第15話 SNS初心者にグループラインは無理

 それからの残りの学校の日は俺が放送時の機材の使い方を教えながら一学期は終了した。


 生徒たちのほとんどは羽を伸ばしながら夏休みをどうやって謳歌するかを楽しげに話し合っている。


 そんな中、俺は早々に家に帰りだらけていると放送部グループラインが動いた。


 一条叶葉

『というわけで、夏休み合宿を行います』


 ……は?

 なにがというわけで、なのだろうか。

 俺には一切話が来ていない。


 糸崎

『合宿の場所は一条さんが提供してくれるとのことの事なので、詳しい日時の確認をしましょう

(ノシ 'ω')ノシ バンバン』


 糸崎先生も乗り気じゃん……

 てか、まずは参加の有無からじゃないですかね?


 Kawasaki Ena

『まだバイトのシフト出てないんで調整可能っすけど、8/30はLIVEなんで、それまでに帰ってきたいっす(´-ω-`) 』


 ★みなも★

『わたしもえななんと似た感じです(`・ω・´)ゝ 調整は出来そうなので、日程だけわかれば押さえます( ̄▽ ̄)ニヤリッ』


 辻川彩芽

『てか、なんで私もグループ招待されてるの? てかいいの? いや行きたいですけども◝(⁰▿⁰三⁰▿⁰ ‧̣̥̇)◜』


 ……てか、そもそもなんの合宿なんだよ。

 辻川がいるのも訳わからんし。

 グループラインってさ、どうやって会話に入っていけばいいんだ?


 なんか、聞にくい……

 見なかった事には……え、グループラインって既読人数も表示されるの?


 今付いてる既読数とメンバーの数が同じ。

 という事は俺が既読を付けてしまった事もバレているのか……


 ヤバい、逃げ道が無い……


 一条叶葉

『辻川さんは特別です。と言っても、陸上部の兼ね合いもありますから無理にでもとは言いませんが』


 辻川彩芽

『ちょっと確認してくるっε≡≡ヘ( ´Д`)ノ』


 ★みなも★

『吉村は?|ω・)』


 糸崎

『吉村くんはとりあえず大丈夫。先生、吉村くんのお姉ちゃんの先輩だから連絡先知ってるし勝手に押さえるから( *`ω´) ドヤァ』


 ……そうだった。

 糸崎先生、美奈姉ちゃんの先輩だった……


 糸崎

『吉村くんは雑用係として必要なので連行しますのでご心配なく(`・ω・´)ゝ』


 どうやら俺には人権は無いらしい。

 きっと物置小屋に1人で寝泊まりとかさせられるに違いない。


 その後、結局俺は終始グループラインに返事できずに合宿の話は勝手に決まった。

 決まってしまった……


 一体、なんの合宿なのだろうか……

 俺はスマホを放り投げて考える事も諦めた。



 ☆☆☆



 夜21時過ぎ、妹とのジャンケンに負けてチョコミントアイスを買いに来ていた。


 この時間では高橋とはすれ違っているだろうと思っていたが、店内をうろついていると事務所から制服姿の高橋が来た。


「吉村!」

「おう、高橋。お疲れ様」

「うん! お疲れ!」


 俺はチョコミントアイスを2つ、高橋は1つ持ってレジでお会計をした。


 高橋が話したいというのでまた保冷剤を貰い前と同じ公園のベンチに座った。


「てかなんで昼間のグループラインで喋らなかったの?」

「……いや、なんとなく……?」


 チョコミントアイスを頬張って頬を緩ませる高橋が何気に聞いてきた。


「なんかこう、グループラインって苦手でな」

「苦手? なにが?」

「……会話の仕方がわからん」

「なにそれっ」


 子どもっぽく笑いながらもチョコミントアイスを食べ進める高橋。


「ほらあれだろ、例えば高橋との個人ラインなら高橋に話しかけてるってわかるが、グループラインだと誰に対して話しかけてるのかとか、お前に聞いてないしとか思われるんじゃないかと思ったり色々してな」

「吉村気にしすぎ! みんなそんな事思ったりしないよ?」

「……そうかもしれんが」


 そもそも女子しかいないじゃん。

 グループラインですら「女子会」感出てたぞ……

 その中で俺1人で話しかけろと? 絶対無理。


「家族のグループラインとかないの?」

「あるが基本は業務事項だぞ?「晩御飯買ってあるから温めて食べてねー」とか「今日帰り遅い」とか」

「ほんとに業務事項〜。でもほら、中学の時のクラスラインとか、わたしたちのクラスラインとか?」

「高橋、俺はクラスラインに入ってないぞ」

「マ?!」


 高橋は俺たちのクラスラインを開いてメンバー一覧に目を通した。

 だがどこまでスクロールしても俺はいない。


「え、なんで? てか誰も招待してくれなかったの?!」

「されてないし、必要ないなと思ってたから「ラインはやってない」で通してる」

「なんで?!」


 ……いやだってクラスラインとか面倒そうじゃん。

 それに、仲良くする気もなかったしな。


「とりあえず招待しとくね?」

「いや、いい。高橋たちの連絡先だけでいい」


 行事事でクラスラインがひっきりなしにブーブー言っても困る。


 それにどうせ関わり合いはないだろうから。

 気付いた時に通知100件越えとか見たりしたらうんざりしそう。



「別に今まではそれで困った事ないし、高橋から何かあったら聞けばいいし問題がない」

「それはそうだけどさ〜クラス会とかあるじゃん?」

「基本呼ばれないし、まず行ったとしてだ。気まずいテーブル配置に座らされて独りで黙々と飯食うくらいなら家に居たい」


 俺がいるせいでそのテーブルの空気がぎこちなくなるとかいたたまれなさ過ぎだろ……

 しかも金払ってそれとかどんな虐め?


「……うーん。そっか。まあ、じゃあさ。今度また2人でご飯とか食べに行こ?」

「まあ……それなら」

「うん! 約束ね!!」


 そして2人ともチョコミントアイスを食べ終えて家に帰った。


 ……玄関に妹が待ち構えていたのは言うまでもない。

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