第12話 なんだよこれ?
目が覚める。
視界に映るのは見知った天井。
そして隣には、すやすや可愛らしい寝息を立てている兎月。何も身につけていない生まれたままの姿。昨日のあれは夢ではなかったのだ。
兄妹で愛し合ってしまうなど、倫理に反することなのだろう。けど、もともと兎月と俺に血のつながりはない。子供ができたとしても遺伝病にはかからない。
そこに何が問題があるのだろうか?
隣の妹を起こさないようにベッドから出ると、脱ぎ捨てられて床に落ちた部屋着を羽織る。
妹との関係を維持するためにも、俺はもうゲームなんかに夢中になってはダメだ。ましてや、兎月の代わりとして作り上げたアメリアとは会うべきでない。
ただのゲームなのに『会う』というのもおかしいのかもしれない。ヴァーチャルな世界に浸りすぎて、感覚が狂ってきているのだろう。
【HP:1247 MP:523】
ふと視界にステータス画面が過ぎる。
「?」
よく見れば、それは兎月がARで飼っているドラゴンだった。たしか名前は『イーディス』だったか。
【HP:3452 MP:4325】
「ん? 急にステータスが上がったのか?」
俺は浮かび上がったステータスを凝視する。が、数値が徐々に上がっていく気配はない。
見間違えか? そんなことを思いながら視線を移動しようとすると、再び先ほどの数値が見える。
【HP:1247 MP:523】
目を擦ることに意味はないのだろうけど、寝ぼけて何か見間違いをしたのではないかと思ってしまう。
俺はその表示に触れる。VRゲームであれば、動かない相手の表示に触れれば詳細が見えるはずだ。
**************
イーディス
種族:ドラゴン
生後166日
HP:1247
MP:523
SP:253
EP:337
スキル
ドラゴンブレス
*******************
「そういえば兎月とAR情報を共有したんだっけな」
よく見れば兎月の隣でスヤスヤと寝ているドラゴンの姿が確認できた。
ただのペットシミュレーターのキャラなんだけど、AIのおかげで現実の犬や猫より賢いという噂も聞く。
昨日の俺たちの行為をこいつに見られていたとなると、少し恥ずかしい気もするが、まあ、喋れるわけじゃないのだから……。
【HP:3452 MP:4325】
再びあのステータスが視界を過ぎる。
「あれ? イーディスのステータスは開いているはずなのだが
**************
イーディス
種族:ドラゴン
生後166日
HP:1247
MP:523
SP:253
EP:337
スキル
ドラゴンブレス
*******************
と、ドラゴンの方を見るときちんと開かれたステータスが映る。
「ちょっと待て。じゃあ、このもう一つのステータスって、なんだよ?」
俺は恐る恐るその表示に触れる。そして開かれたのは――。
**************
前島兎月
種族:人間
作成から1067日目
*******************
思考が停止する。
「……」
深呼吸をして、もう一度視線を向けた。
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前島兎月
種族:人間
作成から1067日目
HP:3452
MP:4325
SP:559
EP:634
スキル
妹擬態
ツンデレ擬態
誘惑(小)
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なんだよこれ?
「いやいやいや……よく考えてみればジョークアプリだよな。ARの視覚情報に入り込んで、現実世界をゲームのように表示するアプリ。たしか、数年前に流行ったような気が……。
そもそもスキル欄がふざけすぎている。動揺した俺が馬鹿だったか。
「まったく、こんなことで俺を驚かそうなんて……まあ、かわいいイタズラでもあるかな」
俺は兎月の寝顔を見ながらそう溢した。
だが、異変は続いていく。
【emergency】
何もない空間に現れる赤色の警告メッセージ。それはまるでVRゲームのポップアップメッセージのようでもあった。
【emergency】
【emergency】
点滅しながら何か危険が迫っていることを警告する。
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
【emergency】
「おい! 今度はなんだ?」
またジョークアプリの類か?
そう思っていると、警告アラートのようなけたたましい音と次のメッセージが耳に聞こえてくる。
『生命の危険が生じます。緊急ログアウトプログラムを実行中』
日本語だけではなく、ありとあらゆる言語でそれは告げられた。
ジョークアプリだと思っていただけに、言いしれぬ不安が押し寄せてくる。それは本当に生命危機が迫っているかのように。
「......んだよ、意味が分かんねえ」
そうして俺の意識はブラックアウトした。
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