第18話 似た者同士
「高橋さん、もう上がりよね。お疲れ様」
「はい! お疲れ様です!」
オーナーの奥さんが事務作業をしている側でわたしは制服を脱いで私服に着替えた。
「そういえば、今日も来てたわね。彼氏君」
「えへへ。そうですね」
「隣にいた人は家族の方なのかしらね? なんか父親というよりは、歳の離れた兄弟みたいな感じだったけど」
「わたしもわかんないんですよね〜。入店した時に「知らない人のフリしてっ!」って言われたんですけど」
吉村が珍しく慌てた感じっていうか、こっそりって感じだったし。
後で説明するって言われてとりあえず何も言わないで飲み込んだけど。
そう思ってスマホを見ると吉村からラインが来ていた。
「あ、やっぱり隣にいた男性、お父さんみたいです」
「結構若い感じしたけどね」
「仲良さそうな感じでしたもんね」
オーナーが言う通り、歳の離れた兄弟って感じ。
わたしもお母さんと似たような感じ。
「それじゃあオーナー。お疲れ様です!」
「ええ。お疲れ様。明日もよろしくね」
「はい!」
そう言ってコンビニを出た。
住宅街であるこの時間帯は静かで好き。
吉村とたまに2人で公園のベンチに座って少しだけお話するのも好き。
本当にただ少し話しただけだけど、一緒に居られて嬉しい。
「……ん?」
公園の側を通りかかると、ベンチに吉村のお父さんが居た。
1人でさっき買ったお酒を飲みながら夜空を見上げている。
……家を追い出された? とか?
吉村がそんな事はしないとは思うけど、なんでいるのかわからない。
吉村からラインが来てるか確認したけどなにもない。
たぶんだけど、さっきの吉村の調子ならお父さんがベンチにいるからとかもラインで言ってきそう。
ベンチでお酒飲んでるけど知らないフリして! とか。
前に話した時に、お父さんは海外赴任してて基本的には家に居ないって言ってたけど、なにがどう関係して今ベンチに座ってお酒飲んでるのか全くわからない。
ただの趣味?
夜のお花見的な感じで1人で飲んでるのかな?
吉村のお父さんという事もあり、わたしには非常に興味のある人物。
わたしのまだ知らない吉村を知れるかもしれない。
そう思って、わたしはベンチに座っているお父さんに声を掛けることにした。
緊張はもちろんするけど、中途半端に初対面は終わっているし、変に意識するには遅すぎた。
「あ、あの。こんばんは。吉村美緑のお父さん、ですよね?」
「ああ。そうだ。君は美緑の彼女さんだろ?」
ほろ酔いな吉村のお父さんはにこやかに答えてくれた。
「でもあんまり夜によく知らないおっさんに話しかけない方がいいぞ。オレが捕まる」
「吉村のお父さんなら大丈夫ですよ。たぶん」
「そうか」
そう答えてお父さんはお酒に口をつけた。
味わいながら夜空を見て、それから名前を聞かれた。
「高橋水望です」
「高橋水望ちゃんか。美緑とはどうだ?」
「仲良くさせていただきます」
それからわたしはお父さんと事の経緯を簡単に話した。
同じクラスな事。
たまたまコンビニで働き始めて酔っ払ったお客さんに絡まれて困っていた事。
吉村に助けられて好きになった事。
フラれて黒髪にした事。
そして今に至ること。
お父さんは笑って話を聞いてくれた。
「あいつ、弱いくせにそういうのは見過ごせないからなぁ。誰に似たんだか」
そう言ってまた笑って、お酒を
「まあ、よくしてやってくれ。オレも昔はやんちゃしたから、あいつもまたやりかねんし」
吉村も、お父さんも、似た者同士なのだろうと思った。
コンビニでは尊敬の欠片も吉村は見せなかった。
普段の吉村からは、そんな事考えられなくてちょっと驚いたけど、多分吉村も内心では同じだと思っているんじゃないかって思う。
「ふふっ」
反発したいからあんな態度なんだろうなぁと思って、クスッと笑いが漏れてしまった。
「まあ、オレ的には高橋ちゃんに「お義父さん」と呼んでもらえる日を楽しみにしてるぞ」
「っ!! ……」
じゃあそろそろ戻るわ〜とお父さんは立ち上がってフラフラと歩き出した。
「わたし、そのつもりですから」
お父さんは振り返って微笑んだ。
たまに見せる吉村の笑顔とよく似ていた。
「頼んだ」
後ろ手で手を振って帰っていった。
わたしもゆっくりと自宅までの数百メートルを歩いた。
吉村のお父さんと話すのは緊張したけど、吉村の事を知れた。
それが、たまらなく嬉しい。
「……てか、これって花嫁宣言?! ……吉村のお父さんにとはいえ恥ずっ!!」
なんか、吉村に告白した時よりも恥ずかしいんですけど?!
夜道の街頭の寂しさのおかげで、きっと誰にも今の顔を見られてはいないと思い込ませて歩いて帰った。
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