第23話 視姦
海を泳ぐ美少女。
水平線をも揺らしていると思わせる活発な2人の走りっぷり。
浮き輪でどこまでも漂うスク水先輩。
少女らを見つめ微笑ましい顔をしながら砂の古城を建設するロリータ先生。
「……青春だな」
俺はパラソルの下で太陽に怯えながら本を読む。
男友達が居ればまだ俺も混ざっていても問題はなかったかもしれない。
だが、生憎お友達とやらは俺にはいない。
さらに言えば、友達が居たとしても
この場で男一人というのは非常に肩身が狭い。
本を読んでいるのは彼女らの曲線美や揺れを見ないですませる為の都合であり行為でしかない。
「吉村さんは、泳がなくていいのですか?」
ビーチチェアで豊満なボディを太陽に晒し、サングラスを掛けて彼女らを見ている一条叶葉。
一条の手元にはご丁寧にトロピカルジュースを用意している。
「わざわざここまで来て泳がないってのは贅沢でいいだろ?」
「確かに贅沢かもしれませんね」
俺も喉が乾いたのでクーラーボックスからジュースを取り出す。
飲み物や食べ物は持ち込みも可能だが、レンタルのオプションとして付けてある為、別荘の物は自由に飲み食いしてもいいらしい。
「一条こそ、川崎とイチャイチャしないのか?」
個人的には近くに一条が居るのが落ち着かない。
できれば川崎たちとくんずほぐれつしに行ってほしい。
「あちらは聖域です。
「……そうか」
無防備な内股をそわそわと擦り寄せながら頬を赤らめるなよ……
「吉村さんこそ、高橋さんとはよいのですか?」
「……」
辻川、アイツが漏らしたのか?
いや、知っているならもっと単刀直入に聞いてくるか。
確信ではないはず。
「よいってのは?」
「吉村さんと高橋さんはお付き合いなされているのではないですか?」
「なんでそう思う?」
「眼を見ればわかりますから」
そう言って一条は微笑んだ。
その瞬間に俺は思った。
こいつはやっぱり特級危険人物だ。
川崎大好き変態お嬢様なだけじゃない。
「私は、人の眼に敏感でして」
「……そんなに露骨な態度は垂れ流してないはずなんだが」
「コンマ1秒、その瞬間でわかるのです」
超能力かよ。
千里眼とか読心術とか使えるのかこのお嬢様。
「幼少の頃から、人に観られる機会が多かったものですから……」
一条は海を見ながらそう言った。
穏やかな口調の中に、どこか悲しさを感じた。
「婚約者候補の某企業の後継の大人の男性に舐め回すように観られたのは10歳の時でした」
「……ロリコンだな」
「それ以来、私は人の眼に敏感になったのです。そのせいで基本的に男が嫌いになりましたが」
確かに、一条はスタイルもよく成績も一学期の中間・期末で共に1位。
おしとやかで高嶺の花と言われる令嬢だ。
だが、男と話してるところをクラスであまり見た事がない。
寄せ付けない雰囲気というか、纏う空気の差を他人とは違うと思わせるのが上手い、というべきか。
近寄り難いのだ。一条は。
「その割には俺と今こうして話してるのはなぜだ? センシティブな話だろうに」
「貴方は無害。というか怯えて生きている」
「無害?」
「極力人と関わるのを拒み、静かに息を殺してクラスの中にひっそりといた」
全てを見透かしているようで、気持ちが悪い。
「だけど高橋さんが黒に染めてから少し、恵那様と話しているのを見て驚きました」
川崎と学校外でエンカウントしてからクラス内で話し掛けられた時、口角を釣り上げて笑っていない目で会話に参加してきた一条。
あれは怖かった……
「恵那様が「E'z友達」と言っていたのを聞いて納得はしましたが、恵那様に近づく男ですから、私は認識を改めたのです」
「近づいたのは俺じゃなくて、川崎からだぞ。てか、川崎なら誰彼構わず話しかける性格な事くらいはわかるだろうに」
ただでさえ川崎に話し掛けられてビクビクしてたんだ。
俺から愉快に「やぁ川崎」なんて爽やかな顔して近づける訳がない。
「そうして吉村さんを観察した結果が無害。という結論です」
警戒してる相手を含めてこの合宿を企画したのなら頭がイカれてる。
だが今俺がこの場にいるのは無害認定されているからなのだろう。
あるいはこれも含めて観察中か。
この女に駆け引きで勝てる気がしない。
……というか別に、駆け引きなんてするつもりもないんだが。
「無害認定は有難いが、なんか男としてそれはどうなんだ……俺」
「クラスの女性陣が眩しい水着姿を晒しているのに本を片手にパラソルの下で小さくひっそりといる時点で無害です。悪い言い方をすれば甲斐性なし? でしょうか」
顔をこっちに向けて口元で笑うの止めてもらってもいいですかね。
あと同じ女子がそんな言い方はお母さんどうかと思うわよ。
誰がお母さんだよ。
……一条といるとペースが狂う。
「じゃあ、ガン見すればいいのか?」
「恵那様の身体を見たら目を焼きます」
「その言い方だと、他の女子はいいと言うことになるが?」
「貴方は高橋さんをもっと見てあげた方がいいという事です」
「……見たくないわけじゃない」
俺だって男。
興味がない訳じゃない。
「ただ、どこか」
「うしろめたい?」
「……ああ」
「それでも見てあげた方がいいですわよ」
一条は「ふふっ」と笑った。
バカにしたような笑いではない。
「さっきから、チラチラと高橋さんが吉村さんの事を見ていますもの」
そう言われて海を見た。
高橋と目が合って、それから手を振ってきた。
楽しそうに飛び跳ねながら笑う高橋にどうしていいかわからず、俺はとりあえず手を振り返した。
「女子が好きな人の前で水着になるのはかなりの覚悟がいるのです。それなりに見えない努力もしていますし、他の女子に目が行ってしまうのではないかと心配です」
そいえば美奈も前に、「今年こそ水着を!……水着を……」ってお腹とか触りだして元気無くしてた事あったな。
「多少はいやらしい目で高橋さんを見ても、怒ったりはしないと思いますよ? 他の女子の水着姿を見られるよりよっぽど」
不敵に笑う一条。
目を逸らして誤魔化すのが当たり前だった俺は、自分の事しか考えていなかったと反省した。
高橋はいつも、俺をまっすぐに見てくれる。
申し訳ないほどにまっすぐに。
「さて。私は糸崎先生に負けないようなお城建設でも致しますわ。吉村さんはどうぞごゆっくり高橋さんを視姦してあげて下さいまし」
一条は舌を出しておちゃらけて、糸崎先生の所へ優雅に歩いていった。
「……ほんと調子狂うな、あいつ」
俺はそう呟きつつも本を閉じた。
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