第34話 チクる妹

「お兄ちゃぁぁぁ〜ん」


 夏休みもいよいよ終盤。


 俺はベットに寝そべってゲームをしていると美香が半泣きで部屋に来た。


「どんくらい終わってないんだ〜」

「半分〜」

「美香、人生ってのは諦めが肝心って大人が言ってるぞ」

「お兄ちゃんはもう終わってるくせに」

「まあ、暇だったからな」


 所属している放送部の活動は夏休み合宿くらいだったし、後はゲームと宿題だけ。


 FPSゲームを萎えるまで終われまてんして萎えたら宿題。その繰り返し。


 ゲームは好きだが、化け物に出くわして秒で頭抜かれるとマジでやる気が失せる。

 殺られてムカついて更に挑もうとするやつはドM説称えるまである。


「お兄ちゃん手伝って〜」

「美香。宿題ってのはな、仕事と同じなんだよ。どうやって効率よくやって点数取るか。身にならなくてもいいんだ」

「お兄ちゃん、仮にも学生がそんなこと言っちゃったらダメだよ……」

「手伝うってもお前の分をやったりはしないぞ。めんどくさい」


 駄々をこねる美香を他所に、俺のスマホが短く震えた。


 高橋からだった。


 ★みなも★

『吉村〜数学教えてぇ(´TωT`)』


 高橋、数学苦戦してるのか。


「水望さんでしょ?! 熱烈ラブコールぅ」

「うるせぇ」


 そういえば、連絡先も知ってるって高橋言ってたな……。

 高橋の下の名前なんて教えてないのに。


「お兄ちゃん数学得意じゃん。教えてあげなよ」

「だな」

「美香より、水望さんを取るのね……お兄ちゃん」


 捨てられそうな悲劇の女感出すなよ。


「いやどっちだよ……」

「じゃあ水望さん呼べばいいじゃん。ここに!」


 私天才!! って顔するなら宿題終わらせてくれてると有難いんですがね?

 高橋はバイトとか忙しかったからしょうがないが。


「まあ、前に高橋の家で宿題一緒にやったし……お前のも見るついでにいいか」

「私……1番じゃなくてもいいから……」

「重い重い重い。めっさ怖いやつそれ。マジで止めてほんと」

「1番じゃなくてもいいからそばに居させてっていう女子ほんと怖いよねぇ〜」

「今お前が言ったんだよ」


 どっからそんなの覚えてくるんだよ……

 最近のドラマってえげつないな。

 ドロドロじゃねぇか。


「今から水望さん来るって〜」


 ツッコミしてる間に呼ばれた。

 こいつ、宿題はしないクセに行動力はあるんだよなぁ。

 その行動力を宿題という仕事に使えれば文句はないんだけどな。


 美香は高橋が来るという事でニコニコしながらお菓子やジュースなどの準備を始めた。

 いや宿題しろよ……


 高橋が来るまで少し時間が掛かるとの事で俺はゲームをして時間を潰した。


 暇を持て余してピストル縛りでプレイしていると呼び鈴が鳴った。

 美香のワントーン高い返事と笑い声が響く。


 なんか、最近ますます外堀うめられてるような気がする。


 俺もとりあえずお出迎えしようと部屋を出た。


「あ、吉村。お邪魔します」

「いらっしゃい」


 高橋と目が合った。

 大きいサイズのTシャツの襟からは片方の肩が見えており、インナーで黒のタンクトップを着ていた。


 下はホットパンツという、どこかストリート系を思わせる服装で、黒髪ロングはそのままに黒縁メガネを掛けていた。


 それなりにラフな格好にも見えるが、オシャレだと思った。

 というか可愛いですはい。


 個人的にメガネ掛けて来てるのが更によい。


 とりあえず部屋に入れて、美香が用意していたお菓子やジュースを持ってくる。


 高橋が若干そわそわしていたので座らせた。

 高橋さん、あんまりジロジロ見られるの恥ずかしいんですが……


「わたし、男の子の部屋に入るの初めて……」

「そ、そうか」


 なんて返事返していいかわからんな。


「水望さんてメガネ掛けてるんですね〜。バイト先でお会いする時はいつも掛けてなかったから新鮮です〜」

「あ、うん。そうなの〜。バイトとか学校の時はコンタクトなんだけどね」

「お兄ちゃんメガネ女子好きなので喜びますよ〜」

「え、そうなの吉村?……い、言ってくれればよかったのに」


 美香、お兄ちゃんの性癖ばらすの止めてね?

 すっごい恥ずかしいから。


 あと高橋、女の子座りからのメガネ越しの上目遣いでもじもじしながら見つめてくるの止めて。

 直視できない……


「……とりあえず宿題。とくに美香。お前が1番まずい」


 強引に宿題に取り掛からせて場をしのごう。

 じゃないと絶対美香はやんないし、どんどん俺が恥ずかしくなってくばかりだ。


「とりあえずふたりとも数学からな。教える手間が省けるし、高橋がわかる内容なら高橋が美香を教える。という事で始め」


 まあ、高橋も数学は苦手とはいえ、美香は中学生。

 人に教えるには理解していないといけないからな。

 いい勉強になるだろう。


「水望さん。水望お義姉ちゃんって呼んでもいいですか?」

「うん! わたし、一人っ子だから兄妹とか姉妹って憧れてたの〜」


 ……美香、お前が呼んでいるのは義理のお姉ちゃんってニュアンスだろ。

 高橋は普通にお姉ちゃんって呼ばれたい願望あるっぽいから気付いてないけども。


 そうしてわいわいしながらも宿題は着々と進んでいく。


 俺は聞かれるまでは小説を読んで暇を潰していた。

 結局暇だな。


 まあ、美香も最初こそふざけていたが今はちゃんとやってるしスムーズに進んでくれて楽だ。


「吉村〜ここってどうしたらいいの?」

「……あー。ここな。ここも前に教えた公式でいけるぞ」

「……あ。ほんとだ。ありがと」


 頭痛に悩んでいるような顔から一点、ぱっと表情が明るくなる高橋。


「高橋、数学はバイトと同じだ。公式はパターンだ。いつもこの客はこのタバコだなぁとか、いつもこの人チョコミントアイス買うなぁとかパターン覚えるだけで楽になる。数字が違うだけでだいたい同じ。入店して秒でレジに来るやつは十中八九タバコ買いに来てるとかあるだろ」

「あるある〜。いつも夕刊買いに来るお客さんだぁとか」

「ありますよね〜。チョコミントアイス買うお兄ちゃんとか」

「うん。それは俺だな」


 言っとくが買いに行かせてるのはお前だぞ美香。


「てか吉村、バイトとかしてたっけ?」

「たまに単発バイトとかするくらいだ。出来るだけ楽して終わらせる為に効率重視で仕事してるからな」

「お兄ちゃん効率厨なとこあるよね」

「仕事はゲーム。そうやって自分に言い聞かせて嫌な仕事を進めれば誤魔化せるんだ。仕方ないだろ」


 働きたくない。だが世の中は働かなければいけない。

 世知辛いな。


「お兄ちゃん、やればできる子だもんね」

「吉村、一緒にコンビニバイトしよっ」

「……前向きに検討する方向で善処したいと思いますので持ち帰って今一度検討致しますはい」

「出た捻くれお兄ちゃんー」


 高橋と一緒に仕事するのは悪くはないと思うが、仕事が嫌なんだよなぁ。


 しかも最寄りのコンビニでなんかあったら今後使いづらくなる可能性もある。

 常連という立ち位置が丁度いい。


「あ、水望お義姉ちゃんは今日バイトですか?」

「今日はお休みだよ?」

「じゃあ今晩家でご飯食べてきませんか?!」

「お誘いは嬉しいんだけど、迷惑じゃない?」

「大丈夫です!! ね?! お兄ちゃん!!!!」


 美香、鼻息荒い。

 そんなに目をキラキラ輝かせるなよ。


「じゃあ、頂こうかな」

「いょっし!!」


 なんでそんなにお前が嬉しそうなのかわからん。

 美香が両手でガッツポーズとか初めて見たぞ……


 みんなそういうもんなのか?

 兄の彼女とご飯。


 俺がおかしいのか、それとも我が妹がおかしいのか。


「お母さんに連絡入れとこ〜♪」


 高橋がニッコニコなので、まあいいか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る