第3話「メテオはロマンですよ」
「なあ、おまえ、このゲームのシステムを知っているか?
「はい?」
目的地までの道中、ラインハルトがそんなことを聞いてきた。
「魔法使いって、よほどの熟練じゃないとパーティーのお荷物になるんだよ」
そんな話はあまり聞かない。むしろ、魔法スキルが使える者は重宝される。まあ、たしかに魔法特化で魔法スキルしか使えないユーザーってのは稀ではあるが。
「どうしてですか?」
「魔法を使うには詠唱が必要だ。その間は無防備になる。仲間に守られなきゃ使いものにならないんだよ」
だからこそ、サブスキルで身を守れるための最低限のものを伸ばしていく。回避スキルだったり、カウンタースキルだったりと。それを言ってもしょうがないので、初心者らしい返答をしておこう。l
「でも、メテオとかサンダーストームとか、大勢の敵をなぎ倒せて一気に形勢逆転できるじゃないですか」
これは演技での返答。初心者っぽいだろ。
「おまえ、メテオの魔法が使えるために火属性の魔法スキルをどれだけ上げればいいか知っているか? 200ポイントだぞ、最短でも1000時間以上はかかるんだぞ。それまで、ずっと仲間の足を引っ張るつもりか?」
相手の苛ついた感情が伝わってくる。
「でも、メテオはロマンですよ。ボク、このゲームの広告動画でメテオを使っている魔法使いを見て始めたんですから」
嘘は言ってない。派手な広告はこのゲームに限らず多いだろう。
「ちっ! これだから素人は」
「え? なんですか?」
「魔法使いはやめておけ、物理特化にしたほうがいいぞ。その方が有利にゲームを進められる」
低レベルなら物理攻撃の方が敵を倒しやすいというのは本当のところだ。
だが、高レベルになればなるほど、物理攻撃の通らない敵が出てくる。その場合は、魔法スキルを育てておいた方が有利なのだ。
だから、彼のアドバイスは的外れでもある。
「はぁ、そうなんですか」
とりあえず口答えはしない。単なる勘違いしたまま高レベルになったのかもしれないのだから。
それに仲間と共にレイドでボス討伐しないのなら、物理防御の高い敵に当たったこともないのだろう。
「あと少しでロキの森に付く」
ラインハルトがそう呟いた。狩り場までは、もうすぐだということだろう。
ただし、今通っているここがPvPエリアだということは教えてくれない。わざとなのか、それとも何か企んでいるのかはわからない。
その時、ふいにモンスターが現れる。
コボルトだった。犬の顔に人間の体を持っているのが特長である。素早くてHPも高いので初心者には厳しい敵だ。
「モンスターが出たぞ。俺がヘイトで引きつけるから、おまえが倒してみろ」
まあ、引きつけてくれるならレベル上げにはもってこいだろう。
「はい。わかりました」
レベル下げの薬を飲んでいるのもあるが、俺は魔法系統にスキル値をほとんど振っていない。なので魔法攻撃力自体はかなり低く、一人で倒すにはかなり苦労するだろう。
なるべくダメージ力のあがるヘッドショットを狙い、それでも基本魔法であるファイアーボールを数十発は打った。
すぐに足りなくなる魔力は、MPを下げているので仕方ない。初心者なら『よくあること』なのだからと、回復しながら攻撃を行っていた。
「だらだらとおせーな。たかがコボルトを倒すのに、いつまでかかってんだよ!」
ラインハルトがこちらを振り返り、怒号を飛ばす。表情は歪み、不機嫌さを隠す気もないようだ。
「えっと、まだ初心者なので攻撃力も弱いし魔力も足らなくて」
「あー、やめだやめだ! めんどくせー」
彼はそう言うと、目の前のコボルトを剣の一撃で倒してしまう。このゲームはトドメを刺したユーザーに多くの経験値が入る。それではこちらの方に経験値が入らない。ま、いいけどね。
「……」
「おまえみたいな奴には付き合ってられない。パーティーは解散だ」
『ラインハルトとのパーティーが強制解除されました』と、システムメッセージが届く。
なるほど、ここはPvPエリアだから、パーティを解除してしまえば、相手を簡単に攻撃できるということか?
何があってもいいように体勢を整える。とはいえ、それを相手に気取られるのもよくない。
「どういうことですか?」
わざとらしくならないように演技をする。
「へへへへ、俺と遊ぼうぜ」
ラインハルトはロングソードを短剣へと切り替える。そして、いきなり突進してきて俺に切りつけた。
二桁あったHPが一瞬で一桁になる。とはいえ、ロングソードで切りつけられていたら即死していただろう。念のため一撃で即死を防ぐアミュレットを持っていたが、それは発動しない程度の手加減攻撃だ。
ここまでは想定の範囲。
相手にわからないように口元を僅かに引き上げる。
俺を追い詰めているつもりだろうが『狩られる』のはおまえの方なんだよ!
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