第14話 部員

 夏休みまであと少し。


 そんな中でもお昼休みをエンジョイする高橋たち。

 それも、俺が放送室にいるお昼休み。


「ここいいなぁ〜なんか楽だわ」

「秘密基地感あるよね〜」

「私たちだけしか居ないってのがいいよね〜」

「わたくし個人としましては、ティーセットなどもあればよいのですが」


 あの、川崎さん。ソファで寛いでらっしゃいますけども、俺、俺がいるから。勝手に4人だけの空間と勘違いされるとあれだがら。


 てか俺がいないと入れないまである。


「あたし、一応帰宅部だし放送部入っちゃおうかな〜。ギターも触れそうだし」


 ギターなら軽音部の部室で触ればいいのでは? と思うのだが、川崎にとってはここが居心地がいいらしい。


「川崎さんが入部されるのでしたらわたくしもそうしようかしら」


 出たな川崎限界オタク。

 それなりにやることあるんだぞ? これでも。


「どうせならみなもんも入ったら? バイトない日だけなら問題ないわけだし」


 辻川がしれっと高橋も入部するように促した。

 辻川お前、流れで違和感なくアシストしたつもりだろう?


 後々考えると面倒事に発展しかねんから余計な事なんだが……


「……確かに。わたしも好きな曲とかかけたいかも!」

「部員ならティーセットやお菓子なども持ち込めそうですしね」


 ……私物化進めるの止めてもらっていいっすか。

 これ以上増えたら大変なんだが。


「……放送部は今んところ俺と先輩の2人だけだが、部員が増えると面倒な活動増やされかねいぞ? 意味わかるか? 仕事が増える」

「具体的には?」

「面倒な全国高校放送コンテストとかな。部員が増えればその分活動の幅を広げていかないと「お前らなにしてんの?」ってなるだろ」

「今のまんまじゃダメなの? 今でも正式に部として認められてるのに?」

「俺らは2人だけ。だが本来、部として認められている規定人数は5名以上。じゃないと部費が下りないし部室もない」


 だが俺たち放送部は集会や校内行事のサポートという公式な仕事の発注もされる。


 だから2人であるにも関わらず部として公認されている。


 まあ、わりとキツいのも事実だが、2人で回す分の実績としてはそれで十分だ。


「それにあれだ。ウチの顧問は真面目だ。なので部員が増えれば勝手にやる気を出してコンテストなんぞをやりたがる」


 ぶっちゃけちょー面倒。


「なるほど。では顧問の先生を丸め込めばいいのですわね」


 にっこりと微笑む一条お嬢様。

 おい、部活を私物化するために権力使ったりするなよ。


 裏から手を回したりしそうなんだが……

 顧問が暗殺されて新しく赴任してきた先生宛がったりとかしないよな?


 ……やりかねねぇなぁこのお嬢様。

 しかも川崎絡んでるわけだし。


 一条なら川崎の為に国取りのひとつくらいこなしそうな気がする。



 そして翌日。


「正式に入部致しましたわ」


 放送室にはティーセットが置かれていた。

 高橋も川崎も入部したらしい。


「まあ、先生としては女子部員が増えるのは有難いですね」


 そう言ってボブヘアーにロリ体型なのにスーツを着て昼休みに紅茶を啜るのは放送部顧問の糸崎明音いとざき あかね先生。


 おい顧問、完全に紅茶で釣られてんじゃねーか。

 これあれだろ、紅茶飲みに来るどこぞの軽音部のザワちゃん先生だろ。


「でも先生、いいのか? 俺はコンテストとかやりたくないぞ」

「高橋さんも川崎さん一条さんもそれぞれアルバイトや課外活動もあるとの事ですし、普段の活動の割り振りや校内行事のバージョンアップくらいで対応できます。……あ、この紅茶おいし」


 さいですか。


「糸崎先生、焼き菓子もございますの」

「ほんと?! 食べる食べる!」


 真面目だと思っていたのだが、単純に張り切っていただけのようだ。

 どう見ても中学生のような容姿と締まらないスーツ。


 1年生の別クラスの副担任で俺らと同じ年に赴任してきた事を考えると、真面目なわけではなく部活などに精を出したかった類いか。


 だがこうもあっさりと紅茶で釣られるとは思っていなかった。


「あかねんせんせー、ほっぺに着いてますよー」


 高橋が先生の頬をハンカチで拭いた。

 一条もだが、高橋も先生を甘やかしすぎだろ。


「高橋さんありがと〜」

「あかねんせんせー可愛い〜」


 高橋さん、ロリ先生に抱きつくな。

 なんか犯罪臭がする。


 いや、女子同士ならセーフか?

 高橋と先生では姉妹にしか見えん。


 言わずもがな高橋が姉である。

 身長差とかもとくに。あと胸。

 先生、ぺったん……見渡しの良さそうなお胸でらっしゃいますし。


「てかせんせーもE'z好きって知らなかった」

「糸崎先生も重度のE'z好きだぞ。俺がバッグに付けてるファンクラブの小さなストラップを見て勧誘してきやがったからな」

「先生の世代でもファンはそれ相応、たくさんいますが、イチオシのバンドという人は上の世代に比べて少ないですからね」


 しっかり会員カードを携帯している糸崎先生。


「先生にとってE'zは人生。ですからね」

「せんせー、深いっす!」


 川崎と糸崎先生もすっかり意気投合している。

 まあ俺も「E'zは人生」という言葉には同意である。


 放送室の和やかな雰囲気の中、辻川が俺にこっそりサムズアップしてきた。

 してやったぜ! みたいな顔してやがる……






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