第4話 「なんだ……と?」
「な、なんで攻撃してくるんですか?」
ちょいとばかり情けない顔をして、何も知らない初心者を装う。こういう演技力だけはあるんだよな。俺。
現実世界じゃ役者にでもならない限り無駄なスキルではあるが。
「オレ、魔法使いは嫌いなんだよ」
「?」
訳がわからない理由だった。そんな個人的な感覚で他人を攻撃するのか。
「ここはPvPエリアだぜ。まあ、所詮遊びだからな、すぐには殺さないぜ。せいぜい足掻くんだな」
「や、やめてください」
ポーションで回復をすると、相手に背中を向けてすぐに逃げ出す。ちょっとわざとらしい演技かな?
「待てよ。遊びはこれからだぜ」
再び短剣の攻撃が当たる。右手に激痛が走った。こういう部分でもリアルなのがVRMMOの醍醐味でもある。
「痛!」
「ほらほら、無様に足掻けよ!」
俺に回復薬を使わせる余裕を与えながら、回復と同時に攻撃してくる。相当のサドだな、こいつ。
「やめてください……」
相手に隙をつくらせるために、あえて情けない演技を続ける。
ラインハルトがクエストにあった『初心者狩り』であることは確定だ。
とはいえ疑問が残る。
奴はどこかの都市国家所属の工作員なのだろうか?
単独行動というのも気になるし、初心者への嫌がらせといっても、こんなことを初心者に行ったらゲーム自体に嫌悪感を覚えやめてしまう。自分の都市へと勧誘することもできないのではないか?
いや……工作員でないのなら、なんとなく予想は付く。
たぶん彼は、自分の趣味で初心者狩りをしているのだ。圧倒的な力の差で相手を屈服させ、そして彼自身のサディスティックな欲求を満足させる。
時間にして約30分ほどだが、ラインハルトは俺を即死させない程度の攻撃でいたぶり続けた。そうして、ようやく彼の欲望が満足されたのだろうか、武器をロングソードへと変更してその切っ先をこちらに向ける。
「あはははは、弱い奴をいたぶるのはやめらないわ。けど、用事があって、そろそろオレもログアウトしないといけないんだった」
「……」
「君が魔法使いを志望するならまた会えるだろう。その時は、また遊んであげるから」
初心者にこんなことをしたら、もうログインなんてしないだろう。気概のあるプレイヤーだとしても、魔法スキルをあげようなんて思わないだろう。
どちらにせよ、こいつのやっていることはゲーム全体のバランスを崩しかねない。物理攻撃にユーザーが偏れば、イベントをこなせないユーザーが続出する。
運営から見ても、ユーザーから見ても害悪でしかない。
「最後だ!」
彼の手加減なしの斬撃が繰り出されようとしていた。このまま動かなければ即死は確定。だが、そもそも俺は初心者ではない。
見切りスキルで、彼の攻撃を避け後方に退いてポーションで体力を回復する。
「おいおい、人が気持ち良く終わらせようとしているのに、まだ足掻くのか? これだから素人は」
俺の見切りスキルには気付いていないようだ。避けたのは偶然と思ったのだろう。
さらに彼は切りつけてくる。しかし、当たらない。いや、当てさせないのだ。
「避けてるんじゃねーよ!」
攻撃が当たらないことに、彼はいらついてくる。
「おかしいだろ! なんで避けるんだよ!」
そんな彼をさらにいらつかせるように、魔法攻撃を彼の頭へと当てる。もちろん、最弱のファイアボールなのでダメージは少ない。
「あぢぃ! なにしてくれんだよ。初心者のくせに」
怒りに任せて剣を振るので、だんだんと命中精度が悪くなってくる。見切りのスキルを使わなくても、余裕で躱せるようになってきた。
さて、あとはどうやってこいつを拘束するかだ。
圧倒的な力でねじ伏せて『負けを認めさせ』、強制ログアウトに持っていくのは楽だが、それでは少し面白くない。
それと、ラインハルトがソロプレイヤーであるのなら、どこかにサポートキャラがいるはずだ。
『アメリア。奴のサポートキャラは見つかったか?』
俺は隠密行動をさせていた彼女と秘匿通話を行う。
『はい。とっくに照準に捉えていますよ。マスターのご指示があれば、一撃で機能停止できる状況にあります』
「わかった。やれ!」
『らじゃです!』
その通信の直後、俺を攻撃していたラインハルトが驚いたように硬直する。
「おい……なんで『シャルロット』がやられてるんだよ。この辺りに他プレイヤーもモンスターもいなかったはずだぞ」
たぶん、俺が逃げられないようにどこかに配置していたのだろう。立場が逆転したなら、彼はサポートキャラを利用して逃げる可能性もある。だから排除しただけ。
『マスター終わりました』
「じゃあ、次のオーダーだ。パラライズアローをラインハルトの背中に撃ち込んでやれ」
『いっきまーす』
その通信とともに、ラインハルトの背中を一本の矢が攻撃する。
「なんだ……と?」
その場に膝から崩れ落ちて倒れるラインハルト。パラライズアローは、死ぬまで全身を麻痺させて動けなくす毒の矢だ。じわじわとHPを削っていく。
「形勢逆転だな」
俺は涼しい顔で立ち上がると、とっておきのポーションを倒れたラインハルトへと振りかける。
「!?」
攻撃相手に体力回復系のポーションをかけたのだ。何が起きたのかわからないだろう。彼は不思議な顔を俺に向ける。
ここからは俺の意地の悪い報復だ。ただし、相手のこの後の行動すら先読みして仕掛けていく。
まあ、最優先はクエストだけどな。
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