第38話 朝CYUN!!

 勢いよくカーテンを開ける音でなんとなく目が覚めた。


 暴力的な太陽光が目に刺さる……

 目を背けようと横に姿勢を逸らすと至近距離に美奈の胸があった。


 寝ぼけながらその巨乳から見える谷間をぼんやりと眺めて俺は覚醒した。


「おはよう2人とも」


 美香が居た。

 寝癖にアホ毛、大きめなパジャマからは片方の肩が露出しており、いかにも俺たち同様に寝起き感満載の様子なのだが、とっても笑顔である。


 だが目は笑っていない。

 口角を釣り上げて目を細め、腕をくみ仁王立ちしている。


「まずは2人とも床に正座して座ろうか? 彼女持ちのお兄ちゃん♪おパンツ一丁ノーブラのお姉ちゃん♪」


 ……とてもいい目覚めだ。こんなにも脳内まで澄み渡る起き方をしたのはいつぶりか。


 気分は浮気現場を現行犯で捕まったかのような気分だ。


「「……はい」」


 今の美香に下手に言い訳を始めれば詰む。


「……おはようございます……」

「……お、おはよ、美香ちゃん」

「うむ。おはよう諸君」


 さっきから表情を変えずに佇む妹。

 こ、怖いです姉上……


 そんな姉上を横めで見ると、正座した膝辺りで両の手を握りしめて震えている。

 てか半泣きじゃないですか……

 22歳成人女性の怯えて半泣きとか初めて見たぞおい……


 まあ、かくいう俺も人生詰むかもしれない事態である。

 無実であり清廉潔白と言えど、この状況はまずい。

 はたから見たらどう見たって姉弟で朝チュンじゃんね……


「ではまずそこの牛娘、言い訳を聞こうか」


 中学生の妹に牛娘呼ばわりされている22歳の姉、しかし何も言えず。


「……さ、寂しかったので、みぃくんに抱き着いて寝ました……」

「で? ヤッたの?」

「……い、いえ……」

「酔い潰れて寝た時と服が違うよね牛娘さん? 一度お風呂に入るくらいに酔いは冷めてる上でお兄ちゃんの部屋に夜這いしたわけだ〜?」

「……お風呂には、入りました……でもみぃくんとは何も、してません……」


 美奈は怖すぎて床を向いたまま敬語で否定した。

 目を見れないですよね〜。

 怖いですもんね〜


「では続いて二股近親相姦疑惑少年くん、言い訳を聞こうか」


 なんていう疑惑なんだよ俺……


「……夜中に気がついたら、姉ちゃんが抱き着いて寝てました」

「で?」


 首元にナイフ向けられてるような殺気を妹から感じる……


 ハンマー×ハンマーのキメラ蟻んこ編のヴァルフィンはきっとこんな恐怖だったに違いない……


「……し、してません……」

「何を?」

「や、やましい事は、何もしてません……」

「ほんとに? 水望さんに誓って言える? 指詰める覚悟ある?」


 怖い怖い怖過ぎる……

 どこのヤーさんですかマジで。


「……誓います」


 俺は震えながら美香を見上げてそう言った。

 この言葉だけは目を逸らしては言えないだろう。


「まあ、2人が抱き合って寝てる写真は撮ってあるから、なにかあったら……ね?」

「「……はい」」


 そうして美香はいつものように笑った。


「はぁ私〜美味しいフレンチトースト食べたいなぁお姉ちゃん♪」

「はい。喜んで美香様の為に丹精込めてお作りさせて頂きます……」


 土下座してそう言った姉。

 床に額を擦りつけている。


「あぁ私、美味しい珈琲が飲みたいなぁお兄ちゃん♪」

「……秘蔵の豆を挽かせて頂きます……」


 俺も同じく、冤罪を回避する為に全力で土下座した。


 人生、たとえやましい事がなくとも、たとえ無実だとしても、たとえ清廉潔白だとしても、頭を下げなければいけない時はある。


 これが社会の厳しさなのである。


「うむ。苦しゅうない。表を上げよ」

「「ははぁ……」」



 ☆☆☆



「まあふっきゃへ、お姉ひゃんが……ごっくん。お姉ちゃんがお兄ちゃんの事を変態的に好きなのは知ってたけどね」


 妹様はフレンチトーストを咀嚼して話し出した。


「……まあ、酔う度に俺にくっついてくる訳だしな」

「……みぃくん成分を補充したくてですね……はぃ……」


 夜這いされ掛けた翌日にその発言はどうかと思うぞ、姉よ……


「いつかお姉ちゃんがやらかすと思ったからね」

「……ならこうなる前に止めてくれよ」

「寝てる間にとか無理ゲーでしょ?」

「まあ、それはそうだが……」


 美香は俺の入れた珈琲の香りを楽しんだ。

 ロイヤルコナコーヒーバニラマカダミアの珈琲。


 とっておきだったため、開封せずに置いておいたのだが、ここでまさかご機嫌取りの為に開封する羽目になるとは……


「とりあえずお姉ちゃんはお兄ちゃんに抱き着くの禁止ね」

「……み、みぃくん成分が……」


 この世の終わりみたいな顔するなよ……

 どんだけブラコンなんだよ……


「じゃあ貞操帯を毎晩付けて手錠で手足縛って眠るならいいよ?」

「……そ、添い寝……」

「ん? お姉ちゃん。私、よく聞こえなかったなぁ〜?」

「……ひっく……な、なんでもないです美香様……」


 中学生の妹がなぜ貞操帯なるものを知っているのか、俺は聞けなかった……


 なにがあったら中学生で貞操帯なんて知るんだよ……


 俺が知ったのなんて、ブーチョーブ動画で見た浮気された夫のスレ紹介で最近存在知ったぞ。


「あぁ私、チョコミントアイス食べたいなぁお姉ちゃん♪」

「……すぐにお持ち致します」


 とりあえず、平和は訪れそうだ。


「お兄ちゃん、コーヒーお代わり〜」

「……はい。ただいま」


 ニッコニコの妹に感謝した。

 そして同時に俺は昨日の夜の俺を心の中で褒め称えた。


「う〜ん! いい香り♪」


 もう、二度と修羅場はごめんだ。



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