩が同一人物な筈がなかやんか?」


「あっ!!」


俺は驚いた。誰も知らない筈の影の行い。


別に誰かに褒めてもらおうとかそういうんじゃない。


ただ、ほおっておけないんだ、俺は。


「あ、ありがとう」


俺はなんのひねりもない言葉しか出なかった。


でも、こんなに心が晴れたのは初めてだった。


それから、それまでそぞろに聞いていた陽葵ちゃんとたくさん話した。


もう3か月近く誰とも話していなかった俺にはとても嬉しいことだった。


とはいうものの、夕暮れになって、帰宅することになった。


今日はアレの更新がない日だ。それにあっち続きを書かなきゃ。


そうして、俺は一人住まいの部屋へ入ると、


「―――――!!!!」


思わず声じゃない声が出た。


だって、そこには制服にエプロンをつけた陽葵ちゃんがいたからだ。


「ひ、陽葵ちゃん? なんでここに?」


「あっ! お帰りなさい! いややなあ。先輩んご飯ば作っちゃるんって、未来ん嫁としては当然やなかと?」


「ええっ!?」


ていうか、この部屋、どこで知ったの? それにどうやって入ったの?


「あ、あの、この部屋にはどうやって入ったの?」


「え? いややなあ。ピッキングで鍵開けたに決まっとーやんか?」


俺の未来の嫁、不法侵入者の窃盗犯か何かか?


何、俺、陽葵ちゃんのこと、未来の嫁とか考えてるんだ?


不法侵入はびっくりしたけど、陽葵ちゃんの作ってくれたご飯を二人で食べた。


毎日自炊はしているけど、まともなものは食べてないから、ありがたかった。


「ところで、先輩はなして一人暮らしばていると?」


「う、うん、俺、家族とそりが合わないから…」


一緒にご飯を食べていた陽葵ちゃんが、いつ買ってきたのか、自分用の食器を持ってそんなことを聞いてきた。気のせいか洗面所には可愛い歯ブラシも増えている。


「どうしてそんなことを聞くの?」


「え? いや、ちょっと気になって、えへっ♪」


どうしてそんなことを聞く逆に理由を尋ねると、陽葵ちゃんは少し寂しそうな表情をしていた。


どうして寂しそうな顔をするんだろう?


「……つまんない理由だと思うぞ」


「ばってんよかけん、聞きたか……先輩んこと……」


陽葵ちゃんはいつになく、真剣な表情で俺を見つめる。


あの噂を聞いても俺のことを信じてくれた陽葵ちゃんなら、……その、話しても、いいかな……。


「俺の家には、親父と母さんと、一つ年上の兄がいてね……」


俺は自分の身の上話を始めた。


かいつまんで言うと、俺の兄は天才だった。


子供の頃から勉強ができて、運動神経も良かった。


それに引き換え、俺はたいして何もいいところなんてなく、いつも兄と比較されて育ってきた。


親になじられるのって辛い。比べられるのが辛い。愛情が兄にばかり向くのが辛い。


子供の頃は少しでも親の気を引くため、必死で勉強した。


でも、才能って…神様って絶対いないなと、小学生の頃に思った。


簡単に学年トップをとってくる兄に対して、俺はどんなに必死で勉強しても、クラスの真ん中になるのがやっとだった。


それでも俺は両親に褒めてもらいたくて、ほんの少しでもいいから愛情が欲しくて、必死で勉強した。


その努力が実ったのか、一度だけ苦手な国語で100点が取れた。


100点の答案用紙を持って、いそいそと家へ帰った。


両親が褒めてくれる。俺のことを見てくれる。


そう思うと、心がはやった。


そして、帰宅するなり、


「お父さん、お母さん! 僕、国語で100点をとったよ!」


大声で両親に言った。てっきり、俺のことを褒めてくれる言葉が待っていると思っていた。


だけど、


「五月蠅い! お前なんかのことはどうでもいい! 蓮が大変なんだ!!」


帰ってきたのは父親の拳だった。


「本当に蓮と違って空気も読めないの子ね! 本当に血が繋がっているのかしら?」


そして、実の母親から投げつけられた言葉。


兄の蓮と俺が血が繋がってなけりゃ、俺は誰の子なんだよ?


今ならそう言い返しただろう。でも、当時の俺は親離れできていなかった。


「ぼ、僕ね、一生懸命頑張って、国語のテストで初めて100点とったんだよ!」


俺は必死にアピールした。両親に褒めてもらいたかった。


両親に関心を持ってもらえる機会は二度とないんじゃないかと思えて…


「蓮は私立中学の推薦がもらえなかったんだ。運悪く、国語のテストでいつになく悪い点をとったおかげでな!!」


「それなのに、お前は国語で100点取ったなんて嘘をついて!!」


「ち、違う。本当に100点取ったんだよ!」


俺は必死に自分が100点を取ったと主張した。


でも、それは大きな間違いだったんだ。


簡単な話だ。自分の子が国語で悪い点をとったおかげで、有名私立中学の推薦状がもらえなかったんだ。


そこへ、よその子が国語で100点取ったとうそぶいたなら…


そう、俺はよその子だったんだ。彼らにとって…


「嘘をついてまで、兄を貶めたいのか? お前には人間の赤い血が流れているのか?」


「あなたには人の心がないのね……」


お父さん、赤い血が流れていないのはあなただ。


お母さん、人の心がないのはあなた。


今ならはっきりわかる。


俺は両親の子じゃない。例え血が繋がっていても。


その時から、俺にとっては彼らを親と認識できなくなった。


それから、高校に進学する機会に一人暮らしを申し出た。


意外とあっさり了解された。それだけ、俺への関心度が少ないのだろう。


彼らが心配したのは唯一…


お金だった。俺に興味はなくても、お金には興味があったんだろう。


正確には一人暮らしをするのに、俺に仕送りするのが嫌だということだ。


仕送りはしなくていいと伝えた。借りる家の保証人にだけなってもらった。


敷金、礼金は子供の頃からのお年玉や、こっそりやったアルバイトでまかなった。


こうして、俺は毎日必死にアルバイトをしながら、一人暮らしをするという幸せを手に入れた。


「……今は、高校を卒業した後、一人で生きていけるように、仕事をしながら、お金を貯めている最中、ってことだな」


俺はここまで喋ると、はあぁと嘆息して、陽葵ちゃんを見た。


彼女の目には涙が浮かんでいた。とんだお涙頂戴劇を他人に話してしまった。


でも、陽葵ちゃんには話して良かったと思った。心が軽くなった。


陽葵ちゃんは俺と視線が合うと辛そうな顔をしたけど、俺の顔をまっすぐに見て。


「しぇ、先輩…偉か」


「そんな大したことじゃないよ。つまんない理由だよ」


「……


陽葵も家族から浮いとって…陽葵だけ成績悪うて、家族ん中で邪魔者扱いしゃれて…でも陽葵には先輩んごたー勇気のうて


……」


陽葵ちゃんは自分の境遇を話してくれた。彼女も俺と同じだった。


優秀な姉達と比べられて、家族の中でネグレクトされて…俺と同じだ。


「やけんやて思うばい。陽葵がギャルなんかになったと…親に心配して欲しかけんギャルになっとーだけで、本当はただん甘ったれで…陽葵は恥ずかしか」


陽葵ちゃんは親に振り向いて欲しくてギャルになった。


でも、そんな彼女に、ご両親は何も言わなかった。


何も言わない家族が、陽葵ちゃんの心をさらに傷つけた。


「陽葵はいらん子なんや。お姉ちゃん達しゃえおりゃ、陽葵なんていてもおらんだっちゃおんなじなんや」


俺は言葉に詰まってしまった。


こんな身近に境遇を共感できる人がいるとは思わなかった。


「うち達、おんなじなんやなあ。ばり好きな人から無視しゃれて、おらん人んごて思われて…」


いや、俺と陽葵ちゃんは少し違う。俺の両親は無視しているという気持ちもないし、いない人という認識なんてない。


本当の他人のような家族。でも陽葵ちゃんの家族は俺の家族よりマシなんじゃないだろうか?


陽葵ちゃんがギャルになっても、それほどグレていないのは、陽葵ちゃんが思うより、ご両親は心配してくれたからじゃないのだろうか?


少なくとも、俺は両親を両親だなんて思わない。無視されても、いない人と思われても何とも思わない。


俺自身が両親を心から完全に消してしまっているから…


陽葵ちゃんは両親とやり直すことができるかもしれない。


そんなことを想っていると、突然!


『ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ!!』


突然、俺のスマホのアラームが鳴った。いけね、時間だ!


「ちょっと、ごめん。陽葵ちゃん。仕事なんだ」


「仕事?」


「ああ、すぐに済むから!」


俺は焦った。俺の今の仕事…それは…web小説家。


俺は国語で100点取った時から、心の中から両親を消した。


代わりにweb小説を読むようになった。そして、いつしか自分でも書くようになった。


小説投稿サイト『なんでだろう』で、


高校生になって、アルバイト三昧だった。お金もなく、将来の為のお金を貯めるのに、切り詰めた生活をしていた。


でも、そんなお金に余裕のない俺にとって、小説を書くのが唯一の娯楽だった。


楽しく毎日寝る間も惜しんで書いた作品群、もちろん、最初から読まれた訳じゃない。


少しずつ成長して、そして遂に、一通のメールがサイト内に来た。PCのメールにも。


俺のweb小説は高校1年生の終わりに書籍になった。そして、もちろんコミカライズも。


俺の今のアルバイトは小説家なんだ。


最新話の投稿を終えると、陽葵ちゃんが信じられないものを見るような目で俺を見た。


「う、嘘…先輩が神作者ん『しいくがかり様』やったなんて!」


えっ? 俺、そんな有名? それとも、偶然にも俺のファン?


陽葵ちゃんはあわあわとするが、投稿の時間は夜の19:14だ。


いくらなんでも、こんな時間まで女の子が男の部屋にいていい筈がない。


俺は陽葵ちゃんを送って行った。


陽葵ちゃんはしきりに途中まででいいと言っていたけど、そうはいかない。


陽葵ちゃんはとっても可愛いんだ。襲われたら大変だ。


そして、送って行った彼女の家を見て、びっくりした。豪邸だったんだ。


陽葵ちゃんはとんでも金持ちの子だった。


彼女は別れ際にこう言った。


「先輩んこと、応援しゃしぇてくれん。陽葵にもしきること位ある!」


そういうと素敵な笑顔で笑った。


そうして、あくる日が来た。


いつものように……俺は足を掛けられて転んでいた。


「なぁ、樹? 俺は喉が渇いたんだけど、ジュース買ってきてくれねぇかな? 買ってくるよな? 普通? もちろんお前の金で、当然だよな!」


「なんで、俺がお前のジュースなんて買ってこなきゃいけないんだ!」


俺は腹が据えかねた。足をかけられたり、無視は日常茶飯事だ。


だけど、これはパシリというよりただのイジメだろう。


「なあ! お前、いつからそんなに偉そうになったんだぁ! 一年生の女の子と仲良くなったからか?」


「俺が誰と仲良くしようが、お前には関係ないだろ!」


「ぎゃはははっ、こいつ! 生意気にも反発してやがる! 受ける!」


こいつらぁ! そんな時。


「先輩になんてこと言うんですか? 恥ずかしくないんですか!」


そこに現れたのは陽葵ちゃんだった。でも、俺が良く知っている陽葵ちゃんじゃなかった。


陽葵ちゃんは制服もきちんと着て、優等生みたいな…そう、清楚な感じになっていた。


「君、一年の樹に誘惑されている女の子か? 悪いことは言わない! こんなヤツに近づくな! 絶対乱暴されるぞ!」


「陽葵は先輩に乱暴なんてしゃるーとは思えん!」


「お前、知らないのか? こいつ、3か月前に同級生を襲ったんだぞ!」


俺の悪い噂。既に噂は確定事項としてこいつらの中に定着している。


でも、根拠なんてほとんどない。なのに誰も信じてくれなくて!!


「先輩ん無実は絶対晴らす! 陽葵が先輩ば助くる!」


陽葵ちゃんがみなの前で宣言するが。


「あ〜あ、この子可哀想に、もう樹に犯られちゃったんだな。本気で信じているぜ! そんな格好して、どうせ樹の好みなだろうけど、馬鹿だなぁ! やっぱりギャルはオツムのネジがゆるいらしい」


「それに股もゆるいみたいだなぁ!」


不快だ! 陽葵ちゃんのオツムがゆるいだと? 股がゆるいだと?


陽葵ちゃんはそんな子じゃない。優しくて、人を見る目があるとてもいい子だ。


それなのに!


気がつくと、俺は拳を握りしめてフルフルと震えていた。


「だめばい! 先輩! 暴力なんて振るうたら、コイツらと同じ次元ん人間になる」


「なんだよ? まるで、俺たちの方が悪いヤツみたいな言い方して。どうせ、このクズ野郎に言いようにされて、捨てられるのに、馬鹿なお前の事が心配で言ってやっているんだぜ」


悔しい。俺のことはいい。でも、陽葵ちゃんのことを馬鹿扱いするなんて!


俺とかかわったばかりに、こんな嘲りを受けるなんて!!


それに対して何もできない自分が不甲斐なくて!!!


「不満なようだな? じゃあ、証明してやろうか? コイツがやったことを?」


「どこに証拠があると? ただん先輩へん邪推やなかと?」


俺は嫌な予感がした。俺があの事件の犯人と結論付けられた理由、それは。


「なあ、日吉? お前、樹に何されたんだ? あの日?」


突然、クラスメイトの一人が、隅の方に座っている、一人の女子に近づいて、声をかけた。


「や、止めてぇ! あのことを思い出させないでぇ!」


その子は同じクラスメイトの女子、日吉、ミドルボブの可愛い子だ。


だけど、3ヶ月前の、とあることをきっかけに、俺は彼女を乱暴したことになっている。


日吉は自分の身体を抱きしめると、震えながら話した。


「もう止めて。あのことはもう思い出したくないの!」


震える声で涙声で訴える日吉。ほとんど何の証拠もないのに、俺があの事件の犯人にされてしまったのが、彼女のこの態度だ。


「ああ! 本当に腹が立つ!」


「お前、よくあんなことして、平気で学校に来れるなぁ?」


「日吉が恥ずかしくて、訴えられないからって言って、よくそんなに平気でいれるもんだ」


「俺、お前だけは許せねぇ!」


流れはいつもの流れになってしまった。


日吉がなんでこんな演技をするのかはわからない。


でも、この演技のおかげで、俺の性犯罪がほぼ確定事項にされてしまっている。


俺は陽葵ちゃんを見た。彼女も日吉の姿を見て、心が変わるだろうか?


そうやって、何人も俺のそばから友達が消えて行った。


幼馴染の花蓮もそうだった。でも、陽葵ちゃんの口から出てきたのは。


「馬鹿やなかと? 今んに一体、どこしゃぃ証拠能力があると? あんた達、きちんとした証拠も無う、先輩ば噂ん犯人に仕立て上げとったんと?」


「はぁ!? お前、じゃ、日吉が嘘を言っているってのか?」


「日吉さんな先輩に乱暴されたなんて一言も言うとらんなあ? それにそげんことがあったんなら、訴えるまでものう、学校になんて平気で来るー訳なかねぇ?」


陽葵ちゃんはなおも、俺を庇ってくれた。でも。


「陽葵ちゃん、もういいよ。俺は陽葵ちゃんが信じてくれればそれでいいんだ。それに、これ以上は日吉を傷つけるよ。理由は判らないけど、日吉に何かあったのは事実みたいだ」


俺は陽葵ちゃんが俺と同じように学校の嫌われ者になってしまわないか心配した。


それに、日吉が何故あんなことを言うのかはわからない。


でも、何か心の傷が残るようなことがあったのは間違いないと思う。


「はぁ、可哀想に、こんなクズをすっかり信じて、まあ、お前もクズってことだな」


『なぁ、樹? 俺は喉が渇いたんだけど、ジュース買ってきてくれねぇかな? 買ってくるよな? 普通? もちろんお前の金で、当然だよな!』


『なんで、俺がお前のジュースなんて買ってこなきゃいけないんだ!』


突然、さっきクラスメイトが俺をいじめていた言葉が陽葵ちゃんのスマホから、流れてきた。


「どっちかクズと? クズって、あんた達ん方やなかと? これ、客観的に聞いて、どう思う? クズはあんた達! 先輩ん無実は絶対に私が晴らす!」


陽葵ちゃんの迫力にみな、気後れしたのか、みな無言になる。


「チッ! すっかり後輩をたらしこみやがって!」


「今日から、樹への無視、マックスな」


「……クズ」


陽葵ちゃんは一言そう言うと、授業開始のチャイムが鳴ったので、自分の教室に帰って行った。


陽葵ちゃんが帰ったあと、激しい無言の圧を感じた。


俺に対するクラスメイトの怒気だろう。


今更気にしない。俺は無実だ。ただ、それだけが俺の心の支えになっていた、だが授業が終わって。


「なあ、後輩たらしこんで、いい気になってんじゃねえぞ! 女にモテるのかなんだか知らないが、いつまでもデカい顔するなよな。お前、日吉に乱暴したんだろ? よく、しゃあしゃあと学校に来れるな? お前の無神経、マジで引くわ!」


「ぎゃはははっ、いえてら! ホント、コイツの神経おかしいぜ!」


放課後にクラスメイトたちにやじられる。


カッとなり、激しい憤りに頭に血が上る。俺は何もしていない、本当なんだ!


何処に証拠があるんだ? あったら、そもそもあの時、警察に捕まってるだろ?


負の感情が込み上げて、怒りのあまり耳が熱くなった。


その時、突然教室のドアが開いた。


「駄目ぇ! 先輩、我慢して! お願いだけん、もうちいとだけ我慢して!」


危うく暴力を振るいそうになった俺を止めてくれたのは陽葵ちゃんだった。


危なかった。最初からこれが目的だったんだ。俺を挑発して、暴力沙汰にして…


まわりを見ると、他のクラスメイト達も、いつもの嘲笑を浮かべて俺を見ていた。


でも、こんな生活がいつまで続くんだ? もう陽葵ちゃんがいなかったら、1日だってもたない。


だが、更に教室のドアを突然開けて大声で入ってきた人物がいた。


「ええっ?」


俺はドアをバシャンと突然開け放ち、入って来た人物を見て驚いた。何故なら彼女は!!


「しいくがかり先生! いえ、海老名先生! 大変です! 先生の作品がとうとうアニメ化されることになりました! 至急、うちの会社に来て下さい!」


彼女は俺の編集担当辻堂さん。


かなり美人のやり手編集者。俺の作品を書籍化へと見出してくれたのは彼女だ。


「アニメ化? しいくがかり先生? それって、まさか今人気のラノベの?」


「うそ、私、ファンだったのに!!」


だが、教室に大声をあげながらドアを開け放ち更に三人目が来た。


「みな大変だ! 海老名君は無実だぁ!」


三人目は担任の関内先生だった。


突然乱入して来た二人の大人と陽葵ちゃんは、手短に話しあうと、順に説明をしてくれた。


先ずは担当の関内先生からだった。


「知っての通り、このクラスの日吉さんが3か月前に下校中に襲われた。その時近くにいた海老名君が疑われて、何処にも証拠はなかったが、真実がわかった」


「…し、真実って…海老名が犯人じゃなきゃ一体?」


「い、今更そんなの嘘だろ?」


クラス中がざわつく。そして、陽葵ちゃんが話し始める。


「3年生の綱島悠人が逮捕されたの。あの人は犯罪者よ! あの人は女子生徒ば使って、男子生徒ばたぶらかして、現場ば抑えてお金ば要求しゅる脅迫行為ば行っとったの。日吉凛しゃん。あなたは彼の恋人ばいね? あの人の片棒ばかついでいたったいよね? 現場ば見られたと思って先輩ば嵌めたったいよね?」


「黙って聞いていたら……なに調子こいてんの! このクズ! クソビッチ!」


突然豹変した日吉さんにもう薄幸の少女の面影はない。


そこには醜悪に豹変した女がついに本性を現して、陽葵ちゃんを罵倒していた。


「とうとう正体ば現したったいね? 陽葵、約束は守る主義なの。先輩の無実は証明できた。あなた終わりよ。もうじき警察が来るわ。あなたば逮捕しゅるためにね。あなた達のやっとったこつは犯罪よ!」


「五月蠅い! 海老名の無実晴らすとか、マジでキモチワルイんだけど!」


正体を現した日吉の醜悪な姿にクラスメイトに動揺が走る。


「それと、こりゃ言うとくわ。あんたん他にも逮捕しゃるー女子生徒がおるわ。他に三人ほどね。……あんた、ましゃか自分が本命やったなんて思うとらんばいね?」


「う、嘘よ! 嘘よ! このクソビッチ!」


陽葵ちゃんの告発が間違いない事実だと言うことを知って、クラス中が氷つく。


だが、彼らもまた氷つくことになる。


「あんた達、こん人ん心配しとー暇なんてあるかしら? 今すぐスマホで検索してみたら? #しいくがかりしぇんしぇー イジメって入れんしゃい」


「ええっ!?」


「わ、私の顔がネットに晒されてる!!」


「顔どころじゃないぞ! 実名と住所まで!」


「嘘でしょ? なんでこんなことに?」


俺も理解が追い付かない。


「簡単ばい。昨日からSNSに『#しいくがかりしぇんしぇーがいじめられとる』って書き込みしといたと、先輩ん顔写真ば添付しんしゃい♪」


えっ!? 俺の顔、全国っていうか、全世界に晒したの?


「ネットん正義ば気取る人たちがたちまち、あんた達ん悪事ば暴いたんばい。綱島先輩とそこん馬鹿な日吉しゃんの悪事もね」


クラスメイト達がみな阿鼻叫喚の地獄へとたたき込まれる。


「こんこつは『拡散希望』てタグつけておいたから、一生消しぇない傷になるね。就職にも影響しゅるかもね」


ちょっと、陽葵ちゃんが怖くなった。


でも、陽葵ちゃんがこっそりと俺に耳打ちをしてくれた。


『すらごとばい(嘘ですよ)。ホントはお父しゃんに頼んで探偵に調べてもろうて、こん辺にだけ偽SNS情報流しといたんばい♪』


陽葵ちゃんはやっぱり優しかった。俺はちょっと安心した。


『こん人達だって、これ位の罰ば受ける必要あるとよよね?』


『そうだな!!』


俺はこの可愛い後輩が天使のように見えた。だけど、この辺だけ偽SNS情報流すって、いくらお金がかかるんだろう? 陽葵ちゃん、とんでもお金持ちみたいだけど。


そして、今日はなんて訪問者が多い教室なんだろう。何故か俺の毒親まで来た。


「い、樹! お、お前の書いた小説がまぐれでアニメ化されるんだってな! 社長がうちの会社でも、他の作品を映画化したいって言いだして、お前に頼んで来いって言われてな。喜べ、大手のうちがお前の作品を映画化してやるぞ!」


「樹、あなたにしては良くやったわ! 今、うちにはお金が必要なの! 蓮の予備校代が足らなくて! あの子が有名私学に入れなかったら大変なのよ! だから、お父さんの言う通りにして、そうしたら、お父さん、出世して特別ボーナスも出るのよ!」


俺はあまりのいいように呆れてしまった。


それに兄は中学の頃から成績が落ちていたけど……


子供の頃神童、今は凡人という訳か……でも、親の愛情は今も変わらないんだな。


ご愁傷さま。この親に拘わっていたら、まともな人間になんてなれない。


断るしかないよな。


「お待ち下さい。先生のご両親方、わたくしは先生の編集担当で辻堂と申します。先生はあなた方との取り決めを既になされています」


「他人のあなたが一体何を言っているんだ? たかが編集風情が何を?」


俺の親ってホントに馬鹿だな。俺の担当がただの編集な訳がないだろうに。


「わたくしはマルカワ出版の編集長、辻堂と申します。先生はこんな場合に備えて、あなた方が先生の地位と名誉を利用しようとしたら、親権を取り上げるよう決断されています」


「一体何を?」


この人たちは自分が俺に何をしてきていたのか、覚えていないんだろうか?


「あなた方のやったことは親としてネグレクト行為です。高校生をなんの支援もなく独立させて、見守ることもしないで! それだけではありません。小学生、中学生の頃の裏もとってあります。あなた方が先生の力を利用しようとするなら、親権を取り上げます!」


俺は自分の作品の売り上げが上がるにつれて、自分の親が後更、すり寄ってくるのが予想できた。


だから、編集長の辻堂さんに頼んでおいた。彼女にも利益はもちろんある。


「私達が親じゃないなら、誰が樹の親になるんだ?」


「そうです。樹は私が生んだ子なんですよ!!」


何が親だ。全部、兄の蓮の為に僕を利用して金が欲しいだけだろう。


「親権はマルカワ出版、つまりわが社の社長がなります。集鈍社の一担当の海老名さんじゃ身に余ることです」


父親はぽかんとした顔をしていた。マルカワ出版と集鈍社はライバル会社同士だ。


「そ、そんなことになったら、私はクビになってしまう!」


「れ、蓮が大学に進学できなくなる!!」


はは、いいよね、こんな親、見捨てても、バチ当たらないよね。


そして、視線を移すと、座り込んで、涙を流す、かつての彼女……幼馴染の花蓮が目に入った。


「い、樹、私、本当はあなたが無実だってわかっていたの! でも、あんな空気だったから……」


「陽葵ちゃんは信じてくれた。お前は17年も拘ってきた幼馴染が無実だと知っていて、突き放したのか?」


「ち、違う!? だって、あんな状態で、仕方がないじゃない!!」


「何言ってるんだ!? それにお前、俺を振って、綱島先輩に…綱島先輩?」


俺は一瞬、幼馴染が俺を振って、新しく付き合い始めた彼氏の名前を思い出した。


「例ん捕まった3年生ん犯罪者ばい。先輩!!」


俺はなるほどと得心が言った。


今更俺に心を戻すなんて花蓮らしくない。俺の幼馴染は性格が悪い上、かなり馬鹿だ。


綱島という奴に騙されて、今更俺に心が戻ったという訳か……


こいつらしい、昔から小狡い女だった。


そこも含めて好きだったけど、よく考えたら、今となっては負担としか思えない。


それに、俺はもう陽葵ちゃんに惹かれている。


花蓮とヨリを戻す気なんて毛頭ない。絶対に、ね。


「花蓮、どんな理由がろうと、お前、俺を振ったんだろ? 今更ヨリを戻せるなんて思わないでくれ。それに、みんなに俺が振られて泣いているところを撮影して、学校中の奴にばら撒いたんだろ? そんな目に会って、今更許せるか?」


「そ、そんな、あれは綱島先輩が……」


「なら、綱島先輩に添い遂げろよ、好きなんだろ? 俺よりも?」


「ち、違う、ただ、私、綱島先輩に言い寄られていい気になっちゃって!!」


理由にならんだろう……


「もう、俺たちはとっくにさよならをしたんだ。さよなら、花蓮」


「そ、そんな!? わ、私、綱島先輩に初めてまで捧げさせられたのに!! なんでこんな目に!」


耳障りな声が不快だけど、あまり心は動かない。


俺がついていないとまともに生きていけないと思っていたけど、あながち俺の思い上がりでもなかったな。


どっちにしても、花蓮に幸せなんて来ないだろう。


こいつを幸せにしようだなんて言う奇特なヤツがいるとは思えない。


「じゃあ、話は済んだようなので、しいくがかり先生、我が社に来て頂けますか?」


「あの、陽葵ちゃんも連れて行っていいですか?」


「もちろんいいですよ。先生の恋人さんですよね?」


「ええ!? 私の事! 彼女だなんて! あわわわわわわっわわ!? そげな急に、こ、告白ばいか? そ、そげなに急に駄目ばい! もう、き、今日ん夜も一緒に過ごそうやなんてイケなかよぉ!! 未や早かよぉ!? ちょっと待って、先輩! 落ち着いてくれん!」


「そ、そんな!! 樹の彼女は私よー!!」


花蓮の叫びが聞こえるが、俺も陽葵ちゃんも辻堂さんも興味がない。


そして、俺は辻堂さんの用意してくれたハイヤーで、マルカワ出版の本社ビルに向かった。


泣き崩れる花蓮や両親を残して……




幼馴染の花蓮が失ったものも、両親が失ったものも、それはとんでもなく大きなモノだったということ、今更もう遅い…これはそんな話。

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クラスで最低と蔑まれた上、幼馴染に振られたけど、後輩を助けたら、超グイグイ来た~俺が無実な上、実はweb小説の神作者だとわかってももう遅い~ 島風 @lafite

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