第36話 酔いどれ
高橋親子との夕食会が終わった。
姉ちゃんと高橋ママンがひたすら喋り倒し、日付が変わる前の解散となった。
「吉村、またね。ありがと」
「おう」
お互いに家が近いからか、つい飲みすぎてしまったらしい。
俺はテーブルで寝そうな姉ちゃんを抱っこして寝室へ運んだ。
「お兄ちゃんおやすみ〜美香も寝る〜」
「おやすみ〜」
美香も高橋と喋り過ぎて疲れたのだろう。
めちゃくちゃ笑ってたし笑われた。
しかもしれっと俺と高橋のツーショット写メとか見せてもらってたし恥ずい。
プライバシーの侵害じゃない?
高橋がニコニコしながら見せてたから無理かぁ……
「風呂にでも入るか」
部屋に着替えを取りに行きながらスマホを見ると高橋からラインが来ていた。
★みなも★
『吉村、今日はありがとね(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ペコ』
吉村美緑
『こっちこそ。美香も美奈も楽しそうだったし』
★みなも★
『なんか家族団欒って感じの雰囲気でご飯食べたの久しぶりだったから楽しかった(^^)』
久しぶり、という単語が地雷臭い。
文面では触れにくそうなのでやんわりと方向修正しよう。
吉村美緑
『俺も普段はほとんど美香と2人で食べてたからな。美香も歳の近い高橋と喋れていつもより楽しそうだった』
★みなも★
『美奈さんいるのに?(´-ω-`)』
おそらく言いたいのは、ひとりっ子である高橋とは違い、実姉がいる美香なのに? という事だろう。
吉村美緑
『姉ちゃんは働いてるし、朝とか昼は夜勤明けで寝てるからな。実質姉ちゃんは母親みたいなポジションなんだよ』
方向修正できてないな。うん。
★みなも★
『美奈さん成人してるもんね』
吉村美緑
『酔っ払って寝てるが、成人してるぞ』
手のかかる姉である。
★みなも★
『酔ってる美奈さん、やっぱ色気凄かった(/ω\)』
吉村美緑
『俺から見たらただ酔い潰れてる姉でしかないが、そう見えるのか? 寝起きとかキャミソールにパンツ姿とかざらだぞ?』
★みなも★
『そ、そか……』
本人になぜそんな格好なのかと聞くと、寝る前はパジャマとか着て寝るのに起きたら下着姿らしい。
吉村美緑
『女子が多い家ってのはそんなもんなのかと思うようにしてるからいいけどな』
★みなも★
『ま、まあ、わたしも夏はそんな感じのラフな格好で寝るからね。ナイトブラにTシャツとか』
ナイトブラってなんだ?
なんか強そうだけど多分違うのはわかる。
ただ話が変な方向に行きそうなので、ここは撤退しよう。
吉村美緑
『あ、悪い。風呂空いたから入ってくるわ』
美香はとっくに寝ているから嘘になるが、これは仕方の無い事だ。許せ高橋。
★みなも★
『うん。わたしも寝るね。おやすみ吉村(^^)』
吉村美緑
『おう。おやすみ』
撤退スキルが異常に身に付いている自分が情けないなぁとか思いつつ風呂に入る。
「あ、LIVEのチケットの話聞いとけばよかった」
もうすぐ川崎たちバンドが出演するLIVEの日。
今回は通常価格で購入して見に行くと話していてチケットは高橋に抑えてもらっていたが、まだ受け取りなどはしていなかった。
「まあ、明日聞くか」
風呂から上がり、眠気を待つ為に小説を読んでいた。
読んでいる片隅で、さきほどのリビングでの賑やかな空気感を思い出していた。
みんな楽しそうだった。
美香が普段は学校でどんな顔をしているのか知らないが、高橋と話していて年相応な表情をするのだと知った。
いつもからかわれている事が多かった俺からすれば新鮮な感じがした。
姉ちゃんも高橋ママンとは相当仲が良さそうに見えた。
元々個人的な付き合いもあるわけだし、ウマが合うのだろう。
「……」
眠気に襲われて小説を閉じた。
そのまま心地よい眠気に目を瞑った。
☆☆☆
「…………ん…………?」
夜中に暑くて目が覚めた。
息苦しい。
誰かの体温と頭部近くから寝息が微かに聞こえてくる。
寝ぼけた頭を覚ましながら状況を把握した。
美奈の胸に埋もれている。
俺は美奈の抱き枕となっていた。
「……?」
なんで俺の部屋に美奈がいる?
寝ぼけて入り込んできたのか?
「……酒臭いわけじゃない」
時刻を見れば深夜3時過ぎ。
密着している美奈からはほんのりとシャンプーの匂いがする。
酔いが少し抜けて夜中に起きて風呂に入り、そのまま俺の部屋に来たのだろう。
顔に押し付けられている美奈の胸が暑い。
というかなんか、感触が肉々しい。
Tシャツ越しの突起が浮き出ている事に気付き、流石に慌てた。
Tシャツしか上は着ていない。
下はパンツは一応履いているらしい。
いつもはだいたいキャミソールだが、浮き出ている事は無い。
高橋との会話なども思い出し、至近距離の実姉の突起を意識せざるを得ない。
やんわり引き剥がし、それでも眠っているなら美奈の部屋に戻すしかない。
起こさないように腕をすり抜けてゆっくりと美奈の肩を押して拘束を解く。
「……ん…………みぃくん……」
薄目を開いた美奈と目が合った。
「一緒に……寝よ」
寝ぼけたままの美奈が再び俺に抱き着いてきた。
「……暑いんだが……」
「いいじゃん」
胸を押し付けようとするように抱き着いてくる美奈。
流石にこれ以上されたら色々と困る。
「……お願い……」
どこか切実なそのお願いが、生々しく聞こえた。
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